12.

 そんな鬼ごっこを少ししたところで、リンの姿が目に入った。だが、それで少し安心してしまったオ

ルフの視界が、突然反転する。左腕を床にしたたかに撃ちつけたオルフが、何ごとかと背後を振り返

れば先ほど倒した兵の一人が、自身の足を掴んでいた。

「お前を逃がすわけにはいかないんだよ!!」

 見れば、背後にはロボット兵が迫っていた。足を掴んでいる兵は、短剣を構えている。ロボット兵と

同時に攻撃をしようとしたが、転んだ拍子に銃を放してしまっており、手が届く少し先に銃が転がっ

ていた。

 果たして、眼力を使ってからロボットの攻撃をかわす時間があるか・・・・・・

そう、一瞬迷った瞬間、剣を構えたロボット兵に向かって、赤い何かが薙ぎ払われた。オルフも、足

を掴んでいた兵士も、思わずそちらを振り返った。

「師匠の相手はずっとこの私なんだから!絶対に浮気なんかさせないわ!!」

 ・・・どうやら、リンが自慢の槍を使ってロボットを薙ぎ払ったらしい。今の一撃で、前列を駆けていた

兵士数人が壁に吹き飛ばされて動かなくなっていた。彼女はすでに、次の兵士たちに狙いを定め

ている。その様を見て、オルフは苦笑いをした。

 一方、足を掴んでいた生身の兵士の方は、その彼女のことを見たせいか、顔色を青くして、逃げ

腰となっていた。

「お、覚えてろよ!」

 そして完全にリンの視界から外れたところを見計らって、その兵士はナイフを取り落としながら逃

げ出していた。


「師匠、大丈夫ですか!?」

 大方のロボット兵を昏倒させたところで、リンはようやくオルフのことを振り返った。

どうしてこんな凶暴な彼女に槍を作ったのかと、武器屋の主人を恨めしく思いながらも、彼はにっこ

りと笑って礼を言った。

「いえ・・・なんともないですよ、リンさん。ありがとう」

「師匠のためだったら、これくらい大したことないですよ!」

 槍を構えて肩で息をしていた彼女を落ち着かせながら、オルフは辺りを振り、そして時計を見る。

「11時55分――ユゥアさん、もう外に出てしまったのでしょうか」

 こんなにギリギリの時間まで相方に接触できないというのは、滅多にあることではなかった。この

まま城の外に出るべきか思い悩んでいたところに、その気持ちをまるで汲んだかのように、デル

タを連れたユゥアが駆けてくるのが見えた。

「―――悪い、相棒。少し遅くなった」

「たいしたことはありません。ですが、早々にここを出ましょう・・・・・・。それで、いいですね、ディ

ルティルス」

 オルフの言葉に、リンは首を傾げた。

「・・・え?・・・ディルティルスって・・・・・・デルタさんじゃ・・・?」

 デルタのことを見つめる双眸を細めて、そしてオルフはユゥアに視線を投げた。無言で頷く

のを確認すると、オルフはユゥアとともに駆け出した。デルタもそれに続き、戸惑うリンもその

後を少し遅れて追う。

「・・・驚いてねぇのか、相棒」

 掛けながら、横を併走するユゥアは訊く。

「驚きましたよ。・・・でも、ある程度、予測できていたことです。・・・気配も、似ていましたしね」

 4人は進入口である門を目指して走る。腕時計を見れば、時刻はまもなく12時。予告の時間が

過ぎれば過ぎるほど、逃亡のためのリスクは高くなる。急がなければならなかった。

「・・・・・・待て、ユゥア」

 デルタの声に、前を走っていた二人の足が止まった。

「なんだ?早くしねぇと、時間がねえ」

「このまま門から逃げるのは、危険だ。先ほどから、一人も兵士に会っていない。・・・・・・策略

家なベンスのことだ、おそらく進入口のところには、兵士をまとめて配置しているはずだ」

「だったら、どうすればいいって言うの!?」

 焦りの表情を見せるリンだったが、デルタは落ち着いた声で告げた。

「私の部屋に、道がある。・・・・・・それでロストまで、行ける」

「お前の部屋?」

「付いてきて欲しい。おそらくそれなら、ベンスも何もできない」

 そう言うと、デルタは身を翻してエレベーターへと向かおうとした。

「待って、アキが!!」

 リンの叫び声を聞いて、デルタはその場に踏みとどまった。眉をひそめて、オルフとユゥアのこ

とを見た。

「アキ・・・・・・?ここに、連れてきたのか、まさか」

「すいません・・・。宿屋にいるよりも、我々の近くにいたほうが安全かと思いまして」

「世界が不安定だからな、俺たちの近くにいたほうがよかっただろう?」

 素直に肯定することができずにいるデルタだったが、リンは首を横に振って言った。

