| 全体が赤く、中心部に暗い大小二つの円が重なっている。・・・私のことを、見てい るようだった。 ――何故、退かん そして私は、魔剣の声を聞いた。 ――助けたいから・・・貴方と、話をしたいから ・・・伝わった。 ようやく・・・だが確かに、私の言葉は魔剣に届いた。 瞳がカインの方に動き、そして再び私の目を捕らえる。 私の腕に掛かっていた力が、ふっとなくなった。 攻撃が止まった・・・そう、私は安堵して、構えていた腕を下ろしかけた。 ――力無き者の言うことなど・・・! 魔剣の強い声がはっきりと聞こえ、カインが再び魔剣を振り上げた。 ――え・・・・・・? カインが、リオンが、クリスが・・・それぞれに何かを叫ぶのが聴こえたが、私は どうしていいのか分からず、その場から動くことが出来なかった。 カインが剣を降り下ろすのが早いか、避けるのが・・・いや、避けられない。 咄嗟に私は、グラブの金属部分を向こうに向けて、剣から身を守ろうとした。 目を閉じて、身を硬くした私の顔を、迫る魔剣に煽られた髪が掠める。 ・・・・・・・・パギンッ 何かガラスのようなものが、砕ける澄んだ音が聞こえて、私は閉じていた目を ゆっくりと開けた。 視線の先に、なにかの破片が、ゆっくりと落ちていくのが見えた。 顔の左に、うっすらと冷たい何かがある。・・・・・・私は、恐る恐る庇っていた腕を 下に下ろした。 魔剣が、私の顔のすぐ横で、止まっていた。 カインが、放心したような顔で、私のことを・・・・・・いや、魔剣を見つめている。 いったい何が・・・魔剣に視線を向けてみて、私は何が起きたのかを知った。 刀身にあった紅い宝玉が、砕けていた。・・・多分、私のグラブにぶつかったんだ と思う。 ――カ・・イン・・・? よく見てみれば、彼の背中に生えていた黒い翼が、消えてしまっていた。 彼の左手が、魔剣をゆっくり下ろした。 魔剣・・・の力が、なくなったということなの・・・? カインの戸惑う表情を見て、私はほっとした。・・・もう、魔剣の攻撃は来ない。 安心して姿勢を崩した私は、ざらっとした感触を膝に感じた。・・・紅い宝玉の破片が、 汗で膝に張り付いている。着いていた片膝を上げて、私は破片を叩いて落とした。 ガラスのようにキラキラとしていた紅い破片は、しかし宙に舞い散った。・・・まるで 羽毛のように、それは虚空をふわふわと漂う。 不思議なその光景に、私は思わず見入った。見れば、それらの破片は、下ろした 魔剣の刀身からも、もやもやと立ち上っていた。 ――・・・・・・? 何かがおかしい。 魔剣が壊れた今・・・魔剣の呪縛が解けた今、私達は喜び合えるときが来た。 ずっと、遠く離れていたリオンとカイン。 ようやく、落ち着いて二人は話をすることができるのだ。 ・・・けれど、いったい何だろう。 この虚しさは。 この哀しさは。 この淋しさは―― 心の中に、ひっそりと・・・けれど、確かに。 深々と染み入る冬の寒さのように、それは私の胸に届いてくる。 そしてふと、気がついてみると・・・・・・ 辺りが、薄赤い霧に包まれていることに、私は気がついた。 いったいどうしたんだろう。 リオンは? カインは? クリスたちは? 誰の声も聞こえない・・・・・・。 すぐ目の前にいたはずのカインも、霧の向こうに見えなくなってしまっていた。 私は立ち上がり、辺りを見回した。 本当に、誰の姿も見えなかった。 急に不安になった私は、手探りで近くを歩き回った。いったい、何が起こったの? そしてそこから少し歩いた私は、急に現れた人影に出遭った。 驚いた私は、身構えてその姿を見守る。 ――・・・リオン? 恐る恐る呟いた私の問いに、影が動いた。霧の中から現れたその姿に、私は目を 見開く。 ――・・・・・・貴方は。 額に伸びた一角・・・けれども、カインではない。 彼は、落ち着いた物腰で、静かに私のことを見つめていた。 彼は名乗ろうとはしなかった。・・・・・・もはや、その必要もないから。 「角を持たない者がここに来たのは、君が2人目だ」 低い・・・だがまだ若い声で、彼は言う。 でも、どうして彼がここにいるのかしら・・・。 何故なら・・・・・・彼・・・エマソニルは、もう遥か昔に、魔剣の犠牲となっているのだから。 ・・・・・・next page >> |