4. 「・・・・・・本当・・・なのか?」 「貴様たちをだましてどうするというのだ。」 その声に、溜息さえ混じる。 レイドは数歩後ろに下がると、剣の柄に手をかけて構えた。 「もしもそれが事実なら、俺は貴方を生かしたままにはできない。」 ヴェレヌはそれに対して何の反応も示さない。恐るるに足らないと思っているのか、それ とも死を覚悟しているのか――― 二人の間に緊張が走った。 緊張を解いたのは、シェルファーナだった。彼女は静かな声で言った。 「止めてください、レイドさん。この人は既に怪我をしています。怪我をした人を殺めるな んて・・・・・・そんなことをしたら貴方の名前に傷がついてしまいます。」 「・・・・・・まあ、正論だけどね。」 レイドはしばらくしてそう言うと、剣の柄から手を離した。レイドが落ち着いたことを確かめ ると、シェルファーは男の方に近寄り、その場にしゃがみこんで回復の術を唱えた。それ を見て、レイドはすぐに彼女に警告した。 「シェルファー、その男は危険だ、すぐに離れろ!」 「でもレイドさん、この人は怪我をしているのよ。血だって随分流れてる・・・放っては置け ないわ!」 「君はさっき俺の為に術を使っている!それに神官ヴェレヌのことくらいは君だって知っ ているだろう!妹である同じ神官のサイ様を殺したんだぞ、その男は!」 レイドの言葉に、ヴェレヌはその青い瞳を細めた。一方のシェルファーは、呪文の発動を 止めようとはしない。 神官の傷は徐々にいえていく。 その光景を見てもう何を言っても聞かないと思い、彼はシェルファーを説得するのを諦め た。 彼女の術によって神官の傷はほぼ言えた。 しかし、彼女の魔力の消耗はかなり大きく、座っていることすらやっとのように見えた。ヴ ェレヌは立ち上がると、顔中に玉のような汗を浮かべた彼女を抱きかかえた。そして、小 さな声で感謝の意を述べる。 「礼を言う、シェルファーナ。」 そして彼女を、レイドに差し出した。 レイドは警戒しながらシェルファーを抱きかかえた。それと同時に、先程二人を襲った”黒 いもの”がゆっくりと神官の両側に浮かぶ。レイドは一瞬構えるが、神官は気にせず左手 から青い魔力を解き放った。 空間を、青い光がかけていく――― 「こっちだ。」 しばらくして、ヴェレヌは二人にそう言って歩き始めた。レイドとシェルファーは互いに顔を 見合わせる。 レイドには、神官の後についていくしか他に方法がなかった。 神官は青い魔力を手に迷路のような道を進んでいく。頭上は相変わらず満天の星空で ある。 ヴェレヌの後姿を見ながら、レイドは様々なことを考えていた。 『本当に彼は神官なのだろうか・・・さっきはああ言っていたが・・・・・・。神官は強力な魔 力を持つ存在と聞いている。ならば何故、自分で回復の術を使わなかったんだろう・・・・ ・・。シェルファーよりも強力な術を知っているだろうに――』 「あの、レイドさん・・・?」 どうやら、彼は何か考えていると表情が硬くなるらしい。再びシェルファーに顔を覗き込ま れる。 「な、なんだい、シェルファー?」 「私、もう大丈夫ですから、下ろしてください。・・・平気です、歩けます。」 レイドはシェルファーをゆっくり下ろすと、少し先を行く神官の後姿を見て小さな声で言っ た。 「彼はいったい我々をどこに連れて行くつもりなんだろう・・・」 「・・・魔力の行き先を確かめながら進んでいるようですから・・・もしかしたら出口へ連れ て行ってくださっているのではないかしら?」 「・・・シェルファー・・・・・・それは少し甘いと思うんだ。」 「・・・?」 「彼は自分の妹を無常にも殺した男だ。そんな彼が、俺たちを素直に帰すと思うかい?」 「・・・・・・でも、彼は悪い人には見えないわ。」 「そこが甘いんだよ、シェルファー。・・・かといって、他にどうすることもできないんだけど ね。」 道は右に折れていた。 神官は角で止まると、着いて来いとばかりにふたりのほうを振り返る。そして無言のまま 、また歩き出した。 数歩遅れて、二人もまた角を曲がった。 |