第2章 無元素の世界 1. レイドは抜いていた剣をベルトにさした。 「だけど、どこへ行けばいいんだろう。ヘムンブルグから遠く離れたところがいいんだろ うけど・・・。ヴェレヌはど うして、ラムドがいいと?」 「あそこには知り合いがいる。力を貸してくれるだろう。」 そうか、とレイドは呟いてから、同意を求めるように視線をシェルファ−に向けた。 「ラムドですね。行きましょう、レイドさん。」 「―――そうだね。よし、行こう。」 レイドは不安の色が隠せなかったが、未知の大地への思いも相まって、複雑な心境だ った。 レイド達が神官の作った無限空間(洞窟)を通ってたどり着いた場所は、ちょうどヘムン ブルグから東に三日ほど行ったところだった。島国であるラムドへは、普通ならばあと 一週間歩き、それから二日ほど船に乗らねばならない。 そう、普通なら。 ラムドへ行くことに決めた彼らは、すぐさま仕度に取りかかった。レイ ドとシェルファ−ナ は近くの村に食料の調達にいき、神官は異次元の無限空間を作り出すため、独り残る こととなった。 鳥のさえずりを聞きながら、ヴェレヌは黙々と作業を行っていた。 空間への入口となる場所に、精緻な紋章と魔法陣を施していく―――。甚大な精神力 を要するそれはまさに、芸術と言うに相応しい。魔力を持つ幾何学的模様は、例え1ケ 所でも間違えれば瞬時にその効力を失う。淡々とこなしていく神官の顔に、表情はな い。彼は、何を想っているのだろうか。 緩やかに時は過ぎていった。 一方のレイドとシェルファ−ナは、村を捜すのに必死だった。時間が経つにつれて、二 人を狙う追っ手が増える。一刻も早く安全な村を探して食料などを手にいれ、ラムドへ 逃げなければならない。 そして半時ほど歩いて、二人は小さな村を見つけた。小さな村だが、決して錆びれては いない。家々の手入れはなされているし、沿道には花が 咲き乱れている。レイドはこ の村を一目見て、エルフの隠れ里だと直感した。しかし人の姿がまったく見えないとい うのは、どうしたことだろう。レイドは、 点々とある弱い気配を感じ取っていた。 「皆さん、出かけているのかしら。」 「・・・どうかな。あちこちに気配を感じるんだけど・・・まるで俺たちの様子を見てるみた いだ。」 しばらく二人は辺りを散策した。 「ごめんください。誰かいらっしゃいませんか?」 言って店の扉を叩くシェルファ−に、レイドは静かに言った。 「シェルファ−、他を当たろう。ヴェレヌを独りで待たせるわけにもいかないよ。」 「そうね・・・でも」 周りを見ながら、彼女は戸惑った。 「もう少 し、ここにいなきゃいけないような気がして・・・何か大切なものを忘れているよ うな・・・」 「・・・何かって?」 シェルファ−ナは、両手を胸の前で組んで 目を閉じた。それは、何かに祈っているとい う仕草ではなく、何かを思い出そうとしているように見えた。ふと、レイドは視線を店の カウンタ−に向けた。 そこには、着飾った女性の小さな絵画が掛かっていた。そしてその横顔は、シェルファ −ナによく似ていた。斐翠色の髪、栗色の双眸。ただ一つ違うのは、エルフ族の特徴 とも言える長く伸びた両耳―――。 「シェ・・・ルファ−・・・」 しかし、そう呼びかけた先に、彼女の姿はなかった。 「シェルファ−?」 店の中に彼女はいなかった。レイドは慌てて外へ飛び出した。しかし、彼女の姿はな い。 「シェルファ−、どこだ!」 四方を見渡して、何者かの殺気にも似た気配を彼は感じとった。それが、自分を取り囲 むように点在することを知り、レイドは剣の柄に手をかけた。 「俺を相手にしようっていうなら、それなりの覚悟はできてるわけだ。上等!」 レイドの声とともに四方から一斉に矢が放たれた。そのいずれもが、よけかけたレイド を追うかのようにその進路を変えたのは、エルフ独特の技と言えよう。 ―――だが。 よけたそのままの姿勢で、レイドは矢を全て叩き落としていた。その手には、長剣と短 剣の刃が光っている。彼の顔に不敵な笑みが浮かんだ。それを挑発ととった彼らは、 また弦を弾いた。横目で矢の出所を確認したレイドは跳躍し、矢をはたき落とした次の 瞬間にはその場所に剣を、矢をはたき落とした次の瞬間にはその場所に剣を突きつけ ていた。 彼の右手に手応えがなかったのは、それを相手の急所からわずかにさがったところに 刃があった為である。その行為は、辺りにいた他の者たちの腕を止めた。 「―――で?」 彼は草陰にいるだろう相手に問いかけた。 「警告を無視した感想は、無いのかな。」 相手は黙ったままだ。 「・・・まあそんなこ とはいいか。でも姿くらい見せてくれないと、俺も話しにくいんだ。そ の美しい顔を拝ませては貰えないかい?まあ、どちらでもいいけど。・・・もちろん出てく るなら、武器は捨てて、全員だ。」 言っ てレイドが己の剣を鞘に戻すと、周りの草むらから軽装をしたエルフが数人姿を 現した。その容姿は噂にたがわず美しい。風に黒や金の髪がなびき、陽光に双眸が虹 色に煌めいた。ただ普通のエルフと違うのは、肌の色が褐色であることである。それは 他ならぬ闇エルフの特徴であり、闇の大陸の住人のおよそ半分を占める事を知ってい れば珍しくも何でもない。 「素直で結構。で、シェルファ−をどうしたか、教えてもらいたい。」 闇エルフ達はとまどい顔・・・ではなく、敵意に満ちた眼差しで、レイドを見ていた。 |