2. 一面に広がる静寂。一条の青い光が通過している空間――そこに、彼らはいた。 「・・・・・・・・・くっ」 「あ、じっとしていてください。」 レイドは全身を襲う痛みで目を覚ました。苦痛をこらえながら、声のした方をうっすらと 瞳を開けて見てみる。彼の目の前では、見覚えのある少女が、なにやら呪文を唱えて いた。少女が印を切っていくに従って、体の痛みが徐々に消えていることにレイドは気 がついた。 「・・・あ、もう大丈夫だよ、君・・・・・・?」 しかし彼の体力は戻ったが、少女の方の魔力の消費は大きかったようだ。レイドの言 葉に従って呪文の詠唱を途中で止めたが、しばらく彼女は肩で息をしていた。その彼女 を、レイドは起き上がって両手で支える。 「大丈夫かい・・・?」 「・・・ええ。」 「・・・君はいったい何者なんだ?こんな呪文を使えるなんて。」 「私は・・・・・・私はジェイス=ストリナトゥスの娘、シェルファーナ=ストリナトゥス・・・そ う、聞いています。」 「・・・・・・聞いている?」 「私も、よく分からないんです。・・・私、ずっとあの部屋にいて・・・・・・あの部屋から外に 出たことはないんです。だから・・・。」 「・・・もしかして、君はお父さん・・・いや、ジェイス国王にお会いしたことはないのかい? 」 「ええ。・・・・・・私の部屋に入ってきていたのは、栗色の髪を三つ網みにした・・・・・・白 いレース地の服を着た女の人です。」 「きっと城のお手伝いさんだろう。・・・まあ、それはそうと、ここでじっとしているわけにも いかないし・・・歩けそうかい、シェルファーナ?」 「ええ、大丈夫です。・・・ええと、貴方は・・・・・・?」 「僕はレイド、レイド=フレデリクス。この城に騎士として勤務していたんだけど・・・つい 最近解雇されちゃってね。今は流浪の身って訳さ。レイドって呼んでくれていいよ。」 「じゃあ私のことは・・・・・・シェルファー・・・と呼んでください、レイドさん。それから・・・助 けていただいてありがとうございました。」 「あ、そんなたいしたことは・・・・・・それに僕だって君に助けられたんだし・・・お礼を言 わなきゃいけないのは僕の方さ、シェルファー。」 彼のその言葉を聞いて、シェルファーは微笑んだ。だが、その顔はどことなく悲しそうに 、レイドには見えた。 「とにかく、ここから出ないと・・・・・・・・・でも・・・。」 レイドは立ち上がり、周りを見回した。うっすらとした青い光が、彼のちょうど肩のあたり を通過している。二人がいるのは、一本道の洞窟のようなところだった。 「この光は・・・いったい?」 「魔力・・・・・・のようです。何者かが流しているようです。」 「この元を辿れば、ここから出るための手がかりが見つかるかもしれないね。 行ってみようか。」 「ええ。」 シェルファーも立ち上がり、青い魔力の光に手をかざしてみた。そしてふと、上を仰ぎ見 て彼女は、目を大きく見開いた。 「・・・・・・レイドさん、あれは・・・。」 「・・・っ!」 二人は城の中から落ちたはずだった。しかし――二人はいま、満天の星空を見ていた。 「・・・これはいったい・・・・・・どういうことなの。」 「城の中から落ちてきたのに・・・こんな・・・・・・」 二人はしばらく、呆然と星空を見ていた。 「とにかく、行ってみよう。」 二人はお互い黙って頷くと、魔法の流れが見えるシェルファーを先頭に、歩き始めた。 通路の中は、青い光で照らされているだけで、薄暗い。どんなことが起きてもすぐに対 処できるように、レイドは剣の柄に手を当てていた。 『・・・・・・・・・それにしても・・・』 歩きながら、レイドは考えていた。自然と視線は、一歩前を行く少女へと向く。 『この少女はいったい・・・・・・。この子は本当に王の娘なのだろうか・・・でもそうでない と、城の火事の説明がつかないな・・・』 そこで、彼は考えるのを止めた。シェルファーが彼の視線に気付いたのだ。 彼女は足をとめずに振り返って、レイドに話し掛けた。 「どうしたんですか?そんなに怖い顔をして・・・・・・?」 「・・・え?僕が怖い顔?・・・どうして?」 彼女は足をとめ、彼の方を向いた。 「だって、以前お見かけしていた時は、もっと、心が和むような・・・落ち着くような・・・そ んな顔をしていらっしゃいました。・・・でも、今の貴方の顔を見ると、なんだか不安にな るんです。」 そう言って、シェルファーは視線をそらした。 「・・・あ、いや、そんなつもりじゃなくて・・・・・・。」 「・・・ご、ごめんなさい。変なことを言ってしまって。でも、私のせいでレイドさんがこんな ことになってしまったから・・・・・・貴方が、私のことを怒っているんじゃないかって・・・思 ったから。」 「全然怒ってなんかないさ。僕はただ、君がどうして魔法が使えるのかが気になって考 えていただけだよ。」 レイドのその言葉を聞いて、彼女は首をかしげた。 「・・・どうしてって・・・・・・?レイドさんは使えないのですか?」 それを見て、レイドは彼女が今までずっとあの部屋に閉じ込められていたことを思い出 した。そう考えれば、彼女がこのような発言をするのも無理はない。 「魔法はね、神に選ばれた者しか使うことができないんだ。・・・まあ、正確には、神の洗 礼を受ける為に修行した者、だけどね。部屋に閉じ込められていたのに、どうして洗礼を 受けることができたのかなって思ったもんだから・・・。」 「そう・・・なんですか。」 彼女は再びレイドに背を向けて歩き始めた。その足取りが重く見えたのは、彼の気の せいだろうか。 しばらく歩みを進めて・・・・・・唐突に、シェルファーが足をとめた。 |