・・・優れた人を、目上の人を尊敬するのは、大切なことだと思う。

・・・けれども、種族の違いというただそれだけのことで、それ以外の人を蔑むのは、

何かがおかしいと思った。


種族の違いは、優劣の違いを表すことにはならないはず・・・。

ふと、私はフェンリルの言った言葉を思い出していた。


『この国は、珍しい。・・・・・・二つの力が、共存することなく、常に平衡を保っている』


・・・多分、彼の言う”力”というのは、鬼族と普通の人のことを言っているのだろう。

あのメインストリートのレストランで・・・・・・一見すれば、二つの種族が共存している

ように見えるのだけれども・・・・・・。

確かに、彼らはお互いにお互いを避けているようだった。


―――どうして、お互いに近づくことができないのかしら・・・・・・。


それはとても悲しいことに思えた。


―――近づこうとしていないからなの・・・?


自身の問いに、自身が否と答えた。

多分、近づこうとしている人は、いるのだろう・・・。あの、先ほど路地裏で見た、子供

たちのように。けれども彼らもいつかは、自分の立つ位置を決めてしまう。

・・・・・・クリスやカインのように。


・・・・・・。

そう言えば、リオンはどうだったのだろう?


カインは親友だったということを、リオンは樹海で言っていた。だった、ということは、

国を離れる前からのことなのだろうか・・・・・・それとも、クリスと同じように、子供の

頃のことなのだろうか・・・?


けれども、子供の頃に仲がよかったのなら、クリスのことを「親友の幼馴染み」とは

言わないような気がする・・・



カインの方は、今でも彼のことを親友だと思い、信じたいようだ。

・・・リオンも、きっとそうなんだと思う。


リオンと、カイン。角を持たないものと、持つもの。


・・・・・・彼らは、まだ、自分たちの・・・お互いの位置を、決めかねているのだろうか。


けれどもカインは国王で、リオンは騎士団長。クリスほどではないにしても、気軽に

話せるような立場同士ではないのではないか。


・・・そう言えば、カインは広場で言っていた。

『ここでの僕は、国民の一人に過ぎないからね』


 もしかすると・・・・・・

ふと、私には、リオンとカインが二人で仲良くあの広場のエマソニルの像の前で、話

をしている様子が思い浮かんだ。

リオンの笑顔はあまり想像できなかったのだけれども・・・・・・。

でもきっと、一国民である彼らなら、あの英雄の像の前でお互いの夢や理想を語り

合ったのではないかと、思えてしまう。


 大臣に話しかけられた時のカインが、嫌な顔をしたのは、そういう”位置”を種族

の違いという理由だけで決められたくない・・・・・・あるいは、決めたくないという

思いがあるからなのかもしれない。・・・そして、リオンも、また。



・・・・・・・・・。


 そのような思いを持っていると考えると、ますます私には、リオンの行動が分から

なかった。

 どうして彼は、親友であるカインの剣を盗んでいったのだろう。

そしてそのまま、エマソンを出て行ってしまった。・・・・・・おそらく、カインには何も言

わずに。

 カインの話から、カインが受け継ごうとしていた剣は、とても大切なものなのだ。


『・・・いや、結局アイツも戻ってきた。剣も、きっと・・・・・・やっぱり、アイツのことを

信じていて、よかった』


おそらく、カインはリオンが聖剣を持っていると思っている。

・・・・・・けれども、今ままで一緒に旅をしていた私は、そのような剣を・・・エマソニルの

右手にあった聖剣を、見てはいない。

 ふと、私は女将さんに聞いてみた。

「・・・え?ここに来たときのリオン様の荷物?・・・・・・確か、大きな皮袋が一つだけ

だったわね」


・・・・・・やっぱり、彼はもう聖剣を持っていないんだろう。

でも、じゃあ、どうして彼はここに戻ってきたのかしら・・・?


考え事がしたくなった私は、女将さんが淹れてくれたお茶の入ったカップを片手に、

自室への階段を上っていった。






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