| 13. Ψ Ψ Ψ 「あ・・・あれは、何?」 リンの叫びを聞いて、3人はそちらを振り返った。 見上げてみれば、少し先の上空・・・・・・おそらくは、ラルカントスの方向に、大きな光の弾が出現 していた。 「綺麗・・・・・・なにかしら。師匠、もう少し近くに行った方が見やすいわ!」 「あれは・・・・・・まさか」 リンは、光の方へと軽やかに駆け出す。 オルフの脳裏には、1年前のあの光景が再び甦っていた。1年前のこの場所で、起こったあ の事故が―― 「リン!」 「ラルカントスが消える・・・・・・移動しないと、ここも危険だ」 ユゥアもデルタも、夢幻崩壊の時を目の当たりにしていた。この世界全体が不安定であるこ とを考えれば、これから何が起こるかも容易に推測できる。 「相棒・・・!早く逃げるぞ!!」 二人は、既に後ろへと・・・フェルディアの方へと走り始めていた。 だが、オルフは動けない。 オルフの頭の中で、夢幻の滅びの瞬間が再生される。 ―――その時、頭上から強い光が溢れた。 「わあ、綺麗―――」 思わず足を止め、光に見入る彼女。だが――― 「逃げろ!逃げるんだ、美翠ー!!」 せめて、せめて私の手の届くところまで。 「・・・え?なに?」 振り返った彼女の微笑んだ顔は、頭上からの光になお輝いて見えた。 その顔が、リンと重なった。 ・・・・・・瓜二つであった。 「―――美翠・・・・・・リンさん・・・?」 彼女は、オルフィウスに向かって、微笑みながら手を振っている。ユゥアやデルタが走り出して いるその理由に、まだ気がつくことなく。 上空の光が強さを増し始めた。・・・・・・あれが破裂すれば、ラルカントスは消え去ってしまうの だろうか。・・・・・・あの時と同じ、一瞬のうちに。 「リン・・・・・・さん」 声が出なかった。彼女を止めたい。・・・あの時も、そうだった。 強い光に視界を奪われて、彼女をついにこの手で引き寄せて守ることができなかったのだ。 ・・・・・・私は何故、独りここに生き残ったのだろうか・・・。 オルフの心の中で、いつか自分で言った言葉が繰り返された。 彼ははっとした。 ・・・・・・自分が生きているのは、守るためだ。・・・大切な人を、この手で。 長い間抱えていた、わだかまりが、急に解けたような思いがした。・・・・・・そうだ。自分は、 あの時の未練を、まだ引きずってここに生きているのだ。 そして・・・・・・ここロストで見た、ヘラの苦しく辛そうな顔が思い返された。 「お願いです・・・・・・。もう、これ以上は・・・・・・」 彼女は、デルタを庇った。 一国の王・・・・・・いや、世界を作るほどの力を持っていた彼女。 その彼女が、最後の力を振り絞って・・・もはや維持することのできなくなった、夢幻やシーデ リーなどの国を消してまで、この世界に残り続ける意味。 それは、今の自分と同じなのではないか。 オルフは足を踏み出した。助けなければならない。大切な人を、必ず。 「リン!相棒!!」 声を限りにして叫ぶユゥアの声が聞こえた。それでも、オルフはリンに向かって駆ける。 「リンさん、早く、こちらへ!」 首を傾げる彼女の腕を引いて、オルフは駆け出した。光は益々輝きを増していた。あの時と まったく同じだ。 「師匠っ!光が・・・!」 振り返れば、ちょうど光が四方にはじけ飛ぶところだった。このままでは、間に合わない。 「・・・まずいっ!」 なんとしても、リンを・・・・・その場にいる仲間を、守らなければならない。守れなければ、今 度こそ自分は、逃げることのできない深い後悔の底に沈んでしまうだろうから。 「守りますよ・・・・・・必ず!!」 オルフの双眸に、青い光が満ち溢れた。・・・・・・そして、集中させた力を一気に解き放つ。 二人の目の前に、轟音を立てて巨大な青い石柱が地面を突き破るようにして出現した。 以前にデルタと戦ったときに作ったものよりも、遥かに規模が大きい。ラルカントスの城にも 匹敵するほどの高さと堅牢さであった。 「これで、一時的には・・・・・・早く、フェルディアへ」 リンとオルフは駆け出す。少し振り返れば、最上部の一部が崩れるのが見えた。 その、とてつもない破壊力。 もはや、ぐずぐずしてはいられない。 ◇ ◇ ◇ そして、その石柱が崩れ去った瞬間を、一行は隣国のフェルディアで目撃した。 続いて伝わってきたのは、地面を揺さぶる振動だった。