4. ガタゴトガタタン・・・ 馬車の中はひどく揺れていたが、ロイはそんなことはものともせずにうたた寝をしていた 。そんなロイのことを眺めながら、ルベスは幾度目かのため息をもらした。 「まったく、のん気なんだから。」 「本当よね。まったく誰に似たのかしら。」 一人でつぶやいていた言葉に、まさか言葉が返ってくるとは思わなかったので、一瞬ル ベスはぎょっとした。 「・・・聞こえてました?」 「・・・ええ。」 やや戸惑い顔のルベスにフィアレートは微笑み返す。 「きっとお父様に似たのね、顔もなんとなく面影があるし。・・・サイ様がこんな風でない といいんですけど。」 「・・・え?」 「・・・あら、聞いていません?サイ様はお父様のいとこなんですよ。・・・まああんまり血 は繋がっていませんけど。なんでも話では、50年前に、お父様と貴女のお父様フージュ は、サイ様とともにヴェレヌと戦ったとか。」 「・・・そ・・・そうなんですか。・・・父が・・・」 「そういえばお父様、前にルベスちゃんのこと言ってたっけ。本当にルベスはフージュに 似ているな。やっぱり親子は似ているもんだなって。・・・自分達のことは棚に上げて。」 言って彼女はくすくすと笑った。それを見てルベスは、心の中で再びため息をついた。 「なあ、ルベス。」 「・・・?」 ロイがそう切り出したのは、それからだいぶ経ってからのことだった。 「あいつら、なんで俺達をねらってるんだろう。」 能天気なロイがそんなことを心配するなど珍しいなと思いながら、ルベスは答えた。 「ねらってるって言っても、まだ数回しか襲われてないじゃない。」 「一回襲われれば十分だよ。」 「そう?――でもあいつら、もともと私たちに好意を持っていないから、旅の邪魔をして やろうって思ってやっただけだと思うけど。」 「・・・そうかなぁ・・・」 何かを考え込むように唸りだした彼の様子がおかしくて、ルビエスは思ったことをそのま ま言ってしまった。 「珍しいわね。ロイがそんなに心配するなんて。明日は大雨かしら。」 「な、ど、どういう意味だよ、ルベス!」 見る見るうちに赤くなるロイの顔を眺めているのは、なお面白かった。 「そのままの意味よ。」 「・・・こ、この」 「ほらほら、喧嘩なんてしないでよ。大切な荷物が壊れたりしたら、弁償してもらうわよ !」 「・・・ご、ごめんなさい、姉さん。」 「それに、もうすぐラインハルトに着くわ。降りる準備をしておいてね。」 ――かくしてロイ達は、無事にラインハルトへ着くことができたのであった。 ―――王都ラインハルト。 「・・・お、大っきいなぁ・・・」 「・・・。」 そこへ着いたのは、それから半時ほどしてからのことだった。 2人は城の前で馬車を降り、ラインハルトの地を踏んだ。フィアレートが気を利かせて、 城の所まで馬車を走らせてくれたのであった。 「ありがとう姉さん。」 「ありがとうございました。」 「じゃあ私は『メツォータ』っていう店にいるから。用があったらきてちょうだい。2〜3日 は動けないと思うから。」 「はい。」 「じゃあね。―――それ!」 荷馬車はゆっくりと街中へ消えていった。 2人は早速扉の横に立っていた兵士に用件を告げた。 「ああ、やはり貴方はライ殿のご子息でしたか。噂に違わず、よく似てらっしゃいます。 ささ!こちらへ。王のお部屋へお連れします。」 兵士は城の門を開けた。人の背の3倍はゆうにある大きな扉だ。床一面に敷き詰めら れた赤じゅうたんの上を、兵士を先頭に2人は進んでいった。 城の中は、まるで別世界だった。通り過ぎる人々はみな豪奢な着物を着こなし、優雅に 挨拶を交わす。高い高い天井からは大きなシャンデリアが吊り下げられており、室内に 暖かな光を満たしている。窓ガラスに曇りはなく、青々とした空が見えた。ルベスはそれ らに対して何の興味も示さなかったが、ロイは好奇心旺盛で始終キョロキョロしていた。 ――その様子を見て、ルベスは再度小さな溜息をついた。 案内された王室には、玉座が2つあり、その1つには年の頃7〜8歳の少年が、もう一 方にはフィアレートと同じ位の歳の、しかしなんとなく影の薄い表情の女性が座っていた 。この2人が、ラインハルトの王、エリス=フォン=ディ=ラインハルトと王女、エリス= ディ=ウル=ド=ラインハルトである。 「ようこそ、ラインハルトへ。ロイ=ディ=スペール、ルビエス=カトゥス=レトロイダ。」 王の口から出た言葉に、2人は顔を見合わせた。 「・・・ど、どうして僕たちの名前をご存知なんですか?」 「昨日ライ殿からの手紙をいただきました。近日中にこちらに着くと。」 「そうだったんですか。」 いまさらながら、父親の気遣いにロイは感謝をした。 「それに、貴方はライ殿によく似ている。」 「僕が・・・父に・・・?」 「本当によく似ていらっしゃいますわ。」 「・・・そ、そうかな・・・」 父親とはいえ、英雄に似ていると言われると、なんとなく嬉しくてロイは照れ笑いをした。 「ところで、王様は何故私達をここへお呼びになったのですか?」 「そうだな。前置きはこれくらいにして、本題に入ろう。」 そもそもこの旅は、王からの書状が元で始まったものだった。王は話し始めた。 「――実はな。神官のサイとヴェレヌが、復活するのではないか、という話があるのだ。 有名な予言者、カスタ=扇=リネティットのことは、一度くらいは耳に入れたことがある だろう。その彼の予言書に、次のようなことが書いてあった。 『巨大な魔力を操りし兄妹、時の流れのうちに心、相容れず共に滅びの道を進まん。さ れど、星々が昼に瞬く時、再びこの地によみがえらん。』」 2人は顔を見合わせた。――いや、2人だけでなく、周りにいた家臣や兵士たちも、互い に顔を見合わせた。ざわつき始めた人々に向かって、今度は王女エリスが口を開いた。 「『巨大な魔力を操りし兄妹』というのは、神官サイとヴェレヌのことを示します。次の、『 共に滅びの道を進まん』というのは、おそらく50年前の闇のセンターポールでの戦いの ことを示しているのでしょう。」 「そして問題は、最後の部分『星々が昼に瞬く時』、だ。」 二人・・・だけでなく、その場に控えていた誰もが、この言葉の意味がわからずに首を傾 げていた。 「昼に星が瞬くなんて・・・」 「おそらく『星々』は夜空に輝く星ではなく、別のものを示しているのだと思います。 そして、それが果たして何なのかがわかれば、神官サイとヴェレヌは復活するのです。」 「そこでロイとルビエス殿に、闇のセンターポールの調査も含めて、昼に瞬く星が何を指 すのかを探ってもらいたいのだ。」 「勿論、我々も調査団を闇の大陸に派遣するつもりです。しかし、闇のセンターポール地 区の現状がほとんどわからない今、危険な場所に貴方たちを連れて行くことはできませ ん。そこで、貴方たちにはこの光の大陸で探索していただきたいのです。」 「・・・ルベス、どうする・・・?」 ロイは小声でルベスに話しかけた。しかし、ルベスはロイを無視してはっきりと答えた。 「わかりました。」 「ル、ルベス」 「よかった。そう言ってくれると思っていた。・・・では今日はゆっくり休んでください。出発 の用意はこちらでするので、明朝また、城へ来てください。」 『わかりました』 2人は深々と礼をすると、足早に城の外へと出た。 |