| 6. 真夜中、ルベスはやたらと大きなひそひそ声で目を覚ました。彼女の部屋は1階の隅にあ ったため、街道での会話は丸聞こえだった。こんな夜中に迷惑な、と思いながらそっと窓を 開けた。好奇心もあったが、こんな夜遅くに活動している人々に善人はいない、と彼女は思 ったからである。彼女は場合によっては呪文による遠隔攻撃を仕掛けるつもりでいた。 ルベスは耳を澄ませた。男たちの会話が聞こえる。人数は3〜4人といったところか。 「・・・なあに、さっき見たが、大した奴らじゃなかったぜ。」 「ロイの方はな。だがあのルベスとかいう小娘は馬鹿にしたもんじゃねえぜ。なにしろ火の 呪文を使いやがるからな。」 「なあに、呪文だけじゃあ俺達に太刀打ちできねえさ。唱えている間にやっちまえばいい。」 ルベスはそっと窓の外を見た。男が3人、うち2人は闇にまぎれて黒い影にしか見えない。 もう1人はわずかな月光によって顔は見えないものの、容姿は見えた。そしてその男は彼 女には見覚えのある姿をしていた。3人の話はまだ続いている。 「ところで王子はどうする。」 「心配はいりません。こやつらに案内をしてもらいます。」 言って、男の1人は大きな箱を取り出した。 「・・・それはいったい何なんでぇ?」 この中におりますのは、レミングの子供でございます。こやつらは鼻のよくきくやつらでして・ ・・。」 「そうか。王子の物をかがせて、匂いで王子のいる部屋まで案内してもらうってわけだな? 」 「その通りでございます。」 「では、早速・・・。」 「はい。」 男は箱を開けた。そこから無数の何かが飛び出し、お城に向かって走り出した。 「ほっほっほ。では我々も行きましょうか。」 男たちはレミングたちの走っていった方に向かって歩いていった。街道に静寂が戻る。ルベ スは窓を閉め、再びベッドに横になった。 次の日の朝。ルベスが1人で朝食を摂っていると、寝坊をしたロイが彼女のいるテーブルに 走ってきた。 「ルベス、ルベス、聞いてよ!」 「・・・おはよう。随分遅かったわね。」 ロイの大声を聞き流すと、彼女はロールパンのかけらを口に放り込んだ。そんなルベスの 顔に、ロイは真っ白なレミングの子供を突きつけた。ひくひくと髭を上下させて、愛嬌をいっぱ いに振りまいているレミングの姿に、ルベスの動きが止まる。 「朝起きたら、こいつが僕の部屋の中にいたんだ。これって泥棒したって言わないよな!?」 「・・・言うんじゃない?」 ロイの多少青ざめた顔を見上げながら、軽くルベスは言った。そして口の端をゆがませる。 「そ、そんなぁ・・・。」 すっかり顔を青ざめながら、ロイは崩れ落ちた。そんな彼を無視して、ルベスは立ち上がっ た。 「けどまあ、証拠もそろったことだし、そろそろお城へ行くわよ、ロイ。」 「え、証拠って何だよ〜。お願いだからこのことは王様には内緒にしてくれよ〜ルベス〜〜」 「うだうだ言ってないで、さっさと支度をしてよっ!先に行くわよっ!」 ファイアーボールの呪文をぶっぱなしそうな勢いで、彼女は嘆くロイに言い放った。 2人は城に向かって裏道を歩き始めた。 「なあ、ルベス。・・・この道を先に行くと、昨日のレミング屋があると思ったんだけど。」 「あったわよ。でも今日はないわ。おそらく・・・」 ルベスははっきりと言った。彼女は、昨夜遅くに見た人影の一人があのレミングを売ってい た男だと確信していた。2人は昨日最初に尋ねたレストランの近くまできた。 「ルベス、まずいよ。こいつがいるってことがバレたら・・・」 「大丈夫よ。」 「そんな人事みたいに言うなよ〜。」 「人事だもの。」 ――ルベスの答えは素っ気なかった。 しかしロイの予想に反して、レミング屋は影も形もなくなっていた。ロイは大層安心していた が、ルベスは胸騒ぎを覚えた。ロイをその場において、彼女は近くの店に入っていき、レミ ング屋のことを聞いた。 「え?レミング屋?・・・ああ目の前の露店か。昨日の夜に主が荷物をまとめてたぜ。ま、今 時あんな値段でレミングなんか誰も買わねえわな。売れなくなったからどっかへ行ったんじ ゃねえか。」 ルベスは礼代わりにレーズンドーナツを2個買って店を出た。彼女はドーナツをロイに渡す と、城へと急いだ。朝食代わりのドーナツを口に頬張りながら、ロイはルベスにその訳を訊 いた。 「訳は城に着いてから話すわ。私の早とちりってこともあるから。」 城の扉が見えてきた。扉の横にいる兵士の顔がいくぶん青ざめている。兵士は2人を見つ けると、走ってきて小声で言った。 「お、王女様がお待ちです。」 兵士は昨日よりも扉をかなり小さく開けると、2人に急いで中に入るように指示をした。そし て2人が中に入ると同時に扉は閉ざされた。 「いったいどういうことですか?」 城内は昨日とは打って変わって静かだった。視界には兵士以外誰一人としていない。ロイ の声が城の中に響いた。 「急いで王女様にお会いください。それで全てがわかっていただけます。」 そう言うと、兵士はやはり扉を小さく開けて外へ出て行ってしまった。 「・・・どういうことだ、ルベス?」 「嫌な予感がするわ。・・・とにかく王女に会いましょう。」 言うなりルベスは駆け出した。一瞬遅れてロイも。 |