5.

道は行き止まりになっていた。青い光は壁のところに当たったままである。

ヴェレヌは、二人の数歩前に立ったまま身動き一つせずに立っている。

その意図するところに気付き、シェルファーナが小さく悲鳴をあげた。

「み、道が・・・」

レイドはシェルファーナをかばいながら、剣を引き抜き叫んだ。

「やはり我々をだましていたのかっ!!」

戦慄を覚えながらも、レイドは剣を構える。シェルファーナはそんな彼の後ろにしがみつ

いたまま緊張のあまり動かない。


冷たい空気が、背を向けたままの神官とレイドたちの間に流れた。


だが、神官の口から漏れたのは、二人にとって意外な言葉だった。

「――お前たちはそこにいろ。」

ヴェレヌはそう言うと、まるで暗殺者ように目から下を首元にたるむ黒いマスクで覆い隠

した。

「・・・・・・賊め・・・姿を現せ――」

そう呟いた瞬間、神官の周りに魔力が集まり始める。

あまりのその魔力の強さに、彼の髪や衣装がゆらゆらと揺らめいた。

彼の周りの空間は、ねじれ、うねり、まるで生き物のように蠢いた。


――そして。

神官は右手を突き出し、魔力を解き放った。

「ヴィジョン・ブレイク!!」

発動の詞とともに、あたりに閃光がほどばしった。

光は壁にぶつかり、四散する――。


そしてそれは音もなく砕け散った。

代わりに、目の前には一人の戦士姿の男がいた。抜き身の剣をだらしなく構えている。

そして緊張感のない顔は、ゆがんだ笑みをたたえていた。

「死ね・・・神官。」

男はそれだけ言うと、そのまま神官に向かって突っこんでいった。

だが、一方の神官は動かない。ただ目の前の愚かな男を凝視したままだ。


静寂があたりを包んだ。



「っ!!」

「・・・!」

一瞬遅れて、レイドとシェルファーナがその光景に息を呑んだ。

男は勝ち誇った笑みを浮かべた。再び剣を刺そうと、神官の体から剣を引き抜く。

――傷口から、鮮血が溢れ出した。薄暗いその空間で、それは神官の衣服をどす黒く染

めていった。

その光景に、思わずシェルファーナはしゃがみこんでしまう。レイドは彼女を支えることも

忘れて、神官のほうを見つめていた。

神官の口から言葉がつむぎ出される。

「―――言いたいことは、それだけか?」

低く、小さい言葉が響いた。しかし、艶はない。

その言葉の意図するところを考えようとはせず、男は再び剣を構えた。


その刹那。


男の頭が地にころげ落ち、残りの体躯は糸が切れた人形のようにばったりと床に崩れ落

ちた。”黒いもの”が虚空を舞う――。

シェルファーナは音にならない悲鳴をあげ、レイドにしがみついた。当のレイドはその光

景に見入ったままだ。

ヴェレヌは、血の海につかった剣を拾い上げると、一振りして血を落とした。そして、呪を

唱えて名も知らない男の遺体を焼却して剣を放ると、傷口からとまらぬ血をまるで気に

かけず二人のところに歩み寄った。

「とんだ邪魔が入ったな。先へ行こう。」

肉と地の焼ける匂いが鼻をついて、ようやくレイドは正気に戻った。レイドはシェルファー

ナを支えながら立たせると、再び青い魔力を左手に生みながら歩んでいる神官の後を追

いかけた。



どのくらい歩いただろうか。

3人は沈黙を保ったまま歩き続けていた。

床にほぼ規則的に落ちる神官の血に、やっとシェルファーナは慣れてきていた。とはい

え、いまだレイドにしがみついたままなのは仕方のないことであろう。

二人は空間が徐々に明るくなってきていることに気が付いた。道はまっすぐで、分かれ

道がなくなっている。そのはるか先に、白く光るものがあることにレイドは気がついた。

神官は時々壁に手をついて荒い息を整えながら進んでいた。先程の一撃がよほどこた

えているのだろう。

『・・・・・・しかし・・・』

レイドはまた頭の中で考え事をしていた。

『なぜあの時、神官は動かなかったんだろうか・・・』

おのずと視線は神官へと向く。

『まさか刺されるとは思っていなかったんだろうか・・・いや、あの時の神官の声は少しも

震えていなかった。』

彼は、ヴェレヌがあの男に言い放ったときのことを思い返した。

「・・・・・・!」

そして、とある可能性を思いつき、絶句した。

『ま・・・まさか・・・・・・死を望んでいるのか・・・・・・?』

そう考えて、レイドにはこの男が哀れに思えてきたのであった。





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