| ―――? ふと私は、誰かに名前を呼ばれたような気がして、そちらの方を振り返った。 人垣は、いつの間にか崩れていて、だからその声の主が誰なのかがすぐにわかっ た。 肩が揺れるたびに舞う、束ねられた鮮やかな青い髪が目に入って、私は駆け寄っ てくる彼女の名前を呼んだ。 ―――クリス・・・! 彼女はにっこりと微笑んで、私とリオンを迎えてくれた。 「お城が大騒ぎだったから、駆けつけてきたの。・・・リオン様、よくお戻りになりまし たね。またお会いできて嬉しく思います」 そう言った彼女の言葉は、先ほどの二人とは異なり、再会の喜びに溢れていた。 だが、リオンの方は相変わらずの無表情に戻っていた。目の端に再び、魔剣が映 った。 「宿はもうお取りですか?お城の部屋に戻られないのでしたら、私が手配します」 あの旅立ちの時に聞いた気軽な声とは違って、今の彼女の言葉はとても丁寧で、 だけど少し緊張した色を帯びていた。 「・・・・・・頼む」 リオンはそれだけ言うと、なぜか私の方を振り返った。・・・そういえば、クリスの言 葉は彼に向けられたもので、私に向けられたものではない・・・ということに、その 時ようやく私は気がついた。 リオンにこの街へ連れて行ってくれと頼まれて、それがこうして果たされたのだか ら、私がここに留まる理由は、なくなったのだ。それでも、私がこの街に足を踏み入 れたのは、どうしてだろう。 ・・・・・・リオンに脅されたから? 街の人に取り囲まれて、街を出ることができなかったから? ・・・・・・クリスに会いたかったから? 自分自身にそう訊かれて、私は少しだけ考えた。 けれども、どう考えてみても、答えが増えることはなかった。 ―――私は、私がそうしたいから、ここにいるの。 そして私をそうさせた理由は、たぶん、リオンを助けたいという思い。 彼が自分の身を危険に冒してまで、守ろうとした友人。その人に、会わせてあげ たい。 それが、リオンの負担を一番軽くすることができるのことなのだと、私は思う。 ・・・・・・どうやら私は、傍から見て、途方にくれていたように見えたらしい。 そんなことを考えていると、クリスが私にも宿を取ってくれると言ってくれた。 「ローズ通りのランプ亭に、部屋を2つ取って置くわね。・・・ああ、お金なら私が立 て替えて置くわ」 そう言うと、私が躊躇うよりも、お礼の言葉を告げるよりも早く、彼女は通りの向こ うに消えてしまった。ふとした、けれどもとても大切なことを、私は聞き忘れていた。 ・・・・・・ローズ通りって、いったいどこだろう・・・? それに私は、ひとりでどうすればよいのだろう。 クリスについて行った方が、よかったのではないだろうか。・・・いや、今からでも、 追いかけた方がいいかもしれない。 駆け出そうとした私は、強い力で腕を後ろに引かれて、たたらを踏んでしまった。 振り返れば、リオンが何か言いたそうな表情で、私の左腕を掴んでいた。 ・・・・・・next page >> |