2. 木々の光が心地よく差し込む森の中をロイは足早に進んでいった。道は途中でラムリリー スへの道とラインハルトへの道に分かれている。 「・・・・・・ええっとー、確かルビエスは王都に行くとか行かないとか言ってたよな、前に・・・・・ ・。えっとー。」 ロイは、確かに英雄であるライの息子ではあるのだが、どうにも少しばかり頼りないところが あるのが、父ライの悩みの種でもあった。 結局ロイは、「どちらにしようかな」で決め、ラムリリースに続く道のほ うを選んだ。と、ロイ が歩み出した時だった。彼の頭の上にリンゴの実 が、バコッ、といい音を立てて命中した。 「いってえーーーっっ!!誰だ、人の頭にりんごぶつけたのはっっ!」 「ふっ、いい音ね、ロイ。」 頭上に人の気配を感じて上を見上げてみると、そこには見覚えのある 一つの影があった。 人を小ばかにしたような声の主は、他でもないルビエスだった。木漏れ日を受けて輝く彼女 の黒髪は、森を吹き抜ける風に軽やかに揺れた。その前髪の間から見える彼女の双眸は、 ”神官”と同じ、この世界では珍しいブルー・アイである。 「な、なにすんだよ、ルベスっ!」 「あんたのことだから、どうせまた道を間違えるんじゃないかと思って、ここで待ってたんじゃ ない。ありがたいと思ってよ。」 「え、・・・・ラ、ラムリリースじゃなかったっけ・・・・・?」 「じゃあそっちにいってみたら?」 覚えていなかったロイがそもそもは悪いのだが、からかうようにそう言った彼女に、少しロイ は苛立った。 「そうならそうと早く言えよっ!!」 なんのためらいもなくロイは右の方の道を歩いていくと、ドサッ、という音とともにロイはルベ スの視界から消えた・・・・・・もとい穴に落ちたようだった。 「いっでーーーーえっっっ!!ッッルベス!!!てめえっ!!」 「・・・なにやってんのよ。」 怪訝そうな顔で、穴から這い上がろうとしているロイを見て、彼女は言った。だが、ただでさ えイラついていたロイは、彼女に食って掛かった。 「おまえのせいだろーーっっっ!!」 「・・・私、知らないわよ。いくら時間つぶしったって、そんな大きな穴を 掘るような重労働し ないわよ。」 「っじゃあいったい誰がやったんだよっっ!!」 「わーーーはっはっはっはっははは!!!!!」 ロイが叫んだ次の瞬間、笑いの渦があたりを取り巻き、突然のことに二人は唖然とした。 「いい様だな、ロイッッ!!」 「っっ!!おまえらっっ!」 穴の周りに集まってきたのは、左頬に死神の刺青を入れた悪餓鬼たちだった。皆、穴を 掘ったせいか服が泥だらけで、どちらかといえば、 そこいらによく出没するゾンビのよう に見える。 「落とし穴に落ちなかったら、どうしようかと思ったぜ。」 「いいおとしたよなぁー。」 「っこ、このぉっっ!!」 悔しさのあまり歯軋りをしたロイをあざけ笑いながら、リーダーと思われるやつはスコッ プを片手に言った。 「じゃあな、勇者殿。短い旅だったなっっ!!」 こう言うと、悪餓鬼たちはスコップで穴を埋め始めた。 「ぐわっ!やっやめろ!!口に土が入ったじゃないかっっ!!」 「知ったことかっっ!!はーーっはっはっはっはっは!!!」 笑いの渦が再び巻き起こったとき、ルベスが動いた。鞘ごと剣を抜く と、そのまま木から 飛び降りて人だかりの中に突っ込んだ。 がごおおぉぉん!! 鈍い音が辺りに響くと同時に、リーダー格の奴の体が穴の中のロイの頭上を通過してい った。 「っ!!」 悪餓鬼一同は思わず息を飲み込んだ。注意がうまい具合に自分から反れたので、ロイ は事態が悪化しないように、急いで穴から飛び出した。そして、ルベスの近くに着地し槍 を構える。 「き、貴様っ、よくもやったな!!」 「女だからといって手加減はしないぞっっ!!」 「別にしてもらわなくても結構よっ!」 「な、なにぃぃ!!」 「ファイアー・ボール!!」 怯む男たちに構わず、ルビエスは術を発動させる。・・・・・・ごく簡単な、だが強力な火の 術だ。 「うどわぁぁぁぁっっ!?」 手前にいた数人を炎の玉が命中した。目の前で黒焦げになった仲間 を見て思わず引き 下がる悪餓鬼たち。続いて後ろからのロイの攻撃 が、引き下がった連中数人を左右に吹 っ飛ばした。性格は頼りなくても、ライの教え子であり、尚且つ彼の血を引くロイの武術は、 明らかに普通の少年の技とは一線を画していた。 そして、吹き飛ばされたうちの一人が、今にも穴から出ようとしたリーダーとぶつかり面白い ように転がって穴に落ちていった。 「あ、兄貴っっ!!」 「だいじょうぶですかぃ!!」 穴に集まる仲間たちは、吹き飛ばされた奴の手を取り合いながら言っ た。残された二人 は、ただ呆然としていた。もはや、悪餓鬼たちの戦意は萎えてしまったらしい。 「あ、あいつがリーダーだったんだな。」 「・・・知らなかったの・・・?」 ロイの台詞が、さらにルベスを呆れさせる。 「・・・ああ。道理で他の奴らあいつのこと無視してたわけか・・・。」 「ま、ともかく今のうちに行きましょう。」 「ああ。・・・ラムリリースへは、・・・えぇーーっと・・・。」 「・・・・・・。馬鹿は死んでも直らないわね・・・。」 事態を打開した二人は、ラインハルトへと急いだのだった。 |