18.

縦に長いカードの束を、慣れた手つきですばやく切っていく。

それを、クロスの形に並べ、ついで上下左右に並べていく。

「では、このカードの中から1枚選んで、テーブルの上のカードのうちのどれかに重ねて

ください。」

シェルファーは、前に差し出されたカードの束から、一枚引き抜くと、クロスの上の部分に

重ねた。

その上に、ルセは両手を置いて何事かを呟いてから、重なったそのカードを避けるように

、ほかのカードをめくり始めた。

「まずは、全体的な未来。」

そう言って、クロスの周りの4枚のカードを指し示した。

「光の方向に難あり、と出ているわね。あまり光の大陸には近づかないほうがいいかもし

れないわ。他の方角には悪い相は出ていない。」

ついで、その内側にある5枚を指差した。

「このカードは、これから出会う困難と、幸福について教えてくれるわ。すでに開いた3枚

のカードから、これから貴女がいくつもの困難に出会うという未来がわかる。でも、それは

自分の力となるはず・・・」

そして最後に残った2枚を開いて、彼女の顔は少し複雑な表情に変化した。

そのカードに描かれてあるのは、大きな鎌を持った黒衣の男と、糸の束であった。

「・・・近い未来、貴女は何か悪い出来事に巻き込まれるわ。けれど、選択によってはそれ

を克服することができるかもしれない・・・避けることはできないけれど。」

近いうちに、悪い事が起きる。ラムドでいったい、何が起きるのだろうと、シェルファーは不

安で胸がいっぱいになった。

落ち込んでしまった彼女を見て、ルセはあわてて付け加えた。

「大丈夫よ。所詮は占いなんだし。あんまり真剣に考えないでよ〜。」

「・・・そう、ですね。」

「ほら、当たるも百卦、当たらぬも百卦っていうじゃない。」

「・・・八卦・・・ですよ?」

「え?そうだったっけ?・・・ま、そんなこといいじゃない。所詮占いなんてそんなもんなのよ。」

彼女はグラスを空けると、今度はジュースではなく、かなり度のきついアナコンダ酒をマスタ

ーに注文した。

「じゃあ今度は、レイドさんの恋占いでもしましょうか?」

「え、いや俺は普通の占いで・・・というか大丈夫ですか、そんなにきついお酒・・・」

「だ〜いじょうぶ。これでも無敗の酒豪と言われてるんだから。」

思わず喉を火傷してしまうくらい強い酒を、一口飲んでみてルセは二人にウインクを返した。

そしてレイドが思わずため息を吐いたとき、何の前触れもなく船が大きく揺れた。

「な、なんだ!?」

咄嗟に腰を浮かせて倒れそうになり、彼はカウンターに手をついた。

「上、みたいね。」

「レンさんが・・・!」

何か悪寒のようなものを感じて、レイドは急いで部屋を飛び出した。



「なんだあれは!?」

「大蛸が、大蛸が船の竜骨を食らおうとしているぞ!!」

「いや・・・あれは、魔物だっ!!」

甲板の上は大混乱であった。

人の叫び声、悲鳴、わめき声。

逃げ惑う人、右往左往する人、海に飛び込もうとする人。

そのすべてが、事態をさらに悪いほうへと導いていた。

「レン!」

人の波を掻き分けて、レイドはヴェレヌのいる部屋へと急いだ。続いて、シェルファーとル

セがその後を一生懸命についてくる。

やっとの思いでたどり着いた部屋の前には、外の様子を冷静に監視する神官の姿があっ

た。

「あの人が、さっき言ってたもう一人のお付きの人?」

ルセが、走りながらシエルに訊く。

「魔物が、出たようだな。珍しい。」

「魔物?この海域じゃあ、滅多にお目にかかれないはずだけど・・・」

「まあいい、貴様はここでシエルを守っていろ。私が始末をつけてくる。」

「いや、俺も行く。レンだけに任せるわけにはいかない。」

後から追いついてきたシェルファーナも、レイドの言葉に同意した。

「私も行きます、きっとなにかのお役に立てるはずですから!」

「だめだ、シエルは部屋にいるんだ。・・・レン!」

付いてこようとする彼女をルセに抑えてもらい、レイドは走り出したヴェレヌを追いかけた。



辺りはすでに薄暗く、船員が掲げたランプの光で二人はかろうじて足場を確保した。

その場に留まり魔物を排除すべく構えていたのは、レイドたちだけではなかった。しかし、

大きい割にはすばやい動きをする触手と、何よりその大きさに怖気づいて動けないものが

ほとんどであった。

そして船の竜骨部分に、”それ”は絡み付いていた。

問題は、それがタコなのかイカなのか、わからないこと・・・つまり、肝心な本体は海中に

隠れており、足だけが船に襲い掛かっていたのだ。

頭部を叩かない限り、何のダメージも相手は感じないであろう。

「私が、本体を叩く。まずは頭部を海面上に出さねばなるまい。」

レイドが、剣の柄に手を掛けた。

「俺が、引き付ける。」

すばやく動くレイドの右腕に、銀の刃が閃いた。

「ペイル・ウィンド!」

2つの黒き刃が、疾風のごとく獲物を細切れにしていく。

二人の攻撃を合図にしたように、他の者たちも自分の武器を片手に魔物に立ち向かって

いった。

「―――来た」

船の縁に立ち、海面の様子を伺っていたヴェレヌは、海中から二つの強い光が徐々に迫

ってくるに気がついた。それは魔物の目であり、彼のことを凝視していた。

「・・・・・・来い。」

一人そう呟くと、海面に現れた魔物に向かって、飛び降りていった。

「・・・・・・ヴェレヌ!?」

彼は思わず、真の名で神官のことを呼んだ。しかし、人前でその名を口にしてしまったこと

よりも、それはずっと驚くべきことだった。急いで彼は戦いを止め、縁に手を着いて下を覗き

込んだ。異常に気がついたのか、シエルも彼の隣に手をついて、身を乗り出すように眼下を

見た。

「危険だ、ヴェレヌ!!」

黒い刀身を左手に掲げ、海面に落ちていく神官の姿が一コマずつゆっくりと、レイドの目に

映っていった。


大量の水しぶきとともに、ヴェレヌが魔物に止めを刺すのが見えた。


―――だが。


魔物は、竜骨から腕を放して頭上でくねらせながら、黒々とした海中に没していった。

そう、神官をその頭上に留めたまま・・・・・・

「ヴェレヌさーん!!」

祈りもむなしく、予想は現実のものとなってしまった。

                                           第2章  完






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