「いつものように、武器の鍛錬の仕事をお城に聞きに行ったら、なんとその日は

大臣がお見栄でよぉ。滅多にお目にかかるような人じゃないから、緊張しちまっ

てな。・・・で、この俺に、大臣は錆びた剣を見せて鍛錬を頼んだんだが・・・何しろ、

相手が大臣なもんだから、何にも考えずに、気がついたらその仕事を引き受けち

まってたんだ」

 苦笑いを浮かべながら、彼はそう告白する。なるほど、確かに、大臣という偉い

人に直接頼まれてしまったら、簡単に断ることは出来ないだろう。

「で、話を詳しく聞いてみたら、それが伝説の聖剣で、なんとカイン様が受け継ぐっ

て話でな。それから仕事が終わるまで、俺はもう、まったく食事が喉を通らなかった

さ」

 私は彼に、聖剣とはどういう物なのかを聞いてみた。

「形は・・・・・・ああ、あの広場にある、エマソニル様の像が持っているのと同じだっ

たかなぁ・・・。そうだ、今でもよく覚えていることがある。刀身と柄の部分に赤い

宝玉が二つ、埋め込まれていたな」


――赤い、宝玉・・・。


 心の中で、もやもやと立ち込めていた黒い霧のようなものが、ここにきて一気に

その濃さを増したような気がした。なんだかとても、心地が悪かった。


 バッツさんは続けた。

「剣を鍛えるには、どうしても剣を火に近づけなきゃならないんだが、柄はいいと

して、刀身にも宝玉があるだろう?・・・あれを初めて火に翳したときの緊張と言

ったら、なかったなぁ」


・・・そして、バッツさんは無事に剣を直して、城の大臣に届けたらしい。その時の

様子を、彼は照れながら誇らしげに話してくれた。


 確かに、それは大層喜ぶべきことだろう。伝説の剣を直したという腕前は、きっ

とこの先、彼の子供もや、そのまた子供にも語り継がれていくに違いない。

 ・・・けれども、彼は嬉しそうだったのに、私は逆にとても嫌な・・・不安な思いでいっ

ぱいで、溢れそうだった。この気持ちを早く・・・誰かに、相談したかった。

「そういえば、もうこんな時間だな。あんまり長居させちまうと、クリスに後で文句を

言われちまうからな」

 そういえば、宿を飛び出してしまってから随分と時間が経っているような気がした。

親方はどうやらそのことを気にしているようだけれども、私は別に迷惑ではなかっ

たし、もともと聖剣について教えて欲しいと言い出したのは私だ。

だから、そのことは気にしないでほしい・・・と言うと、バッツさんはやはり豪快に笑った。


 帰り際、私はもう一度、樹海の秘宝のお礼を言った。彼は、この仕事をやり遂げ

たことが本当に嬉しいらしく、やはり照れ笑いをして私を戸口まで見送ってくれた。

・・・と、そこにきて、彼は何かを思い出したらしく、工房の扉を閉めようとした私は呼

び止められた。

「そういえば、ずっと前に師匠から聞いた話があってな。・・・嘘か真か知らねぇが、

聖剣は持ち主によって形を変えるって話だ。まさか、本当に形が変わるわけがない

だろうから、鍛冶が打ち直すたびに形が微妙に変わっちまって、今に至っちゃもとの

形は誰も知らないって話なんだろうけどもよ」

 そのバッツさんの言葉が、ディーンの日記の記述と繋がった。だから私は、複雑

な気持ちで工房を後にすることになった。



 外に出てすぐのところで、私は誰かの静かな声に足を止めた。

「――これから、帰りか?」

 驚いて声のした辺りを探してみると・・・そこに、フェンリルがいた。彼は、そのまま

私に背を向けて歩き出した。

「・・・・・・今日は血の臭いがする。あまり、外に出ない方がいい」

 不吉なその言葉の意味を訊こうとしたけれども、やはり彼の姿はすぐに消えてし

まっていた。


 それから宿に向かって歩いて少しして、私は、足音に気がついた。それも、一つ

ではなく、複数の・・・。

 落ち着いて考えてみると、バッツさんの工房を出て間もなくのことだったような気が

した。・・・・・・きっとそこからずっと、私の後ろを歩いている。


 私は、何となく、このまま宿に戻ってはいけないような気がして、宿への道を、わざ

と逸れて脇道に入った。・・・それは、通ったことのない、道だったのだけれども。


 足音は、脇道に入ってからも続いていた。何だか気味が悪くなった私は、少し歩調

を早めて・・・多分・・・表通りに向かって、歩いた。

私が歩調を早めると、後ろの足音も少し早まったようだった。後ろを確かめてみた方が

良かったのだけれど、私はとても怖くなって出来なかった。


 しばらく、そんな追いかけっこを私は続けた。けれども、どうやら私は罠に填まってし

まったらしい。・・・表通りに向かっていたつもりが、いつしか狭い路地裏に入り込んで

しまっていたのだ。


・・・・・・しかも悪いことにそこは、行き止まりだった。


 周囲に並んだ建物はみな裏側で、人が通りそうにもない。・・・私はそこに来てよう

やく、背後を振り返えることができた。


 路地への入り口のところに、暗い色のローブを目深に被った人たちが6、7人ほど、

立って・・・多分、私のことを見て・・・いた。

 辺りの光源は、家の窓から漏れる光だけで、彼らが何者なのか、姿がよく見えな

い。広場への出入り口を固めたまま、無言でこちらを凝視しているようだった。何をす

るつもりなのかわからないけれど、彼らの纏う空気と言い、とても気味が悪かった。






                                    ・・・・・・next page >>






[Back]          [Top]