3. 「・・・シェルファー?」 シェルファーナの突然の静止に、レイドは首をかしげた。 「しっ。魔力の中心が近くにあるようなんです。」 「じゃあこのさきに・・・」 シェルファーと同じようにレイドも声をひそめた。 慎重に二人は目の前の曲がり角を左折した。 その時だった。 黒い何かが、虚空を切った。 間一髪、レイドはシェルファーを下がらせると、腰につるしてある剣を引き抜いて次の攻 撃に備えた。 「後ろですっ!レイドさん!」 「っ!!」 再び虚空から襲ってきた”黒いもの”を剣ではじき返すと、宙に静止したそれを彼は睨 みつけた。”それ”は虚空に留まったまま動こうとはしない。 しかし、”黒いもの”一つだけではなかった。 ”それ”は前からレイドに向かってきた。そして、静止していたもう一つも、それを待って いたかのように動き出した。 「前からも・・・!くっ!」 レイドは急いで短剣を引き抜くと、右と前、両方向からほぼ同時に向かってくる”黒いも の”を抑えた。 「レイドさんっ、前に!!」 一瞬、彼は前からも攻撃が来たのかと思い覚悟をしたが、目の前にあったのは予想と は違った光景だった。 若い男―――レイドよりも年上だろうか―――が壁にもたれるようにして倒れていた。 レイドは咄嗟に、その男が”黒いもの”を操っていると判断し、なおも彼を押し付けてくる ”黒いもの”を弾き飛ばすと、左手に持っていた短剣を男の方に向かって投げはなった。 パシッ 乾いた音がして、短剣の動きが止まる。―――男が短剣をつかんだのだ。 それと同時に、虚空にあった”黒いもの”が動きを止めて男のもとへと戻っていく・・・・・・。 「―――すまない。」 男は倒れたその姿勢のまま短剣を持ち直すと、柄の部分をレイドに差し出した。 「非礼を許して欲しい・・・・・・・・・」 低い、艶のある声。 レイドとシェルファーナは、警戒しながら男に近づいていった。 黒く長い、美しい髪。瞳は長い前髪にかくれてはっきりと見えない。 着物は立派なものだが、ところどころ引き裂かれ赤く染まっている。 レイドはやはり警戒しながら男から短剣を受け取った。 男の腕はそのままゆっくりと下に落ちていく。 レイドは短剣を柄に収めて言った。 「貴方は?」 「・・・・・・・・・・・貴様から名乗るがいい。」 男の非礼さにレイドは顔をしかめた。・・・が、瞳をとじた男にそれは見えていない。 「・・・俺はレイド。レイド=フレデリクス。ここの城の騎士だった。」 「―――城?」 「ヘムンブルグ城も知らないのか?」 「・・・・・・・・・・・そうか、もうそこまで来ていたのか・・・・・・。」 男はようやくその身を起こすと、長い前髪をうっとうしそうに掻き分けた。 濃く透き通った青い両の瞳が開かれる。肌の色は抜けるように白く、顔立ちは驚くほど 整っている。―――だが、極度に疲弊していることがその顔色から分かった。 「―――そちらは?」 顔を動かさず、瞳だけをシェルファーに向ける。 「彼女はシェルファーナ=ストリナトゥス。生い立ちなど詳しいことは彼女自身知らない。」 男は瞳を閉じ、深く息を吐いた。 「次は貴方が名乗る番だろう。」 男は再び瞳を開けると、レイドの瞳をまっすぐに見て言った。 「―――――神官。それだけで理解できるか?」 「・・・・・・神・・・・・・官・・・・・・・・・?」 様々な考えが、レイドの頭の中を巡った。口の中が徐々に渇いてくることに彼は気付い た。そんな彼に向かって、男は今度ははっきりと告げた。 「・・・神官、ヴェレヌ=ディ=グローム。―――それが私の名だ。」 |