8. 「久しぶりですね。そうそう、王はちゃんと元気にしていますよ。」 対峙したその男は一人だったが、余裕の笑みを浮かべながらそうエリスに言った。 「貴女がフォンを!!」 「ご名答、王女エリス殿。」 「なんでお前達がこの剣を盗もうとするんだ!?」 「・・・まあまあ、こんな所で立ち話はなんですから、我々のアジトへお越しになってはいか がかな。」 言って男は指をパチンと鳴らした。途端、茂みから数人の、顔に髑髏の入れ墨のある男達 が出て来る。 「その者達をお連れしろ。――丁重に扱え。」 男がそういうが早いが、男達はロイとエリスに飛びかかった。ロイは槍を取り上げられた上 に荒縄でぐるぐるに縛り倒され、エリスは猿ぐつわをかまされ後ろ手に縛られていた。しかし なぜかルベスだけは、何も攻撃を受けなかった。 「て、手前、だましたのか!!」 「・・・イルダーン、ロイにも猿ぐつわをかませてやれ。」 「へい。」 「ついて来い。」 男はそう言うと、山道を登り始めた。3人はそれについて行くしか方法がなかった。 3人が連れて行かれたのは、辺り一面が氷に覆われた洞窟だった。すでに陽は大分高くな ってきていて、木漏れ日が洞窟の周りの氷に反射し、洞窟の入り口はきらきらと輝いてい る。 王は洞窟の奥に監禁されていた。ロイ達と同じように縛られた王は、数人の入れ墨男達に 見張られているのだ。その王の前で男は立ち止まり3人を振り返った。 「さて、じゃあ取引を始めようか。」 男は3人を見張っていた男達に少し離れるよう指示をした。 「なあに、簡単な取引だ。ルベス、お前の持っている剣をよこして欲しい。そうすれば王に 手出しはしない。勿論お前達にもな。」 ルベスは黙って剣を鞘ごとベルトから引き抜いた。 「ほう。随分と物分りがよくなったな、ルベス。」 「勘違いしないでよ。まだ貴方達にこれを渡すとは言ってない。」 途端、周りの男達が笑い出した。その男達の中には例のレミング屋の顔も混じっていた。 「笑わせるなっ!今のお前は我々に逆らうことはできないんだからな!」 「例の火の玉の呪文を唱えてみろ!この氷でできた洞窟は一気に崩れるさ!」 「――ファイア・ボールを唱えるつもりなんてないわ。私はただなんで貴方達がこれを欲し がっているか、それを知りたいだけ。」 「――それは我々には答えることができないな。」 少々気取った風に男はルベスにそう言った。 「なにせこれは『あの御方』からの依頼なので・・・・・・おっとこれ以上は言えないな。」 「あの御方・・・?」 「お前達には関係のないことだ。――さて剣を渡してもらおうか。」 ――と、男が一歩前へ出た時、突如地震が起こった。 「ぐっ、ぐうむむむ」 ロイが入れ墨男達に体当たりをしながら何かを言っている。おそらくこの隙に逃げろと言っ ているのだろう。そう判断したルベスはフォンを支えながら、何とか洞窟の外へ出ることが できた。しかし、不思議なことに、4人が洞窟の外に出た途端、地震はぴたりととまってしま った。ホッと息をついたのもつかの間、4人はあっという間に入れ墨男達に囲まれた。例の 男が、ルベスの前に来て言う。 「――取引は、中止する!!」 男がそう言うと同時に、男達は一斉に飛びかかった。 「ファイア・ボール!」 ルベスはロイ達に襲い掛かろうとした男達に呪文を放つと、自分に飛び掛かろうとした男達 を剣の鞘で叩き伏せた。そして、例のリーダー格の男と慎重に間合いを取った。 「無駄な抵抗はしないことだ。お前のその呪は私には効かない。」 「そうだぜ!こいつらがどんな目にあってもいいのか!?」 振り返ったルベスは、ロイ達が男達に刃物を突きつけられているのを見た。そして、無言の まま剣の柄を握った。男は口の端に笑みを浮かべたままだ。 「よせよせ。無理をするな。お前にはその剣の封印を解くことはできないだろ?」 「ふ、封印?」 3人の中で唯一猿ぐつわをかまされていないフォンが驚きの声を上げた。話すことができな いロイとエリスも、その様子から驚いているようだ。 「そうとも。君達は知らなかったのかい?その剣は力ある者にしか抜くことが許されないの だよ。」 そういえば――ロイはこれまでの旅を思い出していた。確かにルベスは今まで剣を抜いた ことがない。あれは使うつもりがなかったからではなく、使うことができなかったからなのか ――ロイは頭の中でそう解釈した。 そうこうしている間にも、男はルベスに近づいている。3人は身動きがとれなくてただじっと ルベスを見ていた。ロイはそんな自分に内心腹をたてていた。自分が、自分にもっと力が あれば、あの生意気な男を殴り倒すことができるのに、と。ロイは頭の中で、時がゆっくりゆ っくりと進んでいくような感じをおぼえた。――そして。 男の手が剣に触れる一歩手前で、ルベスは剣の柄を引いた。 スーーッという音と共に、剣の刀身が木漏れ日によって照らされ、露になる―――。 瞬間男は悲鳴にも近い大声を上げていた。 「ばっ、馬鹿な!!何故貴様がその剣を!?馬鹿なーーっ!!」 ルベスは剣を上に掲げた。黒い刀身に光が当たり、刀身はまるで満天の星が輝く 夜空のように見えた。 その光景を見るなり、フォンは声を上げた。 「星々が、昼に瞬く時――」 「――神官は目覚める。」 そしてルベスが付け加えた。 「ああっ、馬鹿な馬鹿なっ!!――こうなったら仕方ない。お前達、その者どもを始末してし まえっ!」 ――同時だった。ロイが怒りに燃えて縄を引きちぎったのと、ルベスが呪文を唱えたのは。 「よくも俺達を、王と王女をここまでコケにしてくれたなぁっ!!」 「黒き炎よ、わが前にある愚かなる者達を焼き尽くせ!」 ロイは槍を取り返すと、ルベスの様子を見て、エリスとフォンを茂みの中へと連れて行った。 「ダーク・プロミネンス!!」 ルベスの持つ黒刃から炎がほとばしり、ルベスの周りを業火のごとく焼き尽くした。 男達は悲鳴を上げる暇もなく、灰と化した。後には、荒く息をするルベスのみが残された。 暑さのせいか、それとも急激な魔力の消耗のせいか、彼女の顔には玉のような汗がいくつ も光っていた。 しばらくして、ロイ達が茂みから出てきた。 「・・・あれ?あいつらは?」 「ああ、あいつらなら、そこら辺で灰になってるわ。――お墓でもつくる?」 「・・・面倒だから遠慮しとくよ。」 「ルビエスさん、貴女には何てお礼を言ったらいいのか・・・」 「気にしないでください、王様。」 ルベスは剣を軽く一振りすると、鞘に収めた。 「とにかく、早く城に戻ろう。」 「そうだな。城の者達を早く安心させてあげないと。」 4人は急ぎその場を後にしたのだった。 |