親方さん・・・・・・バッツさん、というらしい・・・の工房を出た私は、クリスと肩を並べ

ながら、宿へと戻った。・・・本当のことを言うと、私はバッツさんの仕事の様子を見

てみたかったのだけれども。


 宿に戻ってから、私はクリスをダイニングへと誘った。・・・どうしても、”聖剣”と”魔剣”

についての話を聞いておきたかったのだ。

「え、聖剣のこと・・・?」

 席に着くと、クリスがテーブルのポットから、お茶を淹れてくれた。彼女は、少し首を

傾げてから、聖剣についてこう話してくれた。

「私も、あんまり詳しいことは知らないんだけど・・・初代国王、エマソニルがこの地で

手にした剣で、不思議な力を持っていたそうよ。剣は代々、王が受け継ぐことになっ

ていて、即位式の際に王冠の代わりとして授けられるわ」

 ここまでの話は、ほとんどカインから聞いたのと同じような内容だった。


それでは、即位式の前にリオンが持ち出したということは、カインは王になれなかった

ということなのかしら・・・?

 ふと、私の脳裏にカインの辛そうな表情が浮かんだ。


信じたいと言う思いと、疑いの気持ちを捨てきれない思いとの、そのせめぎあい。

それは、今まで自分の近くにいた人ほど、激しい葛藤となって、自身を苦しめることだ

ろう。


「そうね、正式な即位式はまだ行っていないけど、でも先代の王が亡くなられている

から、カインが王であることには間違いないわ。現に今、彼は王として国を動かして

いるわけだし」

 そもそも、リオンが聖剣を持っていないことを証明できれば、リオンの疑いと、カイン

の気持ちを晴らすことができるのだ。


・・・リオンにもう一度近づければ、見つけることができないだろうか。


そう考えて、私は、聖剣というものがどういうものなのか知らないことに気がついた。

 私は、聖剣についてもっと詳しいことをクリスに訊いてみることにした。

「聖剣のこと・・・ごめんなさい、詳しいことは私もよく分からないの。何しろ、半分は

伝説として語り継がれていることだから。実際に、剣がどういうものなのか・・・エマソ

ニル以外の王が、聖剣で何かをしたっていう話も聞いたことがないし・・・私たち国民

も、ほとんど国の象徴として捉えていたから」

 それでは、聖剣は国王の証としてだけのものということなのかしら・・・。

カインは確か、剣で勝利を収めたと言っていた。

「実際のところ、剣の力でエマソニル様が王になれたのか、エマソニルが持っていた

剣が聖剣と呼ばれるようになったのかは、分からないわ。その辺りの史実は、ほとん

ど伝説と重なってしまっていて真相性に欠けるのよ」


 それでは、と私はもう一つの剣についてをクリスに訊いてみた。

「・・・え?”魔剣”?・・・まあ、聖剣というものがあるなら、魔剣というものも存在する

のかもしれないけど。でも、どこでそんな話を?」


 ・・・・・・クリスの反応からすると、どうやらこちらも外れのようであった。

どうやらエマソンでは、”魔剣”そのものが有名な話ではないらしい。

・・・国の軍隊長であるリオンの持つ剣が魔剣であったならば、その部下であるクリ

スがそのことを知らないはずがなかった。


 では、どこでリオンはあんな剣を・・・・・・?


「・・・そうね、もしも興味があるなら、お城の図書館に行けば何か調べられるかも。

あなたの言う、”魔剣”についても、資料があるかもしれないわ」

 少ない情報に悩んでいた私に、クリスは別の視点からヒントをくれた。


 図書館・・・聞いたことはあったけれども、それがどういうところなのか私はよく知らな

い。人伝いに、たくさんの本が保管されている場所だと言うことくらいしか、情報がなか

った。

 図書館という場所に今まで行ったことがなかった私は、クリスのその一言でそれがど

ういうところなのか、とても興味が沸いてしまった。

 だから、つい勢いで私は、彼女に案内をお願いしていた。


 突然の申し出に、クリスは目を少し丸くした。

・・・落ち着いてよく考えてみれば、それはあまりに唐突過ぎる。

気がついて、綿足はすぐに彼女に詫びた。お城の中など、旅人が簡単に入れるようなと

ころでもないのだから・・・。

 けれども、彼女は首を横に振って笑いながらこう言った。

「ううん、別に私は大丈夫よ。それに貴女だったら、入城を断られることもないだろう

し。・・・でも、どうしてそんなに聖剣について知りたいの?」


 ・・・・・・どうやら、彼女が目を丸くしたのは、私が失礼だったからというわけではない

らしい。

 不思議そうな顔をした彼女に、私は付け加えた。

私はリオンのこともカインのことも心配で、二人がまた元のように仲良くなってもらいた

い。私にできることならば、是非手伝いたいと思っている・・・と。


 それを聞いたクリスは、ふっと笑みを浮かべた。それは何とも言えない柔らかな笑

みで、普段きびきびした様子の彼女しか知らない私は、思わず見とれてしまった。


 それから話し合って、結局、彼女が明日、担当の人に話を通してくれることになり、

勤務外の昼休みに私はお城を訪ねることになった。

 手続きなど、きっと面倒なものに違いないのに、彼女はそんなことは気にもしないで

快諾する。リオンを追って旅を始めたことといい、クリスの行動力には、本当に驚くば

かりだった。もちろん、それが災いしてしまうということもあるのだろうけれども・・・。


 それはともかく、こうして私は、図書館に行くことになった。





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