私たちは宿の裏に廻り、リオンが走っていったと思われる方を、しらみ潰しに探した。

けれども、路地は幾重にも枝分かれになっており、おまけに二人で探すには、とても範

囲が広すぎた。

 物音を頼りに範囲を狭めて見たけれども、やはりリオンの姿は愚か、黒いローブの者

たちの姿も見られなかった。


 やがて私たちは、街の中心の大通りに出た。

「だめね、二人で探すには無理があるわ」

 クリスは、人通りのすっかり少なくなった大通りを見て言った。

辺りは大分静かになっており、店から漏れてくる暖かな色の灯かりも、今はちららと見

える程度である。時折、店の中から喧騒が聞こえてきたけれども、それが彼らやリオン

の上げたものではないことは明らかだった。


「これからどうしたらいいのかしら・・・」

 ふと、ため息を吐きながら、クリスはそう洩らした。彼女にしては、珍しく元気のない声

だった。それは多分、今まで探し回って疲れたからというわけではないのだろう。

私もまた、クリスと・・・多分・・・同じ気持ちだった。

クリスは、近くの店の表に置かれた椅子に腰掛けた。

「リオン様も、カインも、どうして聖剣にこだわるのかしら…」

 そしてクリスは、彼女が夜勤をしていた2日前の夜・・・真夜中に、広場に向かうリオン

とカインの姿を見たことを話した。

 リオンが宿を開けていたことと、カインと一緒だったことがどうにも気になって、彼女は

勤務を仲間に任せてこっそり後を追ったらしい。

 そして、誰もいない広場で二人が、話しているのを盗み聞きしたようだ。

・・・・・・二人はどんな話をしていたのかしら?

「リオン様がカイン様に、どうしても聖剣が必要なのか、とか、考え直して欲しいとかおっ

しゃっていたわ。カインも、リオン様に、聖剣のある場合を教えて欲しいと言っていたわ」

 カインが幼なじみのせいなのか、クリスは時折カインのことを、名前のみで呼んだ。

・・・二人は言い争っていたのかしら?

私の疑問に、彼女は首を横に振った。

「いいえ、二人とも、とても真剣な様子だったけど、とても落ち着いて話していたわ。だか

ら私も、二人はやっぱり親友のままなんだなって、安心したんだもの」

 二人は、それからどうしたのだろう。きっと、真夜中を選んだということは、人前ではで

きない話をしたかったから・・・そしてその時間は、とても限られていたに違いない。

多分リオンは・・・ずっとその時を待つために、宿を開けていたのだ。それが叶ったので、

今日になってようやく姿を現した。


 私はクリスの隣に座り、これまで調べて分かってきたこと、その一部始終について、

話した。


リオンが樹海で、魔剣の力で縛られて、危うく命を落としそうになったこと。

その魔剣が、私とリオンをエマソンに連れてきたこと。


聖剣について記された、建国当時に書かれた日記を図書館で見つけたこと。

エマソンの国に伝わる聖剣が、本当は魔剣であったということ。


魔剣を手にしたエマソニルは、最後には剣に殺されてしまったということ。


・・・そして、次の国王として魔剣を受け継ぐカインを、魔剣から守るために、リオンは剣

を盗んでエマソンを出て行ったのだろうということ。


 もちろん、最後のことはディーンの日記を読んだ上での、私の推測なのだけれども、

路地裏でのリオンのあの様子を考えると、そこまで間違ってはいないように思えた。


 話を終えると、クリスはなおさら慌てた様子だった。

「ちょっと待って。それって大変なことだわ」

 彼女は身を乗り出すようにして、私に説明してくれた。

「エマソンの長い歴史の中で、聖剣は度々失われてきたの。話では、今の前の王様

も、その前も、そのまた前の国王も、即位式の時には聖剣のレプリカを受け継いだと

されているわ。だから、今ある聖剣もレプリカの可能性が高い・・・けれど、そういえば

前に、バッツ親方が、聖剣の修復の仕事をしたって言っていたことがあったわ」

 私は、ふとバッツさんの話を思い返した。あれは確か、大臣が直接依頼をしに来たの

ではなかっただろうか。私の脳裏を、カインの横に控えていた仰々しい男の顔が霞め

た。

「そう、大臣・・・。もしも、彼が聖剣のことを知っていたなら・・・いいえ、知っているはず

よ。だって彼は、エマソンの誇る歴史研究家だもの」

 ということは、大臣は聖剣が魔剣であることも知っていて、カインに本物の剣を手に

取らせようとしたことになる。・・・それは、いったいどういうことなの?

 クリスは、首を横に振って続ける。

「分からない。でも、魔剣を手にしたリオン様の様子を考えると、何となく、彼が何をしよ

うとしたのか想像できるわ」

 カインを陥れて、カインを魔剣で縛り、そして・・・大臣は何をするつもりなの?


 ふと、私は背後にある城を振り返った。日の光が消えた後でもなお、依然、蒼い輝きを

纏うエマソン城。・・・その扉を開けて出てきたのは・・・。


――リオン・・・!!


 彼は勿論、私たちに気が付くことはなく、足早に左手の緩やかな坂を上って行くのが

見えた。

「どうしたの?」

 一瞬遅れてクリスもまた、城の方を見た。そして、リオンの姿に思わず席を立った。

「リオン様・・・!追いかけましょう」

 彼女に頷き、クリスと私は通りを再び駆け出した。

「カインが王位を継ぐことになって、即位式に使う聖剣がリオン様と一緒に消えてから、

この国は大臣の力で動いてきたわ。大臣が、王の代わりをしていたの」

 私よりも少し前を走りながら、クリスは教えてくれた。

「カインが聖剣を手に入れたら、それで大臣の王としての役目は終わる。・・・でもその

聖剣が、カインを縛り続けて・・・いずれ殺してしまうのだとしたら・・・大臣は王として、国

を治め続けることができるわ。それは、大臣にとってまたとないチャンスになるはず」


 ――つまり、大臣はカインの代わりに国を治めたいということ・・・?


クリスが、前を向きながら頷くのが見えた。

「それしか今は、考えられないわ。・・・大臣が、そこまで野心家だったなんて」

 城の前まで来て、私たちは一呼吸置いた。そして、緩やかに上へと延びる通りを見や

った。ふと、クリスは呟いた。

「・・・でも、どうしてリオン様は、広場に行くのかしら」


――分からない。でも、きっとリオンには、何か考えがあるんじゃないかしら?


 息を整え、やがてクリスと私は、どちらからともなく広場へと続く坂を登り始めた。







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