9.

水面に散っては消えて現れる、陽光の欠片。

それをルビエスは、手すりに身を持たせながらただ眺めていた。

3人の部屋には、ベッドが2つしかなかった。アムはロイと寝れると喜んでいたが、結構な

代金を支払ったロイとルビエスにとって、このような部屋は悪い冗談にしか受け取れなった。


結局、船が出航して早々、ロイは寝袋を探しに行き、アムは船室で荷物の見張りを兼ねて

休みを取ることになった。

特にやることがなく退屈だったルベスは、船内の見回りに出かけたのだった。

「何も起こらないといいんだけど・・・」

強い潮風に黒髪をなびかせながら、彼女は今しがた発った港のある方角を見つめていた。



「・・・ったく。どうして僕がこんなことをしなきゃならないんだ。」

ロイは、寝袋を手に入れるために、船内を歩き回っていた。けれども、共同部屋にいる他

の乗客も寝袋を探し求めているので、普通に歩いていて見つかるようなものではなかった。

2階の共同客室から、波のせいで揺れる階段をゆっくりと下りて、ロイは1階の倉庫部屋に

たどり着いた。部屋の脇には、屈強な体つきの積荷の見張りが2人待機しており、倉庫に

は入れそうもない。

それでも、ダメでもともとと、ロイは彼らに近づいていった。

「あの・・・すみません。」

「・・・・・・なんだ?」

事務的な口調でそう言い、面倒くさそうに彼のことを見下ろす見張り。それだけで、彼はす

でに寝袋を諦めていた。

「余分な寝袋って・・・ありませんよね?」

「お前が使うのか?」

「・・・・・・ええと・・・」

やはり聞くんじゃなかったと、ロイは心から後悔した。険悪な雰囲気を漂わせている、筋骨

隆々とした男たち。適当にごまかして、その場を立ち去ろうとした時、背後から声をかけら

れた。

「こんなところまで探しに来たの?」

ルビエスだった。

「こんなところに寝袋があるわけないでしょ。さっさと他へ行くわよ」

「う・・・うん」

「待ちな、お嬢ちゃん。」

戻ろうとする二人を引き止めたのは、見張りの男の一人だった。

「あんたが使うのか?」

「だったらなんなの?そんなこと、貴方には関係ないでしょ。」

彼女のその態度を気に入ったのか、男は意地の悪い笑みを浮かべながら話を続けた。

「寝る場所がなくて困ってるってぇんなら、俺がいい場所を教えてやるぜ。」

二人はその男の笑みに嫌悪感を覚えた。そして、その男の口から出る言葉に、ある程

度の予測はついた。

「俺と一緒にいい夢が見れるんだからよぉ、これ以上安全でいい場所なんてねぇぜ。」

「・・・・・・ファイア・ボール!」

男の言葉を聞くや否や、ルビエスはあらかじめ唱えておいた呪文を発動させた。もう一人

の見張りの男はというと、目の前で燃え盛る相棒の姿を目の当たりにして、腰を抜かして

いる。

「る、ルベス、やりすぎだよ・・・」

「自業自得よ。卑劣漢に同情するつもりはないわ。とっとと他へ行くわよ。」

さっさと階段を上っていってしまうルビエスに追いつきながら、ロイは彼女を咎めた。

「ルベス、あんなところで術を使ったのはまずいよ。どこに追っ手が潜んでいるかもしれな

いんだし。あんなことを言うやつは許せないけど、もう少し冷静になったほうが・・・」

「・・・わかってるわよ、そんなこと。」

「今はアムだっているんだ。船の上じゃあ逃げ場はないし・・・できるだけ、部屋の外には出

ないようにしたほうがいいと思う。」

ロイの意見は正論だったが、彼女は彼の意見に素直に応じる気にはなれなかった。

「重々、承知してるわ。」

「部屋に戻ってたほうが・・・」

「荷物ならアムがいるから平気でしょう。私はもう少し船の中を散策させてもらうわ。」

「ルベス・・・」

「夜までには、寝袋見つけてよね。」

そこで言葉を切り、彼女はすたすたと先へ歩いていってしまった。そのあまりにつっけんどん

な態度に、ロイは戸惑うばかりだった。

「・・・なんなんだよ、いったい・・・」



陽が暮れ、赤く染まる食堂は人々で賑わっていた。

「ロイ様、食後は夜空を見に行きましょ!」

ロイのグラスにジュースを注ぎながら、アムは初めての船旅にはしゃいでいた。ロイはという

と、頭をかきながらルベスの様子を伺っている。

「・・・ああ、うん。ルビエスは・・・」

「私は部屋で休ませてもらうからいいわ。二人で行ってきたら?」

さしたる興味も示さぬ様子で、彼女はただ黙々と夕食のラグフィッシュの塩焼きをつついていた。

この対照的な様子の二人に、彼は船旅の初日でうんざりしていた。アムは執拗といえるほど一

緒に行動したがるし、対するルビエスはいつも以上にロイに対して・・・というよりアムに対して・・・

冷めた態度を取っていた。・・・まるで喧嘩の仲直し役のようだ、と心の奥底でため息をついた。

「じゃあ、行って来るけど・・・ひとりで平気か?ルベス。」

「貴方に子ども扱いされるつもりはないわよ。」

「昼のこともあるし・・・一人で外に出たりはするなよ。」

「・・・・・・ご馳走様。」

頷きもせず、席を立って食器をカウンターへ運ぶと、そのまま振り返りもせずに食堂の外へと出て

行ってしまった。怪訝そうな顔でその様子を見守っていたロイ。気がつけば、陽はいつの間にか地

平線に沈んでいた。





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