その日の夕食は、エマソンに来てからこれまでの中でもっとも賑やかなものであっ

た。リオンのこれまでの旅の話や、彼がエマソンを空けているときの出来事などの話

で大いに盛り上がった。いつもと違って話を始めたリオンに初めは戸惑うクリスだった

が、会話が弾むうちにいつもの彼女の調子に・・・もしかすると、いつもよりも楽しそう

かもしれない・・・戻っていた。

 もちろん、魔剣の話については一言もでなかったのだけれども・・・。


 そして、楽しい時間は過ぎていくのが早く、気がついてみれば時刻は夕食時からと

うに過ぎていて、周囲の家々には静けさが戻り始めていた。

 話もその頃にはちょうど落ち着きをみせていたので、私たちは、そろそろ自分たちの

部屋に戻ろうと席を立った。・・・・・・その時だった。


 近くの建物で、ガラスの割れるような大きな音が聞こえた。

 あまりにも唐突だったことと、おまけに近くから音が聞こえたので、私たちは立ち上が

った姿勢もそのままに、互いに互いを目で確認した。

 それからほどなくして、軽い足音が複数聞こえてきたのだ。・・・私たちの、頭上で。

「リオン様・・・!」

 リオンとクリスは、静かに、だが俊敏な動作で階段のところへ移動した。そして、リオ

ンを先頭に、足音を忍ばせて階段を上がっていく。

私と女将さんも、それに倣って少し離れた後ろを付いていった。

 二人は、リオンの部屋の扉を挟んで身構えて、頷いた。そして、リオンが勢い良くそ

の扉を開け放って中へと入る。

 私と女将さんも、少し遅れて中へと入った。その時、ほんの一瞬、黒っぽい布の端が、

割れた窓の外を下へ落ちていくのが目に入った。リオンとクリスが、その窓に詰めてい

る。


 ・・・けれども、特に部屋が荒らされた様子はなかった。

「リオン様、彼らはいったい・・・?」

 クリスの言葉から考えると、どうやらこの窓から飛び降りて、何者かが逃げていったら

しい。すると、先ほど一瞬見えた布のようなものは、その何者かが身に着けていたもの

なのだろう。けれども、いったい何故この部屋に?


 窓の下はそう広くは無い路地であったが、昼間と違い今は暗くてそこを通る人も、ここ

からではよく見えなかった。リオンは、その先の方を、暗い顔で見つめていた。

「クリス。彼女を、頼む――」

 何かを決心したかのような強い口調で、リオンは告げた。そして、彼は割れた窓から

身を躍らせた。

「・・・リオン様っ!?」

 クリスと私は、思わず窓から身を乗り出した。彼は真下の路地に見事に着地をすると、

こちらを振り返ることなく、そのまま駆け出していってしまった。・・・多分、何者かを追って

いったのだと思う。


「ねぇ、リオン様は、自分の剣を持って行かれたかしら・・・?」

 ふと、女将さんの声が後ろで聞こえて、私とクリスはそちらを向いた。

指差す女将さんこ前には、サイドテーブルがあった。確かそこには、リオンの魔剣が置

いてあったはずだったけれど、今は何もない。そういえば、リオンは剣を持っていたかし

ら・・・?

「リオン様は、剣なんて持ってなかった。それどころじゃなかったもの」

 ではなぜ、今ここにあの剣がないのかしら・・・。

・・・あの、何者かが、盗っていった?

「彼らが盗っていったと考えるのがよさそうね。それなら、リオン様が出ていかれた理由

も分かるわ」

 もしもそれが本当ならば、いったい誰が、なんのために・・・?

そして私は、先ほどの路地裏での出来事を思い出した。あの、黒っぽいローブの人た

ち・・・。

 聖剣を探しているようだった。そしてリオンが現れて、早々に姿を消した。


・・・・・。


 私は、勘違いをしていたのかもしれない。

あの時、私はてっきり、リオンの騎士団長という立場と、強さに圧倒されて、彼らがその

場を退いたと思っていた。


 けれども・・・。

もしもあれが、彼が剣を持っていなかったから、これ以上私たちを追求する必要がなく

なって消えた、ということなのだとしたら・・・。

 恐らく窓から飛び降りて行ったのも、彼らなのではないかしら。

そう考えてみると、私にはそれがもっともらしく思えてしまい、何やら気分が落ち着かな

かった。

 私は、剣を探して部屋の中を忙しなく歩き回るクリスに、バッツさんの工房を出てから

のことを話した。

その話には、クリスも女将さんも驚いていた。

「・・・でも、ということは、リオン様の持っていた剣が聖剣だった、ていうこと?まさか、

カインのものを、リオン様が盗んだなんて・・・信じられない」

 クリスの衝撃は、別のところにもあったようだ。彼女は、軽く頭を振って、言った。

「私、リオン様を探してくる。どうしてカイン・・・様の剣を持っていたのはも気になるけど、

それをまた取り返しに行くのも気になるわ。・・・きっと、リオン様には何か考えがあるん

だと思うの」

 クリスの言葉に、私は先を話そうかどうしようか躊躇った。

私が知っていることは、あくまでディーンの日記のことだけであって、リオンが実際のと

ころどう考えていたのかについては、私の想像でしかないからだ。

 クリスは、私を振り返った。

「・・・貴女も、来るでしょ?」

 私は、頷いて答えた。・・・リオンを・・・それにカインやクリスを、このまま放って置くわ

けにはいかなかった。

「母さん、私、行ってくるわ。留守をお願い」

「夜は更けたわ。気をつけるのよ、二人とも」

 私とクリスは互いに頷きあうと、武器を身につけて宿の外へと飛び出した。






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