リオンの使っていた部屋は、私の泊まっている部屋と同じつくりであった。

用意された小さなテーブルの横の椅子に彼は腰掛けると、もう一脚の方を私に勧

めた。

 テーブルには、彼がいつも腰から下げている剣・・・・・・魔剣が、置いてある。

それで、私はそこに座るのを、少し躊躇った。

「心配は要らない。・・・・・・君には、使えないだろうから」

その彼の言葉の意味が、私にはよく分からなかったけれども、剣の主である彼が

大丈夫と言うのであれば、心配はないだろう・・・と思った。

ぎこちなく、私はリオンと・・・・・・魔剣の前に腰を下ろした。

「何を・・・訊きに来た・・・?」

唐突に、あんなことを訊くのもおかしいと思ったので、私は先ほど、宮殿近くの広

場でカインに会ったことを話した。



・・・カインが、リオンが彼の剣を盗んだと思っていること。

・・・・・・その剣は、聖剣で、国王にしか告ぐことが許されないのだということ。

・・・リオンが、その剣を持ってここへまた戻ってきたと、彼が思っているということ。


・・・・・・・・・そして、カインがリオンのことを、信じているということ。


カインと話したことすべてをリオンに話して、私は彼の反応を待つことにした。


 だけれども、話を聞いた後の彼は、しばらくの間無言だった。

・・・何かを、考えているようだった。


―――リオン?


訊ねた私に、彼は視線を私に向けた。

真っ直ぐな、透明感のある紫の瞳が私に向けられる。


その瞳は、確かに何かを訴えていた。


「・・・・・・私も、彼のことは・・・」

掠れそうなほどに小さな声で、だが確かに、彼はそう言った。

声にはならなくても、彼の意志は、私の心に伝わった。続けて訊く。


―――どうして、ここへ戻ってきたの・・・?私は、何をすればいい?


「・・・・・・君は、君のできることを、すればいい。私は、・・・私のできることをする

ために、ここへ戻ってきた」

彼の瞳が暗く、曇る。

・・・多分、彼にはもっと、私に伝えたいことがあるんだろう。

彼の言葉は片言だったけれども、確かな力を持って響いていた。

それを知りたいのだけれども、・・・残念ながら、私にはどうしても知ることが出来

なかった。

 その時ふと、私の視線は、テーブルの剣へと向いてしまった。

薄蒼い刀身に・・・・・・一対の赤い宝玉。

色のコントラスト自体は、エマソニルがかつて使っていた”聖剣”とよく似ているの

だけれども・・・。


―――リオンの、この剣は・・・


そしてその先を言おうとして、私は思わず言葉を飲み込んだ。

・・・確かに今、一対の宝玉が、私のことを見つめたのだ。


「この剣が、どうかしたのか?」

何も気がつかなかったように、彼はそう聞き返す。


―――・・・この剣は、カインの剣なの・・・?


宝玉を見つめたまま、私はゆっくりとリオンに訊き直した。

傍から見ればそんな私は、剣を睨んでいるように見えたかもしれない。

返答を待つ私に、リオンは切り捨てるように言った。

「・・・・・・君が、・・・君は、それを知る必要は・・・ない」

・・・それはあまりの言い草だったけれども、それが魔剣の言葉だとしたら、もっとも

なのかもしれなかった。

 そしてもう一つ・・・・・・最後に訊きたかったことを訊こうとしたとき、リオンが唐突に

立ち上がった。そして、テーブルの上の魔剣を、腰へと戻す。


・・・どうやら、時間切れ、のようだった。

おそらく、魔剣が私を追い出したがっているのだろう。

「・・・・・・すまない」

剣を戻しながら、彼は私に向かって頭を下げた。・・・それで前髪に隠れてしまった

ので、彼の表情を伺うことはできなかったけれども、その彼の声は、悲しみと寂しさ

に彩られていた。



 彼の部屋のドアを閉めながら、私は思う。

・・・・・・後は、私自身の手で、知りたい答えを探すしかないのだということを。


だから私は、しばらくここに留まることを決めた。





                                     ・・・・・・next page >>







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