| 「ああ、樹海の秘宝ね。確かに、このままじゃ持ちにくいわよね」 夕食を済ませてから、私は自分の部屋でクリスと樹海の秘宝を見ていた。 その最中に隣の部屋のドアの開閉音がして、リオンがどこかへ行ったことを知る。 彼女は手にとってしばらく眺めていると、なにかいいことを思いついたのか、 唐突に言った。 「そうね・・・あ、彼なら、何とかしてくれるかな」 ―――彫金師の人なの? 石や金属を加工して、装飾品を作るのは、彫金師と呼ばれる人々だった。 ここに来る途中に寄った街で、そういった人々の開く店をいくつか見ることが あった。このエマソンは大きな国なので、きっと彫金師の人々が多くいるの だろう。 「ううん、彫金師じゃないんだけど・・・知り合いに、鍛冶がいるの。彼、手先も 器用だから、きっとうまく細工をしてくれると思うわ」 鍛冶、と言えば武器を鍛える人々のことだ。確かに、金属の扱いに慣れている のだから、頼むことができるかもしれない。 それに何より私は、鍛冶という職業に興味を持った。 「じゃあ、今からちょっと行ってみる?そんなに遠くはないから」 私は樹海の秘宝を革袋に丁寧に仕舞うと、クリスとともに宿の部屋を後にした。 クリスの言った通り、鍛冶の工房はすぐ近くにあった。 入り口はクリスの宿のそれよりも小さいが、奥・・・つまり作業に使う場所は意外 と広くなっていた。作業場の天井は、熱を放出するためか吹き抜けの造りになっ ていたけれども、中に入った私たちは重たい熱気に出迎えられた。 「こんばんは、親方さん、いる?」 もう夜だと言うのに火の手が奥で上がっているため、その燃え盛る音でなかなか 声が通らない。3度目のクリスの呼びかけに、ようやく呼ばれた当人の返事が返 ってきた。 「おう、クリスか!なんだい、また槍の刃でも欠けたのか?」 強くよく通る声が、炎を裂いて聞こえてきた。そちらを振り返ると、まるで岩のよう に大きくごつごつとした体つきの男が、片手を振りながらやってくるところであった。 着ている物は、おそらく作業服だろう。厚手の布地のエプロンのようなものを前に 掛け、頭にはバンダナ、両手にはやはり分厚く大きな手袋をしている。 ・・・・・・おそらく、背の高さは、私の3倍くらいはあると思う。 「おお、今日は見慣れない顔が一緒だな。誰だい、クリスの娘か?」 大男は、そんな風に笑いながらクリスに訊く。一方クリスの方は、呆れたように 手を振りながら、彼女はね、と先を続けた。 「彼女が、噂の”樹海の英雄”なのよ」 そう言われてしまい、私はそんな大したものではないのだからと恥ずかしさに顔 を下に向けたが、そんな私のことをまじまじと男は見て言った。 「ほぉう!アンタが、あの!そうかい。なりは小さいのに、大きなことをやるんだな、 アンタ」 事実を正確に伝えているとは到底言いがたいのだけれども、樹海の秘宝を私が 持っている以上、否定をすることもできない。私は迷った挙句、事実(の一部)を 認めることにした。 「それで、その英雄さんが、ここにお越しとは、いったい何の用だい?」 「親方の腕を見込んで、作ってもらいたいものがあるのよ」 英雄の頼みのためか、大男はやる気満々の顔で私に迫ってきた。 「おう、それで、何を作ってもらいたいんで?」 クリスに促されて、私は袋から秘宝をそっと取り出した。 「コイツは・・・?」 「”樹海の秘宝”。これを、なんとか身に付けられるように加工して欲しいの」 あっさりと、目の前に出されたものを”樹海の秘宝”と言われたせいか、男は目を 見開いて後ろに尻餅を着きそうになった。 「ひえっ、いきなり脅かすなよ、クリス。しかも、俺にこれを何とかしろっていうの か?壊しちまったらどうするんだよ!?」 ・・・・・・確かに、彼は見た目が大きすぎるので、こう言っては悪いけれども、あまり 細かい作業が得意なようには見えなかった。 「大丈夫よ、親方の腕は昔からよく知ってるつもりだから」 けれどもクリスの方は、この人なら大丈夫との一点張りである。 「そりゃあ、確かにお前は小さい頃から、城の花瓶を落としたり、包丁の刃を直角に 曲げたり、オルゴールの螺旋を巻ききっちまったり、色々してくれたけどよ。それと これとは、話の質が違うじゃねぇか?」 「ちょ・・・そこまで言わなくてもいいでしょ!」 大男の言葉を私に聞かせまいと、クリスは手を上げて男の口元を塞ごうとする。 その様子を見て、私は笑わずにはいられなかった。 「・・・と、とにかく。任せたわよ」 大男はやはり文句を言っていたが、彼女は私を置いて、足早に工房を後にした。 その姿は、男の言葉を背で受け止めないようにしているように、私には見えた。 ・・・・・・next page >> |