女将さん・・・クリスの母親・・・に用意してもらった早めの昼食を済ませると、私

は早速城へと向かった。

 昼下がりの街は、やはりどこも人で賑わっており、楽しげな雰囲気だ。

特に、すでに何度が通っているメインストリートは、いつ歩いてもつい気持ちが弾

んでしまう。至る所から、鼻をくすぐる匂いが立ち込めていれば、それは尚更のことで

あった。

 陽が真上に昇り、街全体を照らすようになった頃、私は城の門の前に辿り着いた。

まだこの街に慣れていない私は、ここまできてようやく安心して、広げていた地図をポ

ケットにしまうことができた。

 お城はまるで、光の柱でできているかのようだった。窓枠や柱の彫刻の、その細部

に至るまで光が届き、鉱物特有の冷色を温もりを含んだ色彩に変えて、そこから街

全体を包み込んでいる。お城と言う、厳かな空気の流れる場所が、この時間だけ緊

張を解いて穏やかな・・・けれども気品は失わないままの・・・空気に変わっていた。



 その柔らかな光の中で、クリスが私を待っていた。


 図書館までは、途中までクリスが案内をしてくれたけれど・・・思ったよりも、手続

きに時間が掛かってしまったらしい・・・それから先は、受付の人が案内してくれた。

 長い黒い髪を後ろで一つにまとめた彼女も、やはり額の上に角を持っている人だ

った。クリスよりも背が高く、すらっとした容姿のせいもあるのかもしれないけれど、

その彼女の私を見下ろすような視線が、私にはどうにも心地悪かった。


 彼女は私を図書館に連れてくると、帰る時にまた受付に寄るようにとだけ告げて

、もと来た廊下を戻っていった。


――図書館。

 私は入り口すぐのところで、言葉を無くしていた。

目の前には、整然と等間隔に大きな本棚が並んでいる。上の方の段は、梯子を使わ

なければ私の背ではとても届かないだろう。

 カインの部屋に行った時には気がつかなかったのだけれども、どうやらこの城は

一階当たりの高さが随分高いらしい。部屋の奥までよく見てみれば、その高い壁一

面までが、本で埋めつくされていた。


――いったい、ここにはどれほどの本があるのかしら。

 本を目で追って棚の最上段を見上げると、まるで自分が急に小さくなった・・・もと

もと背は高くないけれども・・・ような気分になった。

図書館自体は一階分だけのフロアらしい。

 部屋全体が暗く、他の部屋と何かが違うと私は感じた。その答えは、中を歩いて

すぐに分かった。

・・・・・・この場所だけ、光源がランプだったことと、音がないことだ。

宿のランプを少し大きくしたような、華やかな形のランプが高い天井から吊るされ、

あるいは本棚と本棚の間に置かれてある。それが、不自然にしんとしたこの場所の

空気と相まって、他の部屋とは・・・おそらく、外のどの店とも違う・・・独特の雰囲気を

作り上げていた。

 ひとまず私は、辺りを歩いてみることにした。


 けれども、・・・私は今さらになって気がついた。

――・・・私はどうすればいいのだろう。

考えてみれば、エマソンの人の書く言葉を、私は読むことができない。レストランの

メニューには、見慣れない文字が並んでいたけれど、あの時はクリスがいたから

なんとかなったのだ。

 まさか、今から彼女を呼んでくる訳にもいかない。


――私でも、読める本はないかしら・・・。


仕方なく、私は自分でも読めそうな本のある棚を探して歩いた。

 そしてしばらく歩き回って、ようやく私は自分にも読める言葉で書かれた本のあ

る棚を見つけることができた。図書館の奥の方にある本棚が、私でも読める本を集め

た棚になっていた。その量は、図書館にある本棚全体の四分の一ほどになる。


 取りあえず、私は聖剣とエマソニルに関するタイトルの本を、端から探すことに

した。

 国の歴史が長いせいか、歴史について綴られた書物は多い。エマソニルに関する

資料についても、それは同じだった。

 けれどもどういう訳か、試しに手にとってみた何冊かの本のそのどれにも、聖剣

に関する詳しい記述がなかった。併記されている、エマソニルの人柄や当時のこの

国の様子、敵対する国の情勢、戦いの様子などについては、詳しく本に書かれてい

るのに、剣に関してはごく簡潔に書かれているだけだ。歴史書以外の本棚に、聖剣

に関する何か資料はないかしら・・・


 私は、視点を変えて、取り敢えずは古そうな本を端から探してみることにした。

そして、私でも読める本のある棚の周りを一通りぐるりと回って、図書館の奥にさら

に部屋があることに気がついた。そこには鍵が掛かっていたようだけれども、誰か

が錠前を開けたまま中にいるらしく、中途半端に開いた扉から光が漏れていた。


――いったい何があるのかしら・・・?


 好奇心に駆られるままに、私はそっと扉を開けて中を見てみた。





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