7. 「―――それは本当か?」 「え、ええ本当です。なんでしたらシェルファ−にも聞いてみてください。」 口調もすっかり、ですます調となっている。 「ふむ。では、私がいることは知らなかったんだな?」 「はい、もちろんです。」 「―――ですます調はやめろ。聞き苦しい。」 「わかりま・・・分かった。でもそれがど うかしたのか?」 言葉に気を付けながら、レイドは質問した。 「あの空間は私が作ったものだ。もともとあそこにあった洞窟ではない。」 「貴方が作った?なぜ そんなことを・・・」 「―――身を隠すためだ。」 「・・・はい?」 ヴェレヌの言葉に、レイドは間の抜けた声を上げた。それも無理のないことだろう。神官と は強力な魔力を持つ存在のいわば代名詞であり、また強い魔力を持つものにしかなれ ないのだ。その力ある者が、自分の身をわざわざ隠すなど、作り話を通り越 して笑い話 にしか聞こえない。彼の反応は極めて普通のものであった。それに対して、神官は目を 再度細めた。 「私は命を狙われている。そしてそれを止める術を私は知らない。」 なるほど、こう考えると先ほどのヴェレヌの態度の理由も説明がつく。しかし、レイドには それが信じられなかった。敢えて彼は聞いてみた。 「なぜ・・・?」 「サイの抵抗を受けて、回復の為の術を使うことができなくなった。だからサイが呪を解 かないかぎり、私は死ぬのを待つだけ だ。」 「・・・でもサイ様はもういないのでは?」 そのとき、レイドには神官の眼光が鋭くなったように思えた。 「いない・・・だと?」 ヴェルヌは問い返した。 「そ、そう いうことになってるけど。」 「―――そうか。道理で私を狙う奴がいるわけだ・・・」 「それってさっきの男のことなのか?」 「奴だけなどという生易しいものではない。サイを殺した魔神官として、50年前から私は 追われる身だ。」 「ごっ・・・」 神官の言葉にレイドは驚いた。50年前など、彼はこの世にはいない。果たしてそのよう な長い間追われることに、自分は耐えられるだろうか―――そう思い、彼は言葉に詰ま った。 「それより、彼女をどうするつもりだ。」 言って神官は、視線を傍らで眠っているシェルファ−に向けた。 「え、ああ、もちろん、国に帰すつもりだよ。彼女は王女だしね。」 「・・・それは正気か。」 「もちろん、俺が城まで付いていくつもりだけど。」 「お前・・・その娘が何故火事のときに助け出されなかったか、分かるか?」 「・・・それは・・・」 「彼女は普通の人間ではない。」 「・・・分かってる。外に出て彼女の髪の色を見ていて、何となくそうなんじゃないかと思っ た。シェルファ−を国に帰していいものかと、正直迷ってる。」 彼は視線を傍らで静かな寝息をたてている少女に向けた。 「でも俺は、シェルファ−を火の中から助けたときに、彼女を守ると決めた。だから彼女を 国に帰すまで、彼女に付いているつもりだ。」 「彼女は半エルフだ。国に帰れば、時期国王の座を狙う臣下らに”処分”されるだろう。彼 女が戻れる日は遠いかもしれん。それでも、彼女に付いていくというか。」 ヴェレヌはレイドを真っ直に見た。 「もちろんだ。」 レイドのその言葉に、神官は薄く笑って瞳を閉じた。 「では、明朝だな。ラムドにでも向かうか。」 神官の言葉にレイドは目を見開く。 「貴方も来るっていうのか?」 「シェルファ−とお前には助けられた。宛のない旅だというのなら、私も同行する。」 それきり、神官は口を閉ざしてしまった。どうやら、眠りについたようだ。悪の神官として追 われるヴェレヌと半エルフの王女を助けた自分。どちらも同罪かと心中に溜め息を吐きな がら、レイドもまた眠りについた。 ―――日の光がまぶしい朝。鳥のさえずりは絶えることを知らない。 シェルファ−ナがラインハルトに戻れないことを知ったら、どれほど悲しむだろうか・・・そう レイドは心配していたが、彼女はあっさりとその事を受け入れ た。 「仕方がないわ。レイドさんは私の命の恩人です。迷惑をかけたりしたくない ですから・・・。」 シェルファ−は困惑顔のレイドに向かって微笑んで、こう付け加えた。 「貴方を信じることにします。」 神官はというと、そばの木の幹に寄りかかり、風に吹かれていた。レイドが旅の助力を改 めて頼もうと近づくと、彼は陽の昇る方に視線を向けた。 「何もお前たちについていくだけではない。度々お前たちが私に付いてくるよ うなことにもなる。頼まれることは何もない。」 神官の言葉はどこまでもそっけなかったが、同時に心強く彼には聞こえた。 第1章 完 |