| 食事の後、私とクリスはメインストリートを歩いた。 レストランで食べた料理は、どれも私が食べたことのない味のものばかりで あった。 どちらかといえば、味付けは辛め・・・塩辛さとはまた違って、ピリピリとする 辛さ・・・で、独特の香辛料が効いており、食欲をそそった。 驚いたのは、見た目の濃い色ほど味が辛くなってはいなかったことである。 直火で焼くのと油で炒めるのが、主な調理法のようだった。 それはともかく、エマソンの夕食を満喫した私は今、クリスとメインストリート を王宮の方に向かって歩いている。 樹海へ向かうときもそうだったのだけれども、彼女は本当に話し上手だ。 ランプ亭からレストランに入り、そしてここに来るまで、まったく会話が途切れ ないのだ。見知らぬ国に来て、そこでのことを話題にするのだから途切れない のももっともなのかもしれないけれども、彼女の話はとても面白かった。 エマソンの街並みは、来たときと同じように淡い蒼い光に包まれ、こぼれる ように窓辺から咲く色とりどりの花々が、目に鮮やかだった。 ここに着いたときは夕刻、今は夜だけれども、まったく時間が経つのを感じさせ ない。それは恐らく、時の経過を感じさせないこの街の景観のせいなのだろう。 王宮の目の前まで来ると、クリスは左に曲がった。 「これから行くのは、ちょっと特別な場所。・・・・・・私じゃなくて、この国にとって、 だけどね」 少し歩くと、二手に分かれており、片方の道は上り階段になっている。彼女は、 その階段の方を示した。 王宮の周りに人はいるのだけれども、階段の方の道は人数もまばらである。 この先に、いったいなにがあるというのだろう・・・? 道はやがて洞窟へと繋がっていた。 この国に来るときに通った洞窟と同じように、ところどころに明かりが埋め込まれ、 洞窟内を明るく照らしている。いつしか平坦になった道をしばらく歩くと、ついには 開けた場所へと抜けた。 「ここは、この国、エマソンの建国を記念して作られた、広場なの」 先ほど通された王宮の部屋よりも、一回りくらい大きいだろうか。見上げると、天井 は高く、どうやら微細な彫刻が施されているようで、キラキラと小さく輝いていた。 天井から視線を下ろして・・・それで初めて私は、正面の突き当たりに何かの像が あることに気が付いた。 クリスは、その像に案内してくれた。 洞窟の材質とは違い、銀色の像自体は、どうやら普通の鋼鉄製のようだ。 顔と体つきから、モデルとなっているのは青年・・・・・・だろうか。先ほど王宮で会った、 カインと同じように、額の中央少し上のところに一本の角が伸びている。そして青年 の背には、翼が生えていた。その、あまりにもかけ離れている姿に、私は彼・・・・・・ が私たちと同じ人には見えなかった。 その青年は、薄蒼い色の・・・・・・多分、この洞窟と同じ氷でできているのだろう・・・・・・ 抜き身の剣を、右手で掲げるようにして持っている。 「彼は、この国を創った初代の王・・・エマソニルよ。あの像は、エマソニルが亡くなって から後から造られたものだから、造った人が手を加えてエマソニルに翼を付けてしまっ たらしいんだけど・・・それくらい、彼は凄い人だったということよね。ここは、彼をを称え て造られたの」 通りで、ここは特別なわけだ。 広場には、ところどころに花々が植えられ、訪れた人々がくつろげるよう、椅子が 置かれてある。今は夜だから人気がないが、きっと朝や昼には、多くの人が訪 れるのだろう。 ふと、再び私が像を見上げると、何かが光ったように見えた。 ・・・・・・洞窟の光のように淡いものではなく、鋭い光だ。 咄嗟に私は視線を彷徨わせて、その光の元を探した。 ・・・・・・果たしてそれは、剣に埋め込まれた一対の赤い石のものであった。 全体が薄蒼い刀身に、その赤い色は不自然に際立っている。だから、一度そのこと に気が付いてしまうと、無意識のうちに視線がそちらに向いて、その赤い色が気に なってしまっていた。 気になって仕方がなくなった私は、像が持つ剣のことをクリスに訊いた。 「あれは、エマソニルが身につけていたとされている、聖剣よ。彼が王になれた のは、あの剣があったからだとされているわ。・・・・・・もっとも、記録がとても古くて 少ないから、あまり当てにはならないんだけれど」 それでも、エマソニルが初代の王として今でも人々に語り継がれているのは、こ の国の建国に多大な貢献をしたからだと、ランプ亭に帰る道でクリスは話した。 それはどのくらい昔の話なのかと訊くと、今の王・・・それがどうやら、カインのよう なのだけれども・・・が、97代目の王だと教えてくれた。 ・・・なるほど、それは確かに、気の遠くなるような昔の話だった。 ・・・・・・next page >> |