| ランプ亭の中は、表から見えていたよりも広く、涼しげな色彩とは対照的に 心地よい温もりがあった。扉を開けると、やわらかく暖かなオレンジ色の光に、 私は包まれた。 見れば、あちらこちらに大小さまざまな大きさのランプが、置いてある。ランプ の色は、表面のガラスの色によって異なっており、それぞれの光が部屋の中で 混ざり合い、まるで木漏れ日のような温もりを作り出していた。 「いらっしゃいませ。小さな英雄さん」 ランプに見とれていた私は、しばらく声を掛けられたことに気が付かなかった。 受付けのカウンターから声を掛けたのは、このランプ亭を切り盛りしている年配 の女性だった。でもよく見てみると、なんとなく顔つきがクリスに似ているようで ある。首をかしげていると、クリスが、彼女は自分の母親なのだと、照れくさそう に教えてくれた。 その彼女が、私の泊まる部屋を案内してくれた。 部屋は、自分の家の寝室と同じくらいの大きさで、天井から吊り下げられた、花 のつぼみの形のランプが、オレンジ色に部屋の中を照らしていた。部屋の中の 色に合わせているのか、暖色系の色彩のカーテンやベッドカバーが、温かく私 を迎えてくれた。 次の日、ふと目を覚ました私は、時間の感覚がないことに戸惑った。 今は、朝なのだろうか・・・・・・? 窓のカーテンを開けて、それで私は気が付いた。 陽の光が、差し込んでいないのだ。 いつもはそれで目を覚ますのだけれども、今日はそうではなかったので、今が 朝なのかがわからないのだろう。 着替えて身支度を整え終えると、私はそっと部屋を出て階段を下に降りた。 宿の中には、美味しそうな焼きたてのパンの匂いが満ちていた。 今がいったいいつなのかを確認したかったので、人のいそうなキッチンを私は 探した。 いったいどこなのだろうと、カウンターから奥を覗いてみると、エプロン姿の女将 さんがちょうど奥から顔を出したところだった。 「あら、お早う。早いわね、夕べはよく眠れたかしら?」 どうやら、食事の用意をしているようだった。私も挨拶を返して、今は朝なのか どうかを聞いた。 「今は朝よ。・・・ああ、そうね。ここは太陽の光がお昼にならないと差し込まない から、慣れないと朝かどうかは分からないわよね」 笑いならが女将さんはそう言って、私をキッチンへと案内してくれた。 「もうすぐ朝ごはんだから、ちょっとそこで待っててもらえないかしら?」 そこには、4人掛けのテーブルが2つばかり並んでいた。真っ白なクロスの引か れたそのテーブルは木製で、上にはすでに食器が並べられていた。 香りのよいお茶を淹れてくれた女将さんは、テーブルへと私を促した。 ―――そういえば、クリスはどうしたんだろう・・・? ふと思い出した私は、私は、クリスとリオンがどこへ行ったのかを聞いてみた。 「ああ、ごめんね。クリスは朝が苦手だから、まだ多分寝てるわ。リオン様は・・・ ・・・どうかしらねぇ?部屋は出ていないようだけど・・・」 そういえば、リオンは樹海で、クリスのことを知っていると言っていた。女将さん は、リオンのことを詳しく知っているのだろうか? 「リオン様のこと・・・ねぇ。カインのことは、クリスとよく遊んでいたから知って るけど、リオン様のことはよく知らないわねぇ・・・。なんでも、昔はカインととて も仲がよかったみたいだけど」 リオンは確かクリスのことを、親友の幼馴染みだと言っていた。ということは、 その、カインと言う人がリオンの親友ということになるのだけれども・・・・・・ 私には、そのカインと言う人が、昨日出会った国王のカインとは思えなかった。 ・・・多分、別人なのだろう。 「ええ、そう、国王のカインのことよ。」 だからその彼女の答えに、私は驚かされた。 ・・・・・・と同時に、二人が時折見せた、あの悲しそうな表情が思い出された。 「昔はクリスとよく遊んでいたんだけれど・・・。国王と兵士じゃあ、身分が違い すぎるものね」 女将さんもまた、少しさびしそうな顔をしたけれども、食事の用意があまり進ん でいないことに気が付いて、またもとの表情に戻って手を動かし始めた。 ―――親友だったのに、どうして・・・? 訊いてみてから、私は樹海でのリオンの言葉を思い出した。 『私は・・・私がこの剣を手にしたことで、大切な人を守ることができた。 だから、呪いを解くことがここへ来た目的ではない。』 女将さんは言った。 「リオン様は・・・・・・カインの剣を盗んで、国を出て行ったのよ」 そしてちょうどその時、魔剣を携えたリオンが、キッチンへと顔を出したの だった。 ・・・・・・next page >> |