第3章 交わりと始まり

1.

 襲撃があってから2日目の朝、船はラムドに到着することとなった。

朝日を受けて輝く街は、買い物や港で働く多くの人々で賑わっていた。

甲板で着港を待つ人々には、2日前の記憶が新しいだけに無事に着けた喜びも大き

く、皆喜びを分かち合っていた。

 そんな中、レイドたちは部屋で船を出るための準備をしていた。

「取りあえず、船を降りたら宿屋を捜そう。・・・・・・シェルファー?」

「・・・あ、はい、そうですね・・・・・・」

 ヴェレヌが行方不明となってからずっと、彼女は気を鬱いでいた。昨日は一日中、

ヴェレヌの沈んだ海の方向を、食事をとるのも忘れて眺めていた。船長に呼ばれて

ようやく、その場を離れたくらいだ。

 船長室でレイドたちは、船長からお礼の言葉と謝金を受けた。船員たちは、最後ま

でヴェレヌのことを懸命に捜してくれ、また、落ち込んで海ばかりを見つめるシェルフ

ァーに、何度も声をかけてくれたのだ。とても気を遣ってくれた彼らからこのようなも

のは受け取れないと、謝金を拒んだレイドだったが、結局は船長に圧されてしまっ

た。そのため、船長室を出たレイドは、ラムド到着までに出会った船員たち全員に、

礼を述べることにしたのだった。

 荷詰めをするシェルファーナに、活気はなかった。だから正直なところ、悲しむ彼

女の姿にレイドは、他の乗客たちのことを恨めしいと思わずにはいられなかった。

その反面、それで少しほっとする自分がいるのもまた事実だった。あのまま、刺

客に追われる身である神官と一緒に旅を続けることは、確実に自分たちの身を

危険にさらすことと同じだし、まして自分たちも終われているようなのだから、な

おさらのことだった。

 そしておそらくは・・・・・・神官を信じていいのか、未だレイドにはわからなかった

ということも、彼を安堵させた原因の一つなのだろう。

 やがて船の錨が下ろされ、船員達が乗客にラムド到着の知らせを告げた。

「じゃあ、僕達も出発しようか」

「はい・・・」

案内をしていた船員の一人に3人分の鍵を返し、礼を述べてから二人は船を降

りていった。

 ラムドの土を踏みしめたレイドたちが見たのは、メーレンとは明らかに外観の異

なる建物群だった。紅いレンガの色も鮮やかな外壁が、朝日を受けて暖かな街

の雰囲気を作り出していた。メーレンの家々は平屋が目立ったが、ラムドの家々

は背が高く、2階、3階はあたりまえのように思われた。

 センターポールの見えない、いわゆる”無元素の地”と呼ばれるラムドだが、メー

レンを発った時は意識していても、いざ足を踏み入れてみると、誰しもその差に

気づくことなく無元素の地であることを忘れてしまう。レイドもシェルファーも、目の

前の光景と見知らぬ土地へ来たという好奇心に心を奪われて、すっかりそのこ

とを忘れてしまっていた。

 王都ラムドでは、センターポールが見えない。位置としては闇の大陸に近いので、

闇のセンターポールが見えてもおかしくはないのだが、なぜかここではどちらの

センターポールも見ることが出来なかった。


センターポールは、大陸の象徴であるとともに、元素の源だとも言われている。

それゆえ、光の大陸では光の元素が、闇の大陸では闇の元素が優勢となって

いる。だがこの”元素”とは、正義と邪悪のことを意味しているわけではない。

具体的な現象としては、昼夜の長さの差がある。レイドたちのいた闇の大陸では、

太陽よりも黒陽のほうが長く昇っているため、夜が長い傾向にあるのだ。魔法を

扱うものにとっては、その元素の差が問題となるようなのだが、あまり詳しい傾

向についてはわかっていない。

このことから、ラムドは昼夜のバランスのとれた・・・すなわち安定した国となって

いる。最も、それゆえに起きる問題ももちろん存在するのだが。


 一通り港で開かれていた市を見回って、レイドたちは宿を探すことにした。

街に入ると、大きな広場があり、そこから四方に広い道が伸びていた。中でも中

央にある特に大きな通りは人もにぎやかで、先には立派なレンガ造りの城が見

えた。

「あれが、この国のお城なんですか?」

そう、レイドに問いかけるシェルファーナの声には、驚きの色が伺えた。おそらく、

城というものを見るのは初めてなのだろう。そこに住んでいるからといって、その

建物の外観をイメージできるものは少ない。

 市から出て向かって左・・・地図上では光(東)方向に城はあり、白(南)に住宅街が、

そして闇(西)には、役所のような大きな建物が建っていた。通常、役所というも

のは国の中枢部にあるはずなのだが、どうやらこの国ては少し事情が異なるらし

い。

「あの建物は、なんですか?」

市を見て多少元気が戻ったのか、シェルファーはレイドに訊いた。

「役所のように見えるけど、何かな?普通役所は城の近くにあるものなんだけど」

好奇心に誘われてそちらに歩きだしたシェルファーに、レイドもまた付いていった。

今は、彼女の好きなようにさせるのが、一番よいと思われた。







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