――そんな・・・!


 思わず、私はカインの方を振り返った。肩で息をしながら、悲しそうな瞳で剣を構える、

国王カインの姿を。

 彼は、叫んだ。

「・・・・・・リオン!」

 彼の構える剣の形は、リオンが持っていたときのものとまるで異なる形をしていた。

・・・・・・いや。

剣にはただ一つ、同じところがあった。


あの、一対の赤い宝玉。


鍔と刀身に一つずつ付いている紅い宝玉だけは、同じであった。

「・・・・・・・・・カイン」

 本当に、この魔剣は、持ち主によって形を変えるのだ。

カインは肩で息をしていた。・・・それは、魔剣が重いからという理由からだけではない

のだろう。

「リオン、どうして・・・」

 その声には、彼の内にある悲しみしか感じられなかった。リオンは静かに言った。

「・・・君を、死なせたくなかった。例え、この国のためであろうとも」

「僕は、・・・君たちを・・・。彼は、この国から君たちを、排除しようとしていた」

 彼というのは、おそらく・・・大臣のこと。

「知っていた。・・・だがそれでも、私は。君が殺されなくて済むなら、それで良かった。

剣がなくても、君は王なのだから」

「・・・でも、カインは正式に王位を継げなかったわ。・・・まさか、それも大臣の!?」

 クリスが、はっと驚いてリオンに問う。彼は静かに頷いた。

「おそらく・・・」


――コロセ。


ふと、私はその声を聞いた。

「リオン・・・・・・僕は」

 カインが、声を喉から振り絞るようにして、叫んだ。

カインの左手が、魔剣を肩の高さまで持ち上げる。


――コロセ。ソノ オトコヲ。メイレイ ダ


低い、確かな響きのその声を。

「僕はっ・・・・・・この手で君を殺めたくなんかない!!」

 カインのその叫びは、むしろ悲鳴に近かった。


――コロセ!!


 カインが、剣を構えたまま、リオンに向かって地を蹴った。

上段に構えたカインの一撃を、リオンは手にした剣で、素早く受け弾いた。その反動

で、カインは後ろに跳んで間合いを取り、再び剣を構える。

・・・・・・その、一対の宝玉の光が、また動いたように見えた。


――いったい、どうしたらいいの?


対するリオンもまた、剣を・・・聖剣のレプリカを、構えた。

その場の空気が、嫌でも張り詰めたものとなっていく――


 互いがためらったのは、一瞬のことだった。

「・・・行くよ、リオン・・・・・・!」

「――手加減は、しない」

 リオンとカイン、二人が同時に地を蹴り、距離を詰める。

夜の澄んだ空気に、激しい金属のぶつかり合う音が、私の身を竦ませた。

その音には、力強さだけでなく、心までもを抉るような鋭さがこもっていたから・・・。


 けれども同時にそれは、ひどく虚しさに溢れていた。

金属の音は、自然の音とは違い、温かみがない。自然のなかに聞こえるどのような音

も、これほどの冷たさを感じさせないだろう。


 戦いの場では・・・・・・エマソニルの生きていた時代は、きっとこの鋭く冴える音が、

この土地の周りのあちらこちらで響いていたに違いない。・・・己を守るために、剣がたく

さん振るわれていたことだろう。

 もしかしたら・・・命を懸けて戦っているからこそ、そういった温もりを感じさせるような

音ではないのかもしれなかった。どれほど、振るう者が想いを籠めようとも、それは空虚

な音に変わってしまうのだ。


「止めて、止めてよ、二人ともっ!!」

 クリスが、カインを止めるため、二人の間に割って入ろうとした。・・・けれどもその彼女を、

リオンが空いていた手で押しやった。

その隙をつくかのように、魔剣が降り下ろされる。


――リオン・・・!


 その一撃を、リオンは刀身で食い止めた。

「邪魔をするな、クリス・・・!」

「僕は、お前まで斬りたくはない!」

 横に転がったクリスは、槍を握り締めてまた体制を整えた。ちらほらと集まって夜勤の衛

兵たちもまた、カインを止めるために隙を伺っている。


――どうしよう・・・・・・、私は。

どうすればいいの?魔剣を止めるには。


 リオンもカインも、力量はほとんど変わらない。

カインは魔剣を持っているけれども、リオンは魔剣のことを彼よりもよく知っている。

リオンの剣の動きは鋭さに欠けているけれども、カインは剣に操られているから、動きは

やや鈍い。


 きっと、どちらか一方を助ければ、この勝敗は決まってしまうだろう。

けれども、いったいどちらを助ければいいと言うの?


 リオンとカイン、二人の剣が再び交差した。






                                    ・・・・・・next page >>






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