| 10. 二人は、表通りに近いところにあった喫茶店で落ち着くことにした。高原のコテージ を思わせる外観のその店の中は、アンティーク調の調度品で統一されており、落ち 着いた趣があった。 「ご存じかとは思いますが、アルビノは特殊な力を持っています。どんな力であれ、 私はそれは尊敬すべきことだと考えています」 席に着いたオルフィウスはウェイトレスに注文を頼むと、そう切り出した。 「ですが、私たち一般の人にとってそれは、驚異でもあります。こうした場合、両者の 関係はおおかた二つのタイプに分かれます」 「支配されるか、拒絶されるか、ということ?」 「そうです。この世界では拒絶されてしまい、アルビノは奴隷のように扱われています。 おそらくそれは、私たちの潜在意識に因るものだと、私は考えています」 確かに・・・・・・と秋子は思う。 他者と同じであることを、いつも気にしている自分。 他者と違うことに、ビクビクしている自分。 周りがいいと言ったことが、いいのだと考えている自分。 周りの意見が正しいのだと、協調を図ることが大切なのだと、そうすることが一番なの だと考えている自分・・・・・・。 だが果たしてそれは、心から正しいと自分で言えるだろうか。事実を表しているのだろ うか。 他の人と違うところがあると、周りから違った視線で迎えられる。それが、怖い。 その視線に耐えるよりも、自分自身を抑えた方が、はるかに楽だと思えてしまう。 楽しいふりをして、知ってるようなふりをして、でも私の本心は誰も知らない。 それでも群れのなかにいられることに安堵感を覚えて、もうそこから外の世界へ出るこ とが怖くて仕方がないのだ。だが、その群れは確かに存在しているのだろうか。 オルフは続けた。 「悲しいことですが、どこの国にも人身売買所があります。一般の人間は、相場で取引 されますが、アルビノが入った場合、たいていは競売になります。・・・・・・その特殊能 力ゆえに、欲しがる方が多いですからね」 「貴方たちは、さっきの店で捕まえたアルビノを売っているのでしょう?」 「私たちに限ったことではありませんよ」 ウエイトレスが、アメリカン・コーヒーとカフェオレの入ったカップを置いていった。その間 ずっと、秋子はオルフのことを睨んでいた。 「貴女だって、そのくらいのことをしなければ、この世界では生きていけないんですよ」 「私は、人を金でやり取りするようなことは絶対しないわ」 嫌悪の念をこめて、彼女は言った。 「我々も、好きでやっているわけではありません。ですが、すべてが綺麗な世界など、 現実にだって存在しません」 コーヒーを口に運ぶオルフィウスを睨みながら、アキもカフェオレを飲み始めた。 「大人の理屈って言いたいの?」 「それはただの言い訳に過ぎませんね。・・・・・・私が先ほどの店で、何をしようとした か、わかりますか?」 「・・・人身売買、じゃないの?」 「半分は、当たっていますね。・・・ご存知のように、あの店も人身売買をしている店の ひとつです。ああして普通は、カモフラージュをしています」 これまで秋子が体験してきたことが、オルフにうまく理屈で丸め込まれてしまうような 気がして、秋子は言いたかったことを口にした。 「デルタも、ああして私を売ったわ」 「・・・貴女がそう思っているのも、無理はないでしょうね。それは、半分は当たってい ます」 秋子は、がたんっ、と席を立った。その音に、付近にいた人が驚いて彼女を振り返る。 「他にどんなことがあるって言うの?」 「・・・貴女は、本当に運がよかったんです。・・・人目につきますから、ここを離れまし ょう」 飲みかけのカフェオレとコーヒー代をテーブルに残し、アキはオルフに連れて行かれる。 歩きながら、オルフは言った。 「我々は、アルビノを解放しているんですよ」 前を見たまま、彼はアキにそう告げる。 「見つけたアルビノを売買所に連れて行き、IDを登録させ、自らで回収する・・・これ が、合法的・・・いえ、脱法かもしれませんが、我々のやり方です」 オルフが、アキを振り返った。変な胸騒ぎがした。 それって・・・・・・もしかして。 次に言われるだろうことが自然に予想されて、嘘だと自身が否定した。 だって、そんな・・・・・・あの時、彼は叫ぶ私に何も答えなかったのに。 自然に、右手の拳に力が入った。その手は、昨夜確かにナイフを握っていた。 「本来なら貴女も、デルタさんが回収するはずだったのですが・・・・・・思わぬ邪魔が 入ってしまいましてね。申し訳ありません」 オルフの思わぬ告白に、雑踏の中、秋子の時が止まる。 その事実を、しばらくの間秋子は受け入れることが出来なかった。 ―――信じられなかった。 「それが、結果として貴女をここまで追い詰めることになってしまいました。申し訳あり ません。ですが、デルタさんのことを、許してあげてはもらえないでしょうか」 ・・・・・・ずっと、あの時の仇をとろうと思っていた。 仇をとるために、オルフを、ユゥアを、リンを利用した。 憎くて仕方がなくて、本当に、殺したいと思ったくらいなのに、仲間にまで憎しみをぶ つけていたのに・・・ それなのに。 ふいに、右手の拳の力が緩んだ。 そしてアキは、頬を流れるぬるいものを感じた。 ・・・涙が止まらない・・・・・・ 「・・・・・・本当に、お辛かったんですね。申し訳ありません」 頭に乗せられたオルフの手のひらが、とても温かかった。 そう、秋子は初めて、この世界に仲間を見つけた。 |