朝食を済ませた後、クリスは私にこれからの予定を聞いた。

「どうする?・・・私は夕方までお勤めがあるから、城に行かなくちゃならない

んだけど・・・。」

さすがに、クリスに付いて行くのは迷惑だと思った。

だから私は、少し迷ってから、街を歩いてみたいと伝えた。

「そう、分かったわ。・・・ご飯だったら、母が用意してくれるから、その時に戻

ってくれば大丈夫よ。・・・じゃあ、私はそろそろ行って来るから」

どうやら急いでいたらしく、彼女はそう言うと、慌しく宿を出て行ってしまった。

「ごめんなさいね、クリスったら、いつもああなんだから」

後片付けをしながら、女将さんが申し訳なさそうにそう呟いた。


―――それにしても、これからどうしよう・・・


クリスにはああ言ったのだけれども、街に出て行っても、ここに戻ってこれる

か自信がなかった。・・・・・・ここは、メインストリートから外れていて、本当に

迷いやすいのだ。

そんなことを考えながらお茶を飲んでいると、隣のテーブルでお茶を飲んでい

たリオンが、立ち上がった。そして、短く女将さんにお礼を言うと、キッチンを

出て行ってしまった。


―――そう言えばリオンは、お城へは行かないのかな・・・?


なんとなく、彼がこれからどうするのかが気になってしまった私は、彼のことを

追いかけてキッチンを出て行った。

リオンは、階段を上りかけていた。

「・・・・・・私はしばらく、ここにいる。君は、ここにいるのか?」

振り返ることもなく、リオンは私にそう訊いた。

突然彼が口を開いたことに驚いたが、私は彼に、そのつもりだと言うことを告げた。

「・・・・・・わかった」

その口調に、いつもと比べて感情が含まれていたことに、私は気が付いた。

でも、それがどういう気持ちなのかは、わからない。

戸惑う私にそれ以上は何も言わず、彼はそのまま部屋へと戻っていってしまった。


 帰り道が不安になった私は、女将さんにこの街の大まかな地図を貰って宿を

出た。・・・勿論、かなり大まかな地図なので、細かいところは行くときに見ておか

なければならないのだけれども・・・・・・

 そして私はメインストリートへと抜けて、そのままお城の方へと歩みを進めてい

た。

・・・・・・ちょうと、太陽が昇ってきたのだろうか。宮殿全体が、上から差し込む強

い光で、キラキラと輝いていた。

この国は、大きな洞窟の中に築かれていて、その天井部に、大きな穴が開いて

いるらしい。だから、陽の光はちょうど太陽が上に上り始めた時から射すのだと、

女将さんは教えてくれた。・・・・・・朝が分からなくなってしまったのは、そのため

なのだ。

そしてもう一つ・・・

何故太陽の光が射すのに、宮殿や家々の氷が解けないのかと私は思っていた。

その私の疑問に、女将さんは笑いながら教えてくれた。


・・・どうやら、私が氷だと思っていた洞窟の壁やこの街の建物は、すべて”石”ら

しいのだ。

ここまで来るのに歩いてきた長い薄青色の洞窟も、今歩いているこの地面も、

目の前の宮殿も。

すべてが、一つの石からできているらしい。

ここは、鉱山で発展してきた国だったのだ。


本当に、世界にはさまざまな国があるのだと、私は思った。


 私は、お城を左手に曲がり、そして階段を上った。

昨夜と違って、広場では多くの人が各々の時間を過ごしていた。

やはり、ここはこの国の人にとって、とても大切な場所なのだろう。

私は、昨日見た石像へと、足を運んだ。

像の周りは、閑散としている。やはり、記念碑の周りでくつろごうと思う人は、少

ないのだろう。・・・・・・いや、一人。


そこに、黒い髪をした青年が一人、こちらを背にして立っていた。

像をじっと見ているようだ。

声を掛けようかと迷っていると、偶然、彼はこちらを振り返った。

「・・・・・・君は、確か昨日の・・・?」

つやのある黒髪に、蒼い双眼。そして・・・・・・額上の、一角。

それは、見間違いでなければ確かに、昨日お城で出会った、カイン・・・・・国王、

その人だった。

・・・・・・でもその彼が、どうして、こんなところに?

戸惑っていると、彼はやわらかく笑った。

「そんなに緊張しなくても、ここでの僕は、国民の一人に過ぎないからね」

そう言えば、着ている衣装が、昨日見たものよりも、質素のような気もした。

「・・・・・・ここは、初めてなんだってね。よかったら、案内しよう」

突然の彼の提案に、私はさらに戸惑うばかりだった。





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