10.

そして―――

「ここが最後か〜・・・てあれ?」

メインストリ−トの入口つまり、最後の露店に入って、ロイは間の抜けた声を上げた。テ

ント型の店の中には、その主人と思われる老人と、数本の剣があった。そして特筆すべ

きことと言えば、その剣の全てが宙に浮いているということだった。これには、後から店

に入ったルベスも驚いた。

「―――娘、よい剣を持っておるな。少し見せてはくれぬかの。」

老人はそう言うと、右手の人差指をルベスの方へと向け、ゆっくりと自分をさした。

「「!?」」

剣は老人の指に引き寄せられるように、鞘とともに彼の目の前へと移動する―――。

「な、ど、泥棒!」

しかし、二人はその場から動けなかった。

老人は剣の柄を持ち、鞘から刃を抜いた。そして、その目を細め、口のはしを歪める。

「―――ほう。お返ししよう、ルビエス殿。」

「・・・なぜ、私の名を」

剣はゆっくりとルベスの元へと戻っていく。

「そう、剣が言っていたよ。」

「な、何を言っているんだ、おじいさん。」

「それほどの剣を持つお前が、何故こんなところへ来るのかね。―――その剣を恐れて

いるのか?」

「・・・・・・。」

ルベスは何も言うことができない。ただ、老人の青い瞳を見つめているだけだ。

「図星かの。・・・そうじゃの、この剣を持っていくがよい。」

老人は、一本の宙に浮いた剣を、ルベスの元へ移動させる。―――ただの鋼の剣のよ

うに銀色の光を放っているが、とても軽い。

「剣を恐れてはいけない。恐れれば、剣に力を吸い取られる。」



釈然としないまま、二人は店を後にし、フィアレ−トの店へと向かった。二人の後ろ姿を

見ながら、老人は一人呟いた。

『次に会うときは、剣を交えようかの、ルビエス=カトゥス=レトロイダよ。』



「ロイ、ルベスちゃん、心配していたのよ。昨日は宿に戻らなかったんですって?」

ロイは、昨日のことで宿に戻ることなどすっかり忘れてしまっていた。自分がどれほど姉

を心配させたかと思うとロイは胸が痛み、そして昨日のパ−ティ−で調子に乗っていた

自分がひどく醜く思えた。

「ご、ごめんなさい。姉さんがそんなに心配していたのに、僕・・・」

ロイが謝った直後、ルベスはすかさず付け加えた。

「祝いのパ−ティ−で調子に乗って御飯食べまくってました、と。」

「る、ルベス、手前っ!!」

怒りでロイの顔はみるみる赤面していった。・・・がそれは一瞬のことだった。ルベスに

食ってかかろうとしたロイの背中に、姉、フィアレ−トのふくみ笑いがぶつかった・・・。

「へえぇぇぇ・・・ひとがこんなに大変な思いをしていたのも知らずに、御飯食べ放題・・・

?いったい何を考えてるのかしらねぇ、ロ・イ・君?」

みるみるうちにロイの顔色が悪くなっていった。ロイは、ギギギィ・・・という音すら立てて

、フィアレ−トの方を振り返った。一方のルベスは、ちゃっかり店の外へ退避している。フ

ィアレ−トが切れた時の恐ろしさは、ロイと兄弟のように育てられてきたルベスもよく知

っている。そして―――

「くぉの馬鹿ロイ−−ッ!!」

「ぐ、ご、ごめんなさい姉さ−−んっ!!」

店内に・・・いや店の外にまで、何かが壊れたり、崩れたりする音がしばし響き渡った。

ルベスは溜め息を一つもらし、他人事のように明後日の方向を見つめていた。



その数時間後。ルベスとぼろぺろになったロイは、王の従者に呼ばれ、ラインハルトの

城門前に着ていた。

「旅に必要なものは全てこの馬車の中にあります。」

「まずはここから半日ほど南へ行ったところにあるラムリリ−スを目指すがよかろう。そ

れから、先ほどから気になっていたのだか・・・」

言って王は、今にも倒れそうなロイに視線を向けた。

「・・・ロイ殿本当に今日発たれるのか?顔色が優れないようだが・・・明日に伸ばしては

。」

ルベスの隣で、倒れそうになりながら立って王の話を聞いているロイのことを心配して、

フォンは彼に声をかけた。ロイは、城の中にいたときとは比較にならないほど頼りなげな

声で王に答えた。

「・・・・・・あ・・・いえ、大丈夫です。ただちょっと・・・」

続きを言おうとした彼の視界に、微笑んでいるフィアレ−トが入った。

「・・・?どうかしたのか、ロイ殿。」

「・・・いえ、何でもないです・・・」

「行くわよ、ロイ。」

さして気にかける様子もなく、ルベスはロイにそう言うと馬車に乗り込んだ。続いて王に

次の言葉をかけられないようにと、ロイも乗り込んだ。

「それでは、フォン様、エリス様、行って参ります。」

「うん、気を付けてな。」

「・・・どうぞ、ご無事で。」

「はいや!」

御者の掛け声とともに馬は動きだし、王達の前を通過していった。いつの間にかその周

りには黒山の人集りができていて、興味津津に馬車の方を見つめたり、手を振ったりし

ていた。


多くの人に見送られながら、ロイとルベス、二人を乗せた馬車はラインハルトを後にした。



                                         第1章  完





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