9. 城の裏口には城の関係者たちが群れていた。市民が集まっていないことと、街が騒がしく ないことから、どうやらこのことは城の中だけで片付いたようだ。 「お帰りなさいませ、王様、王女様、それにロイ殿にルベス殿。よくぞご無事で。」 「この者達を今日は城に泊めなさい。私達を賊から助けてくれたのだ。」 「わかりました。早速部屋の用意を。」 2人の制止も聞かずに、さらに王はこうも付け加えた。 「皆に伝えよ。今日はめでたい日だ。祝いの準備をするように。」 「・・・い、祝いですか?」 「そうだ。訳は後で話す。頼んだぞ。」 「は、はい。」 「それでは、ロイ、ルベス。祝いの支度ができるまで、この者達の案内する部屋で休ん でいなさい。」 王は右手を軽く挙げて使用人を1人呼ぶと、案内をするよう指示した。使用人は王と2人 に一礼すると、2人を部屋に案内した。 「・・・なあ、ルベス・・・。」 案内された部屋は、ロイの家2つ分ほどの広さがあった。高い天井には、ガラス製の細工 の細かいシャンデリアが下がり、室内に陽光にも負けんばかりの光を作り出していた。 ルビエスは部屋の中央に置かれたソファに座り、しばしの時をくつろいでいた。 「・・・なによ。」 後ろのベッドから聞こえたロイに、お茶を飲みながら彼女は返事を返した。 「その、剣なんだけどさ、ちょっと見せてくれないかな・・・なんて。」 「・・・いいわよ、・・・はい。」 ルベスは剣を鞘ごとベルトから引き抜くと、隣のベッドで寝転んでいるロイに手渡し た。ロイは剣を手に取るなり、柄を持って抜こうとした。 「ぐっ・・・あ、あれ?・・・こ、この・・・・。ふう、やっぱり抜けないや。なぁ、もう一度この剣 の刀身を見たいんだけど、抜いてくれないか、ルベス。」 「・・・・・・ねぇロイ。」 「・・・?」 「どうして私が今までその剣を抜かなかったか、知ってる?」 「・・・え?どうしてって、封印が解けなかったからなんじゃあ・・・」 一瞬躊躇った後、彼女は理由を告げた。 「その剣はね、危険なの。」 思わぬ彼女の言葉に、ロイは呆然とする。 「・・・・・・へ?」 「私ね、昔、その剣で大きな過ちを犯したの。だから、その剣は二度と抜かないと誓った ・・・」 「ルベス、それってどういう・・・」 「その剣は大いなる力を秘めている。私は確かに封印を解くことができたけど、私はそ の剣を使いこなすことはできない。」 その彼女の言葉に、ロイは何か強いものを感じた。 「でも、あの時はちゃんと使ってたじゃないか。」 ロイは、昼間のあの戦いのことを思い出した。ルベスが呪文を唱え、炎が辺りを覆い尽く したあの光景を――― 「それは周りにロイ達がいなかったからよかっただけのこと。あのまま、ロイが王達と一 緒にあの場を離れていなかったら、今頃は地獄にいるはずよ。」 どさくさに紛れて言った彼女の言葉を、ロイは訂正する。 「―――なんで天国じゃないんだよ。」 「とにかく、その剣はもう抜かないわ。私にはその剣を制御できないから。」 そう言ったルベスの横顔は、いつになく寂しそうにロイには見えた。 その夜は、城で神官サイの復活祝いパ−ティ−が行われた。もちろん主役はロイとル ベスだったが、剣のことは話題にはならず二人の活躍のことに集中した。二人の周りに は人が多く集まった。ルベスは相変わらずだったが、ロイは始終照れ笑いをし、まんざら でもない様子だった。そのため、パ−ティ−が終わって寝室に戻ったロイは、疲れのあ まりベッドに横になるとすぐに寝息をたてていた。 「―――まったく、どこまでのんきなんだか。」 そう言って溜め息をつくと、剣をちらりと見てルベスもまた横になった。 次の日、二人は朝食をすませると、王室に向かった。 「「お早うございます。」」 「―――おはようございます、ロイ殿、ルビエス殿。」 「昨日はよく眠れましたか?」 「はい、とても。」 簡潔な挨拶を終えると、ロイはすぐに切り出した。 「それで、話というのは・・・」 「うん。我が国は、闇の大陸の調査の一環として、王都ラムドに使者を送ることにした。 神官が消えてから、闇の大陸と光の大陸との交流がすっかり断たれてしまった。ラムド が現在どうなっているのか、全く分からない状況なのだ。そんな危険な状態で、君達を 送るというのは、少々心が痛む。」 「ですから安全が確認されるまで、貴方達にはこの大陸にいていただきたいのです。」 ロイとルベスは互いに顔を見合わせた。そして、同時に頷いた。 「・・・分かりました。では我々はしばらくの間、この大陸にいればいいのですね?」 「ええ。」 「もしお許しをいただけるのでしたいただけるのでしたら、我々はこの大陸で神官のこと を調べたいのですが・・・。」 おずおずと言ったロイの言葉に、王は満足そうに頷いた。 「わかった。我々もその言葉を期待していた。それでは状況を確認し次第、この大陸全 ての港を解放するように取り計らおう。」 「「はい。」」 話が片付いたところでエリスは席を立ち、傍らに控えていた従者たちに指示を出した。 「では、旅の支度をしなくてはなりませんね。皆のもの、二人に道中必要なものを用意し なさい。」 「今日中に出発するつもりか?」 「はい。今朝二人で決めたんです。」 「分かった。私も見送ろう。皆、支度を急ぐように!」 「「はっ!!」」 王の言葉に、従者たちの返事の大きな声が続いた。ロイとルベスはフォンとエリスに深 々と一礼すると、そのまま王室を出て行った。 二人は出発までの間、フィアレ−トに挨拶をしに、城下町へ出かけた。城の大きな扉を 開けて、ロイはたったの3日間しかいなかったラインハルトの町を名残惜しそうに見つめ ていた。 「何ぼ−っとしてるのよ。置いていくわよ。」 「あ、待ってくれよ、ルベス−!」 二人はフィアレ−トのいる店に行く前に、ルベスの使う代わりの剣を探すことにした。そ こで、メインストリ−トで軒を連ねている露店を片っ端から当たっていった。 「ちょっと重すぎるわね、これは。もう少し軽いのはない?」 「でもお客さん、大剣でこれ以上軽いってのは、他の店でも見つけるのは難しいと思うよ 。」 「・・・そう。」 「あ〜〜、ここも駄目か〜。」 なかなか終わらないルベスの買い物に、ロイはすっかり根を上げていた。 |