・・・どうやら、石柱のおかげで衝撃波 はかなり軽減されたらしい。その様子を見守っていた4人は、ラルカントスの崩壊を知った。 呆然とした口調で、リンが呟いた。 「・・・・・・アキ、大丈夫・・・かな」 あまりの衝撃にしがみついていた彼女を、やさしく支えているオルフが、それに答えた。 「大丈夫・・・ですよ、きっと。そう、信じましょう」 消えてしまった存在が、再び同じ夢に…それも同じ場所に現れることは珍しかった。人は、必 ずしも見たい夢を見られるというわけではない。同じ夢を何度も見るというのは、その人あるい はその人を望む者が強く望む時に起こりうるらしい。・・・・・・ここにいる三人は前者のケース、 そしてリンの場合はおそらく、他者・・・オルフが、存在を強く望んでいるのだ。 アキの場合も、状況を考えると誰かに生かされているらしいのだが、その存在を望む者の 力がどれほど強いのかによって、彼女の安否は変わってくるはずだ。 「・・・・・・アキなら、大丈夫だ」 デルタもまた、リンに答える。何故かは知らないが、確信があるように彼はそう答えた。 ・・・もしかすると、自分自身がアキの存在を望んでいるのかもしれないという可能性に、彼は 自ずと気が付いたのかもしれない。 ふと、ユゥアは、考えていたことを口にした。 「・・・なぁ、アキって、誰に生かされてるんだ?」 リンとオルフは首を傾げる。デルタは視線を向こうに向けたままだ。 「さぁ、誰だったんでしょうね・・・・・・。結局、それらしい人には会えませんでしたが・・・」 ユゥアは今まで、アキを生かしているのはデルタだと考えていた。あれだけ気にかけていた 妹なのだから、そうに違いないと思っていた。・・・・・・だが。 彼は改めて思い返してみた。・・・あの、ロストでの一件を。 倒れたデルタとヘラに駆け寄ったアキの姿が、一瞬ヘラとともにブレた、あの瞬間。 そして、今回のラルカントスの崩壊・・・つまりヘラは、夢を維持できなくなりつつあるのだ。もし も、ロストでのあの光景が見間違えでないのだとしたら・・・そして、アキをデルタと同じ夢に いさせることで、彼を助けることができるのだとヘラが考えたのだとすれば――― 「俺は、てっきりデルタが生かしていたんだとばっかり思ってた。・・・あんだけ心配してたん だからな」 彼の言葉に、デルタは俯いた。痛いところを突かれたように、顔をしかめている。 「・・・・・・違うのですか?」 どうやら、オルフィウスの方も同じ可能性を考えていたらしい。ユゥアは、遠くに見えるフェル ディアの街並みと、その城に視線を向けた。 「・・・ヘラは、デルタ、お前を助けたいと言っていた。もしもそれが、アキを・・・妹をお前に会 わせることで、叶うことだと彼女が考えていたなら、どうだ?」 「妹・・・・・・アキさん、デルタさんの身内の方だったのですか」 オルフが驚いて問う。まさか、身近にいる者同士が同じ夢を見る可能性など、考えたことも なかったからだろう。ユゥアは続ける。 「・・・それに、ロストでヘラと出会った時、ヘラとアキの姿が同時にブレた。ヘラの姿がブレる のはわかる。けど、アキの姿が、それも同時に消え掛かるのは、偶然なわけがない。・・・・・・ 間違いなく、ヘラと関わりがある。・・・・・・おそらく彼女が、アキを生かしてるんだ」 だが、そう考えてみて、ユゥアは改めて何か違和感を感じていた。何かが引っかかった。 いったい何だ。 「デルタさん。・・・・・・貴方はまだ救われてはいないようですね」 オルフの静かな声が、デルタに真っ直ぐに届いた。デルタが顔を上げる。 暗い群青色の双眸が、明るい群青色の双眸と交わった。 「・・・・・・行きましょう。もう、残された時間は、少ないのでしょう?」 何を、と彼が問おうとする前に、ユゥアは続きを叫んだ。 「ヘラに、会いに行くぜ!アイツとこの夢が消えちまう前に、会って話をつける必要があるだ ろ、お前には!」 彼に強く肩を叩かれて、デルタは苦笑した。確かに、彼女に会う必要が彼にはある。 ・・・だが、会うことを、会うことで何かが変わってしまうことを、心の奥底で恐れているところも あるのだろう。これまで長い間変わることのなかったこと・・・それは、彼自身が簡単に受け 入れられるようなものではない。 そう、彼には、無理やりにでも肩を叩いて引っ張っていく“力”が必要だったのだ。 |