いつから、ここへ来ていたのだろう?

あのまま、海へ行っていたのではなかったのかしら・・・?


私の言葉を待たずに、彼は私に話しかけた。

「お前は、何のためにここへ来た?」

・・・・・・初めにそれを訊きたいのは、私の方だったのだけれども。

フェンリルは、私のそんな思いも知らずに、話し続ける。

「この国は、珍しい。・・・・・・二つの力が、共存することなく、常に平衡を保っている」

時々そうなのだが、彼の言うことの意味が、私にはわからないことがあった。

「だが、力を前にした時、人は、余りにも無力だ」

杖をつきながら、彼は歩き始める。

「お前は、力が欲しいか・・・・・・?」

彼の言葉は、常に一方向だったが、時には私に問いかけてくる。・・・けれども、私

には答えられないことが多過ぎた。

彼は私の言葉を待たずに、そのまま広場の出口へと歩いていってしまう。追いかけ

ようとは思ったけれども、追いつけるとは思えなかったので、途中で私は足を止めた。


 これからどうしようか・・・・・・

そう思っていた私の脳裏に、再び、リオンの声が甦った。


『私は・・・私がこの剣を手にしたことで、大切な人を守ることができた。

だから、呪いを解くことがここへ来た目的ではない。』



―――訊かなくちゃ・・・。


リオンに、そのことを訊かなくてはならない。

リオンは私に、ここに連れてきて欲しいと言っていた。そのことだけなら、私がもう

ここへ留まる必要はないのだ。

けれども、彼は私に、ここにまだいるかどうかを訊いた・・・・・・多分、確かめたん

だと思う。

私は、彼の力になりたかった。私でよかったら、こんな私の力でよかったら。

メインストリートへと歩き出しながら、私は心の中で、フェンリルに答える。


―――力は、要らないわ。・・・私は、私の力で、誰かを助けたい・・・


そう思いながら洞窟を抜けた先には、昼食時で賑わう、メインストリートがあった。



 地図を頼りに、なんとかランプ亭へと戻ったときには、すでにリオンが昼食を済ま

せた後であった。

「あら、お帰りなさい。お昼は出来てるから、冷めないうちにどうぞ」

リオンはといえば、私を一瞥して階段を上に上って行ってしまったので、私は昼食

を済ませた後、彼の部屋を訪ねてみることにした。


 女将さんの料理は、どれもおいしいものばかりだった。

レストランで食べていたものは味付けがどちらかと言えば辛いものであったが、彼女

の作ってくれるものは、私のように他の土地から来た者にも馴染めるよう、やや薄

く作られていた。こんなにおいしいものを毎日食べられるクリスのことが、私には

羨ましかった。

 食事を終えた私は、女将さんにお礼を言ってまっすぐにリオンの部屋へと向かった。


・・・・・・どうしても、訊いておきたい。


 その思いで来たのだけれども、実際に部屋の前に来てみると、かえって私は緊張

してしまった。

部屋の中からは、物音は聞こえない。

余りにも物静かなので、どこかへ出かけてしまったのではないかとも思えた。

人がいない部屋をノックするのは、なんとなく気まずい気がして、私は右手に握りこ

ぶしを作ったまま、叩くのを躊躇った。


 やっぱり、女将さんに確認をとってからの方がいいのかなとその場でしばらく迷っ

ていると、それをまるで見計らったように、目の前の扉が開いた。


・・・どうやらちょうど、リオンは出掛けるつもりだったらしい。

突然のことで言葉が掛けられずにいた私に、彼は言った。

「話があるのなら、中に入ったらどうだ?」

・・・・・・それで私は、リオンが外に私のいることを知っていて、扉を開けたのだというこ

とに気がついた。





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