彼女は、私にまだ図書館にいるつもりかどうかを聞いた。

・・・これ以上、特に調べられることもなかった私は首を横に降ると、退室の手続きを

するので着いてくるように指示をされた。

 ・・・彼女は、リオンの借り忘れた本を持ったまま、私と図書館を後にする。


 ふと、私は思い付いて、前を歩く彼女に提案する。・・・自分はリオンと同じ宿にいる

ので、もしも良ければその本を届けられる、と。

「あら、そう?じゃあ、頼むわ」

 てっきり断られると思っていたけれども、何故か彼女はすんなり、私に日記帳を差し

出した。・・・書庫の中には入れないのに、代理とはいえ、中の本は持っていっても

よいというのは、どこか可笑しな話だ。


・・・不思議に思いながらも、私は受け取った本を袋に仕舞うと、手続きを済ませて

城を後にした。


 宿に戻ったのは、時間で言えば夕方頃だった。・・・どうやら、随分長居をしてしま

ったらしい。

 そういえば、お腹も空いてきていた。


 もうすっかり自宅のように居心地のよくなってしまった宿に戻ると、女将さんがダイニ

ングから顔を出した。

「調べものは見つかったかしら?」

 私は、残念ながら・・・と首を横に降り、リオンの所在を訊いた。

「リオン様・・・?まだ、宿には戻られてはいないと思うけど」

 ということは、まだリオンはお城にいるのかもしれなかった。・・・勝手に本を持ち出

して、悪いことをしたように思い、私は心の中で少し反省する。

・・・どうも、私はお節介な性格らしい。

「夕御飯はまだだけど、パイを焼いたから、お腹が空いていたらどうぞ」

 女将さんはそう言って、まだほんのりと温かいフルーツパイと煎れたてのお茶を部屋

に持ってきてくれた。


・・・何も言っていないのに、私の顔を見ただけで空腹が分かってしまうなんて、女将

さんはやっぱりすごいと思う。


 部屋でくつろぎながら、私はパイを口に運んだ。・・・甘酸っぱい香りが口に広がって、

疲れていた心に、じんわりと安らぎが染み入ってくるようだった。一緒に淹れてあるお

茶の香りと合わせると、このハーモニーは完璧だった。


 パイを食べ終えて一息ついた私は、リオンの代わりに借りてきた本のことを思い出し

た。床に置いていた革袋を取り上げて中を漁った。


・・・・・・日記帳。


「ディーンの日記」

――・・・いったい、ディーンとは何者だろう。どうしてこんな本を、リオンは読んでいた

のかしら。

 私は、表紙をめくってみた。

・・・中表紙を挟んで二枚目の頁の真ん中には、手書きの綺麗な・・・・・・私でも読むこと

の出来る言葉で、何かが綴られている。


『今日のこの日を記念して、私は日記を付けることにする。新たなこの国と、我が友エ

マソニルに祝福を』


・・・どうやら、ディーンという人は、エマソニルの友人らしい。けれども、先ほど図書館

で調べたエマソニルについての資料に、その人の名前はなかったはずだった。


 ぱらぱらと頁をめくって、私はディーンの日記を飛ばし読みする。


『聖剣の力はすごい。たったの一振りで、5人の敵を地に這わせてしまう。これならば、

この国も安泰かもしれない』


『東の敵国に勝利してから、益々国民が増えたような気がする。私たちの理想が、少

しずつ前に近付いているのを、日々実感する』


 日記帳には、エマソニルとディーンたちの戦いの様子が、端的に、だが淀みなく書き

込まれていた。決して感情的な描写ではなく、明白な事実だけが読み取れる文体・・・

・・・けれども、これはこれで、また違った緊張感を感じさせる。


 そしてこの日記から読み取れる、もっとも明らかなことは・・・

このエマソンが今日あるのは、彼らの努力の賜物だということだった。

 日記は、同じような大きさの・・・どちらかといえば、小さな文字で、流れるように記さ

れていた。


『エマソニルの様子が、最近どうもおかしい。口数が少なく、何かを考え込むようにして

いる時間が長くなったように思う。』


 その記述を見つけたのは、半分ほど頁を進んだところだった。

そこからさらに私は、頁を飛ばした。


『…まるで、魔剣が放つ邪気に、エマソニルが縛り付けられているかのようだった』


――魔剣。


 日記帳の後ろの方にきて、私は魔剣という言葉を見つけた。それまで見てきた・・・

日記の前の方では、まったく書かれていなかった言葉だった。


――・・・いつからこの言葉は、この日記に出てきたのかしら。


私は、そのまま、続きを読んでみた。





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