10.

「あの態度はなんなのよ!ロイ様に向かってひどすぎるわ!」

憤慨した様子で、船内をロイと一緒に廻るアム。その様子を、声が大きいと嗜めるロイ。

二人は甲板への階段を探している途中で、そのついでに夜の船の様子を見て廻っていた。

木製でかなり古い外観であったが、内部は意外と綺麗に掃除されており丁寧に使われてい

ることをうかがわせた。この船の歴史は古い。

 もともとは、闇の大陸へと鉱物を運ぶ輸送船だった。闇の大陸にいたエルフの作ったもので、

鉱物の礼にとウッタブドの人々へ謙譲した。しかし、災厄に会うことが多かったため、取り壊

して新しいものを造ることになり、そのことを知ったサイは、取り壊すのを止めさせた。

そのようなことをすれば、エルフとの仲が傷つくと・・・・・・

彼女は自らその船に乗り海を渡った。そして船の難破の原因を突き止め、船に神の加護を

施したと言われている。・・・もう、100年も前のことである。輸送船から客船となったのはそ

の数十年後のことであった。

竜骨部分には、女神像が彫られている。その女神像のモデルとなったのが平和の象徴で

ある神官サイであるということは、今となってはごくわずかな人々しか知らない。

 甲板へ出て、二人は満天の星空を目の当たりにした。何も遮るもののない海上では、より

星々の輝きが増して見える。この世界においては、空に見える”星”は元素の衝突によって

形成されており、衝突が無くなると星が消失する。そのため流れ星というものが見られるのは

極々まれなことで、それは元素間の力の揺らぎによるものだと考えられ、吉凶の前触れとし

て人々に信じられていた。

「きれい・・・いつも見ているよりも、ずっと綺麗に見えるわ!」

「本当だね。やっぱり海は広いな、空があんなに遠くまで見える。」

甲板では、他の乗客たちも夜空を楽しんでいた。ほとんどが男女のペアだったため、ロイたち

はまったく目立っていなかった。



 一方のルビエスは、ロイたちのいるのとは反対の甲板で一息ついていた。勿論、彼らの姿を

見かけてわざとその反対側に移動したのだが。

「まったく・・・馬鹿といると大変だわ」

ため息を吐きながら、彼女は手すりに身を任せて月明かりに辛うじて輪郭の描かれた水面を

見つめた。海は黒々と淀んでいる。

なぜ、アムを一緒に連れてきたのか。ロイはいったい何を考えているのだろう。

今の彼には、自分以外の誰かを守る力がない。勿論それはルベス自身も同じだ。いまこうして

いられるのは、決して己のみの力によるものではない。ラインハルトの王や、フィアレート、そ

して攫われてしまった陽のおかげだ。これまでの旅で、彼女は自分の無力さを嫌と言うほど知

らされた。親のように接してくれていたライは、そのことを知っていたのだろう。それをわかって

いたからこそ、そして、旅を続けていくことができると信じていたからこそ、彼は二人の旅に同

行しなかったのだ。それなのに、ロイは彼女の動向を拒まなかった。その行動が、彼女には理

解できない。

別に、アムが嫌いというわけではなかった。ロイにべたべたなのは呆れるが、自分の考えはし

っかりしているし、なによりごまかそうとしない。ロイに対してべたべたしているのは、そういう彼

女の性格の表れでもあるのだと、ルビエスは考えていた。戦いなれはしていないが、足手まと

いにならないよう彼女なりに努力しようとしていることもわかる。・・・だが。

「私たちに、彼女は守れない」

それが事実だ。次の陸地で、彼女を降ろさなければならない。無理やりにでも。

前髪が、潮風に重くなびく。

 ふと、彼女は誰かの視線を感じて後ろを振り返った。一瞬、ロイかと思ったが、それらしき姿は

見当たらない。考えてみれば、男女しかいない甲板の上、そこに独りしかも腰に剣をぶら下げ

た娘というのは、かなりその場に浮いている。

「・・・部屋に戻ったほうがよさそうね」

夜の甲板をあとにするルベスの背を、人影が追っていった。



部屋に通じる扉のだいぶ手前で、彼女は足を止めた。角を曲がっていないので、この位置から

ではまだ彼女の部屋は見えない。

「付いて来ているのはわかっているわ。出てきて」

ルビエスの声に応えて出てきたのは、3人の男たち。うち1人には、見覚えがあった。

「貴方は、昼間の」

寝袋のことで彼女を怒らせて、火達磨になった男だ。まったくの自業自得だが、どうやら男には

かなりの屈辱だったらしい。その証拠に、今度は若い船員・・・おそらく彼の部下なのだろう・・・

を従えて、彼女に襲い掛かろうとしていた。

さすがに、彼女も戦慄を覚えないわけにはいかなかった。小娘一人が、大の男3人に力で勝て

るわけがない。

「今度は何の用?寝袋ならもう見つけたわ」

「まあ、そう言いなさるな。あんたの分があっても、俺たちにはねえんだ。昼のこともある。一緒

にいい夜を過ごそうじゃあねぇか、お嬢ちゃん」

下品な笑いを浮かべながら、男2人がルベスに飛びかかった。片方の男を避けたルベスは、

セラミックソードでもう一人の男に横から切りかかる。だが、狭い通路では思うように剣を振る

うことができない。両脇から男が飛び掛り、彼女は両腕を床に抑えられるような形になった。

「は・・・離しなさい!」

床に仰向けで倒れたルベスは、勝利の笑みに歪んだこの上もなく下品な男の顔を見た。

「まあ、そう焦るんじゃない」

涎が、男の口の端に光って見えて、彼女は目の前の男に明らかな嫌悪の念を抱いた。





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