| 11. 少しの間、彼が回想していると、ユゥアがはっとした顔でそちらを振り返った。 「未だに、分からないんだ、ユゥア。・・・妹を助けたかったからなのか、自分が死にたかったから なのか。結局私は事故に遭って・・・多分、妹は助かった。それが、3年前のことだ」 ふと、ユゥアの頭の中に、アキの顔が浮かんだ。そして思ったことを、ユゥアはそのまま口にした。 「・・・なんだか、似てるな」 「何がだ・・・・・・?」 ユゥアの言葉に、今度はデルタが首を傾げた。 「お前と、アキが、さ」 彼の言葉に、デルタはふっ、と自嘲めいた笑みを浮かべた。 「似ている・・・・・・か。案外、そういうものなのかもしれないな」 「―――え」 その言葉の意味を理解するのに、ユゥアは少し時間を要した。 「アキは、私の妹だ・・・」 ユゥアの紫の双眸が、徐々に見開かれた。いったい、デルタは何を言っているんだろう、そう顔に は書いてあった。 ◇ ◇ ◇ 「驚いた。初めてロストで見つけたときは」 その事実は、すんなりと受け入れられるものではなかったが、ユゥアは納得した。なるほど、それ でデルタがアキのことを気に掛けていたのだ。 だが・・・ユゥアはまだ釈然としなかった。 「・・・それより、お前の方は大丈夫なのか?」 それは3年間も、夢を見続けていることに対して言っている。 「夢を見続けているのだから、恐らく、まだ生きているんだろう」 答えたデルタの顔には、何の感情も見られない。生きることにも、死ぬことにも、何の興味も抱けな い・・・そんな、とても投げやりな言い方だった。 「それからずっと、夢を見ていて・・・、ヘラに出会った」 「ヘラがお前を知っているのは、そのせいか」 「ああ。彼女がこの夢を見るようになったのは、私が言い出したからだ。・・・・・・だがそのことが、 逆に彼女を苦しめることになってしまった」 ユゥアは、この夢で起きたことを必死に整理した。 確かに、アトリエで見た時のヘラは、苦しがっているようだった。だが、彼女はデルタを助けたいの ではなかったのか? 確か彼女は、デルタが恩人だと言っていた。今の話からすると、ヘラはデルタの何に対して、恩を 感じているのだろうか。 「ロストでの一件の後、ヘラが俺を訪ねてきた」 「ユゥアを・・・・・・?」 デルタは眉をひそめる。 「なんで、ヘラはお前に恩を感じてるんだ?」 「・・・・・・ユゥア」 「答えてくれ。俺もヘラと同じだ。・・・お前を、助けたい」 ユゥアのその言葉に、彼は嬉しさとも困惑ともつかない・・・けれども感情があると分かる表情で、 ユゥアのことを見返した。 「・・・ヘラは、間もなく死ぬ。・・・3年前から、死と向き合っていた。それが、彼女にとってどんなに 辛いことか。・・・・・・私がヘラと出会った時、彼女は泣いていた。ただ、泣いている夢を、見ていた んだ」 ただ泣いているだけの夢。いったい、何が彼女をそこまで追い込んだのか。 生きられないことへの悲しみ・・・いや、愛する者との別れの辛さか。 いずれにしても、悲しみを背負ったままに逝くのは、あまりにも哀れな話だ。 「それで、楽しい夢を想像しろって、言ったのか?」 「・・・ああ。それは、浅はかな思い付きだったが、彼女の笑顔が見れたから、その時の私は安心 してしまった」 ヘラは、きっとこの世界で、死ぬ前の楽しい思い出を作ることができただろう。どうやら彼女はそ のことで、デルタに恩を感じているのだ。 「・・・だが・・・・・・ヘラでは、私を救うことは、出来ないだろう」 デルタが言ったことの本当の意味をユゥアは知らない。彼女はまだ、小学校に上がったばかりで ・・・デルタの置かれている状況を理解するのには、幼すぎるということを。 だが、諦めようとする彼の胸ぐらを、ユゥアは掴んで握り締めた。 「だから、俺がいるんだろうが!絶対、お前を助けるからな、俺は。それが、仲間だろう?」 何度も、自分に言い続けてきた言葉を、ユゥアは叫ぶ。その度に、ユゥアは言葉で伝えることの もどかしさを感じていた。