・・・・・・そう言えば。

 先ほど聞こえたあの“声”。あの声は、魔剣のものだったのだろうか。

でも、それにしては――

 翻る魔剣の赤い宝玉が動くのが、また見えた気がした。

・・・・・・もしかして。

 ふと、私は思いついた。

 魔剣の声。

・・・・・・冷たく脳裏に響いたあの声。

私が違和感を感じたのは、その声に感情が籠っていたからだ。


――魔剣、は・・・・・

 カインの一撃を、リオンは再び剣で受け流す。


――貴方は、生きているの・・・?


もしも、生きているのなら・・・・・・

話をすることもできるんじゃないのかな・・・。


そう考えて私は、戦い続ける二人に向かい叫んだ。


――どうして、こんなことをするの・・・!


一瞬、クリスが私のほうを振り返って見たが、すぐにカインたちのほうに向き直った。そ

して、隙を伺う。


  貴方は、いったい何をしようとしているの?

 どうしたら、貴方は止まってくれるの?

  いつまで、こんな悲しいことを貴方は続けるの・・・?

    貴方は・・・、悲しくはないの?


 私がいくら声を限りに呼び掛けてみても、魔剣が止まる様子はなかった。

もはや、魔剣の声も聞こえてこない。


・・・・・・どうしたら、いいの?


 クリスたちは、度々カインやリオンの剣を自分達の武器で止めようとしたが、それら

は彼ら二人の手で、武器が届く前に妨げられた。

 何とか、したい。

 私も、力で彼らを止めた方がよいのかしら・・・でも、私よりも強いクリス達にできない

ことが、私にできるというの・・・?


 先ほどの、フェンリルの言葉が、私の頭の中で蘇った。

『お前は、力を望むか?』


 私に力はない。

・・・もしも私に、カインやリオンよりも強い力があったのなら、2人を簡単に止めること

ができるはず・・・。あるいは、魔剣を壊すことだって・・・

 ・・・いや、違う。


 その時ふと、私は気が付いた。


 二人を止めることができても、それは、二人の想いを無視して、無理に押さえるだけ

なのだ。

 魔剣を壊す。・・・それは、一番の方法に違いない。

 けれどもそれでは、魔剣の意志を、壊すことと同じなのだ。きっと、第2、第3の魔剣

を作り出してしまう。それでは、またいつか同じことが起こってしまうのだ・・・。


私は・・・。

 再び、フェンリルの声が私に叱咤する。


『・・・・・・語るだけ、思うだけは容易いことだ』


 私には、力がない。

でも・・・強い力では、今は何も解決できない。

 だから、私は・・・・・・


自分の力で、彼らを助けたい。


 自分にできること・・・いったい、何だろう。

 その時、リオンがカインの一撃を受けて膝を着いた。二人とも、もう息がかなり上が

っている。いつまで、この戦いを続けるというの?

 カインが魔剣を素早く構える。リオンは膝を着いたままだ。今の状態なら、あとカイ

ンが数回剣を振るえば、リオンは負けてしまう。

 クリス達が、カインを止めるために駆け出した。


 次の瞬間、私は驚きに目を丸くした。

カインとリオンが、同時に彼らを横に振り払ったのだ。そして、カインは再び構えたま

ま、リオンの様子を伺っている。


――どうして・・・・・・?


 リオンが立ち上がり、剣を構えると、カインが駆け出して再び剣が打ち付けられる。


カインは・・・リオンを待っていたの?


 カインが剣を構えて息を整えていると、今度はリオンが彼を待っているようだった。

リオンとカインは・・・何をしているのかしら?


 二組の赤い宝玉が、光った。

もしかして二人は・・・剣を通して、話をしているの?

 だから、他の人の邪魔が入らないように、横に突き飛ばしている。魔剣の攻撃から

皆を庇うために、リオンはそうやっているように見えたけれども、魔剣に操られたカイ

ンも同じようにそうするのは、少しおかしい。


 魔剣と話をするには・・・・・・


 その一撃を、受ければいい。



  言葉では、伝わらない、心。



私は、グラブを構えた。


 私には、力がない。

  けれども・・・


 私は、私の力で、魔剣を止めたい。


 私は、駆け出した。

クリスが、何か叫ぶのが聴こえた。

カインの攻撃を受け流したリオンを、突き飛ばすようにして私は、カインの次の一撃を

グラブで受け止めた。

・・・・・・あまりに強い衝撃に、腕の感覚が一瞬なくなった。


――退け、弱き者よ。


 その時、私はあの低い声を聞いた。

カインは、続けて剣を振り回す。私は必死にグラブを翳して、防御の姿勢で応戦した。


 カインの攻撃は、リオンを相手にしていた時と変わって、激しくなっているように感じ

た。剣が私のグラブに当たるたびに、私は魔剣の声を聞いた。


――退け、貴様に用はない。弱き者よ


何度も、声は繰り返す。

 受け止めるので精一杯な私は、なかなか伝えることができない。

 痺れ始めた片腕を庇いながら、私はカインの攻撃を受け続ける。リオンは、私の

したいことに気がついているのか、剣を構えたまま様子を見ているようだ。


 魔剣の言葉の真意は明らかだ。力がなければ、私はこうして魔剣と話をすること

すら許されないのだから・・・・・・

 けれども、それでも。

私がこうしていることの、その心が魔剣に伝われば・・・


 けれども、何度目かの斬撃を受け止めたとき、遂に私は膝を着いてしまった。上

がりきった息が、まったく落ち着かない。

 カインが、泣き出しそうな顔をしながら、再び魔剣を振り下ろした。


――私は、私の力で・・・助けたい。例え、力が弱くても


 私は降り下ろされた剣を、頭上で何とか取り押さえた。

 見上げれば、私のすぐ目の前に、魔剣の刀身に埋め込まれた赤い宝玉がある。

私は、間近にそれを見て、自分の目を疑った。・・・・・・それは、人の瞳に酷く似て

いたから。






                                     ・・・・・・next page >>






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