3. 「ロイ、走るわよ。」 「えっ!?」 ルベスは小声でそう言うと、突然走り出した。 その言葉の意図するところがわからず、一瞬遅れて走り出すロイ。 ルベスよりも足の速いロイは、彼女に追いつくとペースをやや落としてその訳を聞いた。 「見てわからないの?追っ手よ。」 やはり小声でルベスはこう答えると、口の中で何かをつぶやき始めた。 ロイはちらっと横手を見て、やっとそれを理解した。 頬に入れ墨をした数人の男たち―――だが、悪餓鬼たちではない。 昔から、ライに気をつけるよう注意されていたヤツらで、以前にも村に襲ってきたことが ある、危険なヤツらだ。 しかし、それにしては数が少ないように思えた。以前に来たときは、30人を超えていた。 何故―――そう疑問がロイの頭をよぎった時、前方横の茂みが動いた。 そこから手に手に武器を持って飛び出してきたのは、やはり多数の入れ墨男たち。 「このまま突っ込むわよっ。」 この者たちを前にして、引くことはできない。背を向ければ、必ず止めを刺して目的のも のを手に入れるまで、追いかけてくる。 ロイは槍を構え、ルベスは件を鞘ごと引き抜いた。 そして――― 「ファイア・ボール!」 先ほど唱えた呪を男たちに向かって解き放った。 途端、火炎球が前の包囲網の一部を吹き飛ばす。 「うおぉぉぉ!!」 雄たけびをあげて攻めてくる男たちに、ロイもまた雄たけびをあげながら突進した。 そして行く手を邪魔する男たち、そのことごとくを打ち据えた。 続く、ルベスの呪文攻撃第二弾が後方に炸裂する。 二人の後ろで響く無数の悲鳴―――。 二人はそのまま走り続けた。 とりあえずはルベスの呪文で足止めを多少することができたが、またいつ襲ってくるとも わからないのだ。王都へそのまま入ってしまえば、襲われる心配はない。 しかし問題は、速く走っていったとしても、人間の足では最低あと半日はかかるということ だった。 「ル、ルベス・・・少し休もうよ。あと半日近く走り続けるなんて、いくらなんでも無理だよ っ。武器だって結構重いし・・・。」 「・・・そうね。・・・でも・・・。」 ルベスは立ち止まって後ろを振り返った。二人とも、かなり息が上がっていた。ゆっくりと 呼吸を整えて辺りの様子を伺った。 ・・・・・・幸いなことに、近くに怪しげな人の気配はない。 爽やかな風が、木々の間を、街道を走り抜けてゆく―――。 ロイはそばに大きな岩を見つけると、そこに腰を降ろした。 そして空を見上げて、大きく息を吸って―――吐いた。 空には雲ひとつない。 ただ、澄んだ青い空が広がるのみ。 「―――今日中にラインハルトに着けるといいんだけど。」 言ってルベスも空を見上げる。 風に身をまかせると、鳥のさえずりが聞こえてきた。 そして、小さく小川の流れる音も。 ―――平和だった。 サイとヴェレヌ。 二つの大陸にそれぞれあるセンターポールを守る、この二人の神官の存在が消えてか らもう五十年という歳月が経っている。 世界平和の象徴が消えた。 しかしながら、世界は何も変わっていない。 それではこの二人はいったいなんだったのか。 ルベスの頭の中で、様々な考えがめぐる。 「やはり彼らは生きているのか・・・・・?」 そうルベスが小声でつぶやいた時だった。 遠くで、馬のいななく声が聞こえた。 馬の足音と車輪の回転する音が近づいてくる―――馬車のようだ。 岩の上で寝転んでいたロイは、その音に気づいて身を起こした。 そしてその操者を見て、目を輝かせた。朝に無くしたツキが、ようやく戻ってきたと思う。 「ルベス、今日中にラインハルトに着けそうだよ!」 「・・・え?」 初めルベスは、ロイが何を言いたいのか分からなかったが、ロイが止めようとしている 馬車の操者を見て納得し、彼の元に駆け寄った。 「・・・ロイじゃない。それにルベスちゃんも。こんな所で会えるなんて。」 「フィアレートさん。」 「ねえ、姉さんはこれからどこへ行くの?」 「私はラムリリースまで行くんだけど、・・・それがどうかしたの?」 ロイは先ほどのことを手短かにフィアレートに話した。 「あの入れ墨男たちが、あなた達を?盗賊のあいつらがどうしてお金のないあなた達を 襲う必要があるのかしら・・・?」 「わからないけど、とにかく・・・」 ロイの言葉を継いで、ルビエスも先を急ぐよう彼女を説得した。 「とにかく、一刻も早くラインハルトへ行かなければなりません。先程足止めをしましたが 、あれであきらめるような奴らではありませんし、何より荷馬車を走らせている貴女も、 このまま行って彼らとぶつかれば危険だと思います。」 「・・・分かったわ。ともかく私は、一度ラインハルトへ戻ることにします。さあ、貴方たち、 早く後ろに乗って!!」 「うん、ありがとう姉さん。」 「ありがとうございます、フィアレートさん。」 ――しかし。 「っ!?見つけたぞ!お前ら!!」 馬車の向きを変え、いざ馬を走らせようとした時、例の入れ墨男達が走ってくるのが見 えた。 「はいやっ!!」 フィアレートは動揺一つせずに手綱を引いた。そして馬はいななき走り出した―――、 刹那、横手の茂みから数本の矢が現れ、荷物をのせている部分に命中する。 「うわっ!!」 「っ!危ないわね!!」 ルベスは急ぎ呪文を唱えると、今は過ぎ去った茂みに向かって火炎球を放った。 「ファイア・ボール!!」 炎とともに人が飛び散るのが遥か遠くで見えた。ちらと後を振り返ったフィアレートが歓 喜の声をあげる。 「うわぉ、ルベスちゃん、やるーぅ!」 3人を乗せた荷馬車は、街道を全速力で駆けて行った。 |