「そんなことより、アキが大変なの!・・・・・・私の前から、消えちゃったのよ!」

 3人の視線が、リンに集中する。

「なんだって・・・?」

「消えた・・・・・・どういうことです、リンさん。詳しく教えてください」

 リンは、そのときの状況を手短に説明した。・・・その時、城内に鐘の音が鳴り響いた。

「今になってアキの存在が、不安定になったのか・・・?」

「話は後だ。アキなら、きっともう城の近くにはいないだろう。早く、私の部屋へ」

 ちょうどエレベーターから降りてきた兵士をオルフの眼力で倒すと、4人は中に飛び乗った。

「25階の扉が開いたら、目の前が私の部屋だ」

 エレベーターはあっという間に24階を上りきり、一行を25階のフロアへと案内した。・・・・・・

が、そこには先客がいる。思わず3人は身構えた。

「ディ・・・ディルティルス様・・・!」

「後ろの者は、何者だ!?」

 兵とユゥアたち、双方に緊張が走る。

だが、その一瞬の隙を突いて部屋の前にいた兵士たちを倒したのは、デルタであった。有無

を言わさぬスピードで、一瞬のうちに兵士との距離を詰めていた。倒れた兵士たちを見つめる

彼の手には、一振りのナイフが握られている。

「・・・・・・お、おい」

「これがバレるのも、時間の問題だ。早く、中へ」

 特に気にしていないデルタの言葉を信じ、3人は中へと入った。



†  †  †

 部屋の中は、無駄に広い空間に、ベッドや机が一つずつ置かれただけであった。そんな

部屋を呆然と眺めていた3人だったが、後から入ってきたデルタがドアに鍵をかける様子を

見て、気を引き締めた。

「あそこだ」

 床の一部を指差しながら、彼はそこへと歩いていった。3人もそれに続く。

「・・・・・・ん?・・・これは、魔法陣か?デルタ」

 床には絨毯が引かれている以外、特に変わっているところはない。普通の人ならば、きっと

その場に何かがあるということには気がつかないはずだ。

ユゥアがそれに気がついたのは、絨毯のその部分の模様だけ、妙に不自然なことに気がつ

いたからだった。彼の美術に対する鋭い感性が、そのことに気付かせたのだろう。

「そうだ。ここから、ロストへ飛ぶ・・・・・・さあ、早くこの上に」

 いったいどうやって飛ぶのだろうと思いながら3人がその上に立つと、それを合図にしたか

のように魔方陣の模様が発光して浮き上がり、4人の姿をを光の中に包み込んだ。

あまりの眩しさに息を呑んで立ちすくんでいると・・・・・・しばらくして、光が止んだ。そして、

目を開けた瞬間、彼らが目にしていたものは―――


 砂埃の舞い上がる、荒廃した都市の残骸・・・ロスト、だった。無事、脱出は成功したのだ。

「すごい・・・・・・私たち、本当にロストに飛んじゃったのね」

 思わず感嘆の声を上げたリンだったが、そこに静かな声が響いた。

「・・・・・・なるほど、貴方がこれまでもここへ度々来ていたのは、ここから城へ戻るため・・・

だったんですね?」

 鋭い眼差しのまま、オルフはデルタに微笑みかけた。一方の彼は、何も言わない。ただ、目

を逸らしただけだった。


 一瞬訪れた気まずい空気の流れを、ユゥアの言葉が遮った。

「それより、アキはどうする?・・・まだ、この世界にいるかどうかも怪しいな」

「でも、どうして突然、消えたりなんか・・・。私、何か悪いことでも言ったかしら」

「いや、そりゃないだろう。アキと一番仲がよかったのは、リンだしな」

 話をしている彼らを他所に、デルタは辺りを改めて見回した。

 ロスト・・・その風景は、いつ見ても彼にとっては同じようであった。灰色一色の風景。崩

壊した建物群の形はそれぞれ違うのだが、モノトーンの色の世界はそれを一様のものに

見せてしまっていた。ある意味、それは自分の国と同じでもあるのだが。

 ラルカントスでも、ここと同じように白と灰色と銀のモノトーンの配色が広がっていた。・・・し

かし、なぜ色が付けられなかったのだろうか。彼は不思議に思う。

 国の大きさを見れば、それなりに反映はしていたのだ。だが、生活感というものはまるで見

られなかった。

ロストと同じ・・・・・・生きてない?


 それで彼は、理由を悟った。・・・彼が生きていないのと、同じなのだ。

ラルカントスと言う国は、創り主である彼自身の心を、反映していたのだろう。そしてそれは

・・・・・・今のここの主、オルフィウスもまた、同じなのかもしれなかった。






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