7.

王室の扉は開かれていた。王女エリスは2人の姿を認めると玉座を音もなく立ち上がっ

た。

「来たようですね。」

その王女の言葉には明らかに緊張が混じっていた。ロイとルベスは王室に入り、その

ただならぬ光景に息をのんだ。

王室には、城内の兵士全員が集められていた。兵士全員が部屋の横で立ち尽くしてい

る。そして何より気になるのが、王の玉座に誰も座っていない、ということだった。

「王様は、どうされたんですか?王女エリス様。」

「・・・そういえばどうしたんだろう。こんなに兵士達が集まっているのに・・・。」

城の様子の異変にを口にする二人に、エリスは躊躇いがちに言った。

「王が、攫われました。」

「・・・なんだって!?」

ロイの肩に乗っていたレミングが、思わず落ちそうになった。興奮するロイを抑えながら、

ルベスは王女に訊いた。

「・・・詳しく教えてください」

「王の寝室にどうやら犯人は侵入したようです。王のベッドの上に書置きが残されてい

ました。それにはこう書いてあります。『王を助けてほしくば、ロイとルベスをつれて来い。

やつらの持つ剣と交換してやる。ミンザの洞窟で待つ。』――と。」

「・・・剣?」

犯人の要求に、ルビエスは眉をひそめた。

「それってルベスの持っている剣のことじゃないか?俺は剣なんて持ってないし。」

「貴方達がそれしか剣を持っていないと言うのでしたら、おそらくルビエスさんの持つ剣

がそれにあたるのでしょう。しかし、犯人がどのような者達で、どのようにここに侵入し、

王をさらったのかがわからない以上、貴方がたを危険な目にあわせるわけにはいきま

せん。」

エリスは目を閉じて、その先の言葉を飲み込んだ。その様子が、まるで何か言いたいの

を抑えているようにルビエスには見えた。少し迷った後、ルベスは言った。

「―――つまり、剣を貸して欲しいということですか。」

王女は黙って頷いた。


一瞬の間をおいて、ルベスが答える。

「・・・・・・お断りします。」

王室が一気にざわめいた。

「お、おいルベス!」

「それに私は犯人を見ました。」

さらにざわめく兵士達を無視して、ルベスは昨日の出来事を端的に話し始めた。

「――そうですか。わかりました。では、貴方がたに直接そこへ行って頂きます。それで

も、よろしいですか?」

「構いません。」

頷いたルベスを見て、エリスもまた頷いた。そして、脇に控える男に、手短に命令を出し

た。

「大臣、このことは城の外に漏らさぬように。王と王女がいなくなったと聞けば、街は大

混乱になるでしょう。」

「・・・は?」

王と”王女”、というエリスの言葉を理解できず、大臣と呼ばれた男は首を傾げた。

「私も行きます。・・・それから騎士団長。貴方は兵士達が通常通り警備をしているかどう

か、しっかりと見張ってください。城の中はいつも通りでなければなりません。」

「・・・し、しかし」

「王女様、杖をお持ちしました。」

動揺する大臣だったが、すでに指示を受けた衛兵が、王女専用の杖を用意していた。王

女自身の意志であり、またロイとルビエスも居合わせていたため、今更止めることは困難

であった。

「ご苦労。後は頼みました。――夕方までに城に戻らなければ、応援を送ってください。

では、行きましょうか、ロイ、ルベス。」

『はい。』

固い決意を胸に、2人は言葉を返した。

3人は城の裏口からこっそりと外に出て、ラインハルトをあとにしたのだった。



小道をしばらく歩いて、ロイが口を開いた。

「・・・あの、王女様。一つ訊いてもよろしいですか?」

「構いませんよ。」

「あの、えっと・・・こんなことを訊くのは失礼かもしれませんが、王女様はいったいどんな

魔術をお使いになるのですか?」

出かける前に、杖を彼女は受け取っていた。と言うことは、彼女はなんらかの魔術を使っ

て敵に対抗するつもりなのだと考えられた。

「私が使うのは専ら防御や回復のものです。リフェ・モビリア神殿では、そういった術の

使用しか許可してくださいません。」

「では王女様は、リフェ・モビリア島の神殿で神の洗礼を受けられたのですか。」

「はい。・・・ところで、王女王女と呼ぶのはやめていただけないでしょうか。一応国民には

内密ということになっております。」

どう呼んだらいいのかと頭を悩ますロイだったが、少し考えて、名前で呼ぶことにした。

「わかりました。」

「・・・ところでルビエスさん。」

「ルベスで構いません、エリス様。」

「わかりました。・・・それで何故彼ら・・・つまり犯人達は、貴女の持つ剣を欲しているの

ですか?それに貴女自身も、その剣を非常に大切にしている。良かったらその剣の由

来を聞かせてもらえないかしら。」

ルベスの歩調が遅くなった。

「・・・この剣は。」

ルベスは話し始める。しかしその様子から、ルベスがその話をしたくないというのは一目

瞭然であった。

「この剣は、サイ=ディ=グロームのもので、私の父フージュはサイに光の大陸へ飛ば

される時にこれを預かったそうです。父と母は私が生まれてまもなく消息を絶ったそうで、

私はロイの父ライに今まで育てられました。ライが幼い私を見つけた時、側にこの剣が

置いてあったそうです。」

「・・・そう、だったんですか。」

その時、先頭を歩いていたロイが足を止めた。

「――どうやらお客さんのお出ましみたいだ。」

横手の茂みが大きく振れ中から出てきたのは、正体不明の緑色で表面がぬらりと光る

生物(?)だった。

「ゾンビだわ。水草の魂に霊を憑依させて作られたみたいね。」

「げ・・・最悪。」

ゾンビは、陽光に怪しく体を光らせながら、ゆっくりと3人の方へと近づいてきていた。来

た道を逃げることは簡単だが、だがしかしそれでは意味がない。

「ということは、このゾンビを作った人がいるわけね。」

「そう。・・・おそらく『犯人』だわ。」

冷静に状況を分析し始めた二人に、目の前の光景にうんざりしたロイが槍を構えた。

「どうでもいいけど、さっさと片付けようよ。気持ち悪いから。」

「・・・そうね。・・・ファイア・ボール!」

炎がゾンビの中で生まれ、ゾンビを内側から焼き尽くした。エリスはルベスが魔法を放っ

たのを見て、目を丸くしていた。

「・・・ルベスさん、魔法が使えたんですか。・・・でも、どうして・・・?」

「素晴らしい。ルビエス=カトゥス=レトロイダ。またお会いできましたね。」

エリスの言葉をさえぎって、若い男の声が辺りに響いた。続いてその声の主が茂みを割

って現れ、3人を凝視した。その男を、ロイとルベスは良く知っていた。






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