『氷の月、6の日

どうすれば、私はエマソニルを魔剣から助けることができるのだろう。剣を引き離そ

うとすればするほど、苦しんでいるようにも見える。・・・エマソニルの苦しみを、私も

分かち合えたらどんなによいことか』


 どうやらエマソニルは、魔剣によって苦しんでいたようであった。

ふと、私は思う。


――魔剣による苦しみから誰かを助けるために、リオンは剣を盗んでいったと言うこ

となのかしら・・・・・・?


 でも、いったい誰のために・・・・・・?


『氷の月、10の日

私は、友を助けるために明日、賭けに出ようと思う。・・・私の力で、魔剣を壊すことが

出来ればいいのだが。』


――そうか、剣を壊してしまえば、エマソニルは苦しみから解放されるはず・・・。

ディーンは、いったいどうやって、魔剣を壊そうというのかしら?


 次の日記の日付は、それから20日後になっていた。・・・いったいどうしてこんなに

時間が空いたのかと不思議に思ったけれども、その答えは続きを読んですぐに分かっ

た。


『氷の月、30の日

 魔剣を、壊すことができなかった自分が悔しい。そして、結局は友に辛い思いを

させることになってしまったことが、申し訳ない。

 私が怪我で動けない間に、エマソニルは魔剣で死のうとしたらしい。まだ完治し

てはいないが、明日、彼を説得に行きたいと思う。』


――どうやら、彼は魔剣を壊すことに失敗したらしい。

けれども・・・・・・怪我をしてしまったということは、エマソニルと戦ったということなのか

しら・・・。

だとしたら、それはエマソニルにとっても辛いことだっただろうし、またディーンにと

っても苦渋の選択だったはず・・・。


 そして、ディーンは負けてしまったのだ。


 それはそうと、一番気になるのは、最後の記述だ。

・・・エマソニルは、自分で自分を殺そうとしたという。


 エマソニルの苦しみ・・・どれほどのものかは、私には到底分からないのだけれど

・・・と、リオンの背負っている苦しみが、私の中で重なった。


 そして、樹海で、ここに来るまでの旅の途中で時折見た、リオンの苦しみに耐え

るような横顔が、エマソニルの像の横顔と僅かに重なった。


 彼は、いったい誰の代わりに魔剣を手に取ったのだろう?


『水の月、1日

 私は・・・・・・ついに、エマソニルを助けることができなかった。私が辿り着いたとき、

彼は自室で、魔剣を手に息絶えていた。

悔しい。そして、彼を死に追いやった魔剣が恨めしい。

 私は、建設中のエマソニルの像に、この魔剣を持たせることにした。この剣によ

る悲劇を、繰り返させないために。

 そして願わくば、この日記を国に伝えていきたいと思う。その為に、私はこれを

信頼できるものに託すつもりだ』


・・・・・・日記は、空白の頁をいく枚か残して、唐突にそこで終わっていた。


 リオンは、この日記を読んで、大切な人を魔剣から守った・・・いや、今でも、守っ

ているのだ。


――でも、どうしてあの剣が魔剣だと分かったのかしら?


 その答えは、たぶんこの日記を全て読めば分かるのだろう。


 そして私は、はっとした。

この本は、リオンが来たら渡さなければならないのだ。・・・リオンが・・・・・・いや、

魔剣が、私がこれ以上この日記を読むことを許してくれるだろうか。


 タイムリミットは、彼が宿に戻ってくるまで。・・・でも、時間はもうすぐ夕食時。

彼は帰ってくるに違いないし、女将さんやクリスも、私が食堂に降りてくるのを待つ

ことだろう。


――どうしよう・・・。


 それから、私は急いで関係のありそうなところを探してみたけれども、どうにも

集中はできなかったし、それから間もなく、クリスが私を夕食に呼びに来た。

 仕方なしに私は夕食を食べに、食堂に降りていき、食べているときも彼が来ない

かと気が気ではなかった。


・・・・・・けれども結局のところ、それまでの心配はまったくの杞憂に終わってしまった。


 結局、夕食時にも朝食時にも姿を見せなかったリオンに、心配した女将さんと私は

リオンの部屋のドアを開けて目の当たりにする。


・・・・・・リオンの、しばらく宿を開けるという置き手紙と、テーブルの上に残された一

振りの魔剣を。





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