| 3. 「どうしました?ユゥアさん」 「・・・・・・・・そういうことか。ベンスの野郎は、馬鹿じゃないってことか」 おそらくベンスは、この世界が不安定になっていることを知っているはずだ。・・・そして、 自分に位を譲った前王ディルティルスには、世界を作るだけの力と意欲がないことを。残る 王はフェルディアのヘラのみ。 ということは、この世界の神がヘラであることに、王として世界を見てきたベンスは気がつ いている可能性がある。国が消え、ヘラの力が落ちていることを知ったベンス2世は、彼女 から世界を奪うには今が絶好の機会だと考えたのだろう。 「ベンスの狙いは・・・・・・この世界そのものだ」 「世界を・・・?」 相棒の言葉に、オルフは目を細めた。相方の言わんとしていることが理解できなかったこ ともあるが、なにより、ユゥアが何か他に重要なことを知っているような気がしたのだ。 「ユゥアさん・・・・・・何か、ご存知なのですか?」 ユゥアは、それには答えない。ただ、何かを考えているように見えた。 「・・・・・・教えては、いただけないのでしょうか・・・?」 テーブルに置いたグラスの中の氷が、澄んだ音を奏でた。 「――いや。俺は相棒を信じてる。マスター、昼飯を頼む」 ユゥアの注文を聞いて奥に下がったマスターを見ながら、ユゥアはそのままの姿勢で言った。 「・・・・・・ヘラ、だったんだ」 「え・・・?」 「この世界の神は・・・彼女だったんだ」 「え?どういう意味?!」 横から聞いているリンが、どいういうことかと、顔を近づけてくる。 オルフが静かに聞き返した。 「何故・・・?」 「彼女は・・・・・・アルビノだった」 二人が息を呑む声が聞こえたのは、同時だった。 「アルビノの女・・・・・・これが何を意味するのか、ずっと考えてた。・・・・・・確かに、アルビノの 女はいねぇ。まあ、今はアキ除いてな。アルビノの女を存在しないのは・・・・・・いや、存在”させ ていない”のは何故か。そう考えると、なんとなく、アルビノの女というのがどういう存在なのかが 分かってくる」 「・・・・・・見たのですか?彼女がアルビノだということを」 「ああ。あの紫の目には、なんか違和感を感じてたんだが・・・そういうことだった。俺と同じだっ たってわけだ」 本来ならば、己の力の象徴であったアルビノの体色。己のような弱い立場なら、化けることは 必要だ。そのおかげで、今まで世界にいることができたのだから。だが、神という力を持つ者で さえも、化けなければ生きてはいけないというのは、あまりにも、滑稽な気がしてならない。勿論、 神は本当の神ではなく人でしかないわけだが・・・・・・それにしても、可笑しかった。そう思い、 ユゥアは内心自嘲めいたため息を吐いた。 「だとすると・・・あまり、時間はないようですね」 オルフの言葉に、ユゥアは彼を振り返った。 「デルタから聞いたのか?」 「ええ、その訳については話していただけませんでしたが・・・」 おそらく、女のアルビノであるアキが姿を現したのは、ヘラの力が弱まっているからなのだろう。 まったく、あいつはいったいどこまで知っているんだと、ユゥアは内心舌打ちする。マスターがミッ クスサンドを持って奥から現れたのは、ちょうどその時であった。 サンドイッチに手を伸ばしながら、ふと彼は言った。 「・・・相棒、もう一度、”仕事”しないか?」 「ユゥアさん・・・?」 何をいったい思いついたのか、ユゥアは相棒に言う。 何の話?と、置いていかれたリンが再び首を突っ込んだ。 「これが俺の、最後の仕事だ」 Ш Ш Ш 城に戻った彼を待っていたのは、現王であるベンス2世であった。 部屋の隅にひっそりと描かれた魔方陣から離れ、ディルティルスが机の上の書類をうんざりした 顔で眺めていると、ドアがノックされた。ドアを開けると、彼が護衛のアルビノ兵を従えて立って いたのだった。 「ゆっくり休めましたかな?」 「ああ、たった今目を覚ましたところだ」 「それはちょうどよいところでした。・・・・・・議会での案件、そろそろ納得いただけないでしょうか?」 ”案件”、というのは、他でもない、「フェルディアとの友好条約締結に関する諸策」のことである。 早い話が、フェルディアへ、ディルティルスを送るのだ。 勿論、ディルティルスはヘラのことを知っている。だから、彼が人質としてヘラの下で暮らすというこ とはあり得ない。勿論、そのことをベンスは知らないのだが。 彼の目的はなんとなく想像ができた。ディルティルスを遠ざけて、元の王をヘラに渡す代わりに、 二つの国の支配権を渡して欲しいということなのだろう。・・・あるいは、この世界の支配権を。 「・・・それで、この世界の全てを手に入れたつもりか?」 ディルティルスはベンスに問う。 「・・・・・・私は、世界を手に入れますよ。・・・この手にね」 その言葉には、明らかな意志が感じられた。・・・・・・そしてその双眸は、異常な輝きを見せて いた。 「訊きかたを、変えよう。それで、この世界の全てを知ったつもりか?」 「全てを手に入れたとき、私は全てを知るのですよ」 二人の視線が、虚空でぶつかった。だが、決して交わることはない。 まるで、お互いの心中を探っているかのようだった。そのまま数秒、二人は何も言葉を交わ すことなく、立ち尽くしている。だがその瞬間で、ディルティルスは直感した。頑固に見えるこの 男には、実のところは支配欲しかないのだということを。 ・・・・・・この国の王であったのは自分であるのに、またこのような男の本性も見抜けずに王位 を渡した自身の心中は、どれほど荒廃しているのだろうと、今さらながら彼は自分に問いかけた。 これでは返って、ヘラを苦しめていることになりかねない。 ―――ならば。 自分はヘラに近いところにいた方が、いっそ彼女に都合がいいのではないかと思われた。 ベンスは冷静な男に見えるが、時折浮かべる微笑の裏ではいったい何を考えているの か、掴むことが出来ない。油断のできない相手だ。・・・だからこそ、反対派は最後まで 意見を変えなかったのかもしれない。 「・・・・・・わかった。フェルディアへ行くことにしよう」 気がついたとき、ディルティルスは彼にそう答えていた。 その返事を心待ちにしていたのだろう、ベンス2世は微笑を顔に浮かべると、脇に控え ていたアルビノに片手を挙げて何かを指示した。 それは一瞬のことであった。 次の瞬間、ディルティルスは両脇をアルビノに押さえられるような体制となっていた。 「・・・・・・どういうつもりだ?」 ベンスの笑みが深まる。 「いえね、自室で大人しくしていただくのもいいのですが、おかしな魔方陣で、貢物が 度々どこかへ出かけてしまうのはよくないと思いましてね。・・・無礼は承知ですが、 貴方様を、じっとしていただける場所にお連れします」 彼の余裕に満ちたその言葉に、ディルティルスは内心舌打ちした。・・・・・・ベンスは、 彼のいない間に部屋を調べ、そして転移用の魔方陣を見つけていたのだ。 しかし、いくら国王であるとはいえ、力では二人のアルビノに敵わない。抵抗すら許され ず、彼はベンス2世の指示でアルビノ達に連行されていった。 |