| 笑いながら、彼はまず、目の前の像のこと・・・というよりも、エマソニルのこと を教えてくれた。 どうやら、エマソニルはもともと、傭兵だったようなのだ。 腕は相当よかったようなのだが、それが災いして、彼自身は追われる身とな ってしまったらしい。そしてたどり着いたのが、この洞窟だったようだ。 「彼は、洞窟を探索して、そして小さな村があることを知った。そしてそこで、採 掘の仕事をしながら、暮らすようになったらしい」 そして・・・・・・ ある日、彼がここを掘っていたところで、一振りの剣を見つけたらしい。 それが、この像が掲げている”聖剣”だったのだ。 「もっとも、掘ったばかりのときは、長い石の塊だったようだけど・・・それを、鍛 えて彼は、剣にしたらしい」 その後、この村は敵国に襲われたのだが、その際にエマソニルがこの剣を 使って戦って勝利を収め、そして村に平穏をもたらしたと言われている。 まさにそれは、奇跡にも近い出来事だったらしい。 「その後、彼は村の発展に貢献して、村を街へ、そしてこれほどまでの国にし たらしい。・・・・・・けれども、晩年の彼のことは、何ひとつ伝えられていないん だ。・・・そして、聖剣も姿を消したと言われている」 私は、像の持つ”剣”に視線を移した。身の丈よりも少し短い長さだが、がっし りとした作りのその剣は、とてもではないが片手で持てるような代物には見え なかった。その刀身と柄には、2つの赤い宝玉が埋め込まれてある。 「・・・・・・この像にある翼は、聖剣の力によるものだと言われている」 どうやら、彼はクリスよりももう少し、エマソニルのことに詳しいようだ。 「聖剣を受け継いだ者は皆、形は違くても翼を生やすようになったと言われてい るんだ。・・・・・・度々、聖剣は失われているけどね」 そこでカインは言葉を切って、私を振り返った。 「でも、その剣が、見つかったんだ。・・・本当は、国王である僕が、それを受け 継ぐはずだったんだけど」 カインのその言葉に、私ははっとした。 宿屋での女将さんの話が、私の頭の中で甦った。 『リオン様は・・・・・・カインの剣を盗んで、国を出て行ったのよ』 カインは言葉を続ける。 「・・・いや、結局アイツも戻ってきた。剣も、きっと・・・・・・やっぱり、アイツのことを 信じていて、よかった」 ふと、私はカインに、リオンのことを訊いてみたくなった。 ・・・・・・やはり、リオンはカインの剣を盗んでいったのかということを。 私の質問に、彼は少し悲しそうな顔をした。 「・・・うん。僕の即位式の前日に、ね。国王は剣を継ぐことができる唯一の人 なんだけど・・・でもその前に、彼は持ち出してしまった」 ―――どうして、リオンは貴方の剣を・・・? 彼は、首を横に振って言った。 「分からない。・・・皆は、アイツが剣欲しさに盗んだって言ってるけれど・・・。 僕には、そんな風には思えないんだ。アイツは、誰かを嫉んだりするような奴 じゃない。親友の僕には、わかる」 私は、彼の瞳を見た。 その瞳には、疑いたくないと言う気持ちと、悲しみの気持ちしか、私には見ら れなかった。 ―――カインは、リオンのことを信じたいと思っているみたいだけれども・・・でも、 本当に信じたらいいのかどうか、わからないようだ。 そして、彼を裏切ることへの悲しみの気持ちが・・・。 「おお、ここにいらっしゃいましたか、カイン様」 私たちのその雰囲気を壊したのは、数人の足音と、そして大げさな感じの掛け 声であった。 「探しましたぞ、閣下。何故、下族の者とお話を・・・」 後ろから聞こえたそのあまりの言い様に、私は顔をしかめざるをえなかった。 「・・・失礼ではないか、大臣。樹海の英雄に向かって」 静かではあったが、だが明らかな怒りを含んだ声で、カインは近づいてきた男に 言った。 「おお、これはこれは、樹海の英雄殿でしたか。これは失礼を・・・・・・」 やはり大仰に、男はそう言う。・・・そう言えば、この男は昨日、メインストリートで リオンに声を掛けた男だった。 「それはそうと閣下。今日は午後から会議がございます。見ていただきたい書類 がございますので、宮殿にお戻りくださいませ」 「・・・・・・わかった。戻る」 カインは、すまないと私に侘びると、仕方なさそうに、広場を大臣とともに後にした。 再び一人になってしまった私は、ふと、像を振り返った。 聖剣に埋め込まれた、二つの赤い宝玉・・・・・・。 そう言えば、カインはこの剣を受け継ぐと言っていたけれども・・・・・・リオンの持っ ている剣は、このような形ではなかったはずだ。・・・・・・確かに、赤い宝玉が付い ていることと、リオンが翼を生やしているところが共通しているといえば、している のだけれども。 それに、リオンが持っているのは、呪われている”魔剣”であって、”聖剣”ではな いはずだった。 それに・・・・・・ 樹海で聞いた言葉が、私には気になっていた。 『私は・・・私がこの剣を手にしたことで、大切な人を守ることができた。 だから、呪いを解くことがここへ来た目的ではない。』 もしも、あのリオンの持っている剣がカインの剣だとしたならば・・・ 大切な人とは、いったい誰のことだろう? しかも、リオンは再びこの国に戻ってきた。 ということは、もう、大切な人のことは、守らなくてもいいということなのだろうか? ふと私は、誰かの気配を感じて横を振り返った。 ・・・・・・特異な衣装、頭上に伸びた、一対の角。 フェンリル、だった。 ・・・・・・next page >> |