6. 光が目の前に迫ってきた。暗いところに目が慣れていたので、二人は思わず目をしばたい た。 果たしてそれは、外の光であった。 迷宮はそこで終わりを告げ、地が支配していた。 草が緑のじゅうたんを織りなしていた。風が草を揺らし、爽やかな自然のメロディ−を奏で 上げる。そして鳥のさえずりとどこからともなく聞こえてくる水の流れる音がそれに新たな 旋律を添えた。 「素敵・・・。」 「でも、ここはいったいどこなんだ?」 レイドは、後ろにいるはずの神官に尋ねたが、返事は返ってこなかった。かわりに、不調 和な金属音が辺りに響いた。その音に、二人は思わず後を振り返った。 神官が壁に手をついて、荒い息を吐きながらかがみこんでいた。血はやはり、流れ続けて いる。先ほどの金属音は、”黒いもの”が床に落ちた音だった。 彼は意識がだんだん朦朧としてくることに気が付いた。 「ヴェレヌ殿・・・?」 「ヴェレヌ様!」 レイドとシェルファ−ナ、二人の声が遠くで聞こえたように思え、無意識に彼は頭を振った。 彼は何者かが自分に触れるような感覚を覚えた。 やめろ・・・やめろっ! 彼は、幾つもの”手”が自分に向けられていることに気が付いた。誰のものだかは分から ない―――いや、一組だけ・・・。 白くてほっそりとした、白魚のような指の手・・・。その片方に、自分がしているものと同じ型 の指輪がある。 『・・・!!』 彼はその名を叫んだ。だか声にはならなかった。 『・・・!!』 なんども叫びながら、彼は1組の手に片手を伸ばした。だが、届かない。傷の痛みに耐え ながら一生懸命伸ばしてみるが、やはり手は届かない。闇が、彼を取り巻き始めた。手は その闇に飲まれ徐々に消えていく。 『待て・・・待ってくれ・・・!!』 そして、ヴェレヌの意識もまた闇に落ちていった。 「・・・・・・ぅ・・・うぅ・・・」 微かな呻き声に、レイドは傍らに横になっている神官を振り返った。神官は、うっすらとそ の瞳を開けた。 「気が付いたのか・・・?」 神官は無言でその身を起こした。 ―――が、すぐにまた倒れてしまった。 「シェルファ−に術を唱えてもらったけど・・・まだ痛むようだな。」 「・・・・・・あぁ。」 レイドの言葉に意外にも素直に答えたので、ヴェレヌが少し弱気になったように彼には思 えた。 「・・・彼女は?」 「ああ、シェルファ−ならもう寝てるよ。魔力を使い過ぎたしね。」 「―――そうか。」 会話はそこで終わり、沈黙がその場を支配した。 否、微かながら、虫の音が辺りに響く。レイドは焚火の跡を見つめながら、神官に尋ねた。 「―――サイ様のことか。」 「・・・・・・。」 ヴェレヌは無言のままだ。 「うわごとのように言ってたよ、サイ様の名をね。」 ヴェレヌは何かから逃げるかのように、瞳を閉じた。そしてレイドに問う。 「・・・他に・・・他に何か言っていたか?」 「いや、何も。」 「・・・・・・そうか。」 「そもそも、貴方は本当に神官なのですか?神官について一番確かな記録は神官戦争だ けど、それはもう50年も前の話だ。単純に考えれば、神官は50歳以上ってことになる。け れど貴方はどう見ても20代だ。」 レイドの問いに、ヴェレヌは溜め息を吐きながら答えた。 「人は見た目では分からない。それに、神官は年を取らん。」 神官のその簡潔な答えに、彼は戸惑った。 「年を取らない・・・?どういうことだ?」 「それよりも」 レイドの問いに答えず、今度は神官が彼に尋いた。 「お前たちは何故あの空間に入ってきた?」 「あの空間・・・?もしかして、貴方と会った洞窟ですか?」 「―――そうだ。」 「あの時、ヘムンブルグ城が火事になって・・・」 レイドは当時のことを思い出しながら言った。それを聞くヴェレヌの表情は、なぜか真剣だ った。青い双眸がレイドの横顔を捕らえる。 「中に取り残されたシェルファ−ナを助けようと城の中に入ったまではよかったんだけど、 出られなくなってしまってね。それで、正面の扉から出ようと階段を降りようとしたら、もの の見事に崩れて・・・気が付いたらあの洞窟にいたんだ。」 話終えて視線を元に戻した彼は、神官の鋭い目線とぶつかり思わず硬直した。 |