だが、きっとデルタには届くと、彼は信じる。信じ続ける。 一瞬交わった視線が・・・デルタの双眸が、緩んだ。 「・・・・・・そうだな」 彼が、ユゥアに助けられることを信じたわけかどうかは分からない。だが、デルタは穏やかに笑っ た。・・・・・・おそらくそれは、ユゥアが見た初めてのデルタの笑みだ。 「とにかく、ここを出ようぜ。ベンスが動くかもしれねぇし、相棒も心配だしな。話はそれからだ」 Ψ Ψ Ψ 城内での戦闘は、オルフが無傷のままその場を制圧しているという有様であった。 「―――11時45分。ユゥアさん、珍しく遅いですねぇ・・・大丈夫でしょうか」 幻の攻撃を食らってもなお、剣を手に立ち上がろうとする兵士に再度、オルフは眼力を使う。 「・・・・・・ラルカントスの城ともなれば、もう少し戦い甲斐のある方々かと思いましたが・・・これで は寧ろ、貴族の屋敷の方が手ごわいかもしれませんねぇ」 のんびりとした口調でそう一人呟きながら、オルフィウスは辺りをぐるりと見回した。 すると、遠くの方に、再び列をなして向かってくる人影が目に入ってきた。 「懲りませんねぇ・・・」 オルフは、眼鏡を人差し指で定位置に戻して、心を集中させた。 「我が前に跪け・・・・・・ディープブルー!」 再び、青い光を帯びた眼力が放たれる。・・・・・・だが――― 先ほどまでと違い、その場に倒れたのは半数もいない。・・・・・・これはいったい、どうしたことだ ろうか。 残りの兵士たちは、怯むことなく列を整えたまま、まっすぐオルフィウスへ向かってきた。 次の眼力が間に合いそうにないため、オルフは腰のホルスタに差していた銃を、その手に取っ て構える。 「・・・まさか、これに頼ることになるとは思いませんでしたね・・・。操作は簡単ですが・・・でも、 当たると少し痛いですよ?」 不敵な笑みを浮かべて、彼は引き金を引いた。この銃は、引き金を引くことで、弾である電気を 放てる状態にするのだ。そして・・・引き金を放せば、照準で定めた位置に電気が発生する。 だが、兵の数は半端なものではない。放電出力を最大に上げて、オルフは引き金を放した。 「一気に狙わないと、厳しいかもしれませんねぇ・・・」 危機感の無さそうな声で、オルフは呟いた。静電気の弾が、最前列の二人の間に発生し、放電 する。 それで二人が体を痙攣させて無表情に倒れたのだが、そんな彼らには構いもせずに、次の列の 兵は二人を押しのけるようにして前に進んできていた。 「・・・・・・何か、妙ですねぇ・・・」 普通ならば、味方をやられることで多少の動揺は見せるところだが、今進み来る多くの兵は、 仲間のことなど目に入っていないらしく、まったくお構いなしだ。まるで、予めプログラムされた 機械のように。 ―――機械。 銃の狙いを定めつつも眼力を試していたオルフは、ふと、気がついた。・・・・・・眼力が効かない その訳に。 「なるほど・・・・・・アルビノタイプのロボット兵・・・ですか。ベンスも考えましたね」 相手に意識や感情がないならば、オルフの眼力の効果はまったく意味を成さなかった。 銃を打つスピードを上げながら、オルフは後退を始めた。ロボット兵の場合、頭部に当てれば多少 ダメージを与えることが可能だが、性能がいいものならばそれで再起不能に陥ることもないだろう。 一時凌ぎのこの攻撃では、素手での戦いを得意としない彼にとっては、その場に留まるのは危 険だった。 「師匠ー!!」 聞き覚えのある声が遠くに聞こえたのは、その最中であった。オルフの気が、一瞬逸れる。 発生が遅れた静電気は、兵の隊列を乱すことができず、オルフを追い込んだ。 「・・・これは・・・・・・少々まずいですね」 オルフはひとまず、その場から退避することに決めた。中規模の静電気を連続で発生させて簡単な 足止めをすると、そのまま彼は駆け出して、リンを探した。 彼女の強い気配は、簡単に探すことができる。後ろの方で、兵たちの駆け出す足音も聞こえたが、 振り向くわけにもいかず、彼は通路を駆け抜けた。 |