11. 「女一人に3人とは、本当に呆れた連中だ」 ファイアボールの詠唱を止めさせたのは、男の声だった。若くはないが、張りのある声。 「あ?なんだって・・・!」 次の瞬間、男は右足を後ろに引っ張られるような姿勢となり、前につんのめった。 ひるんだ両脇の男たちから腕を引き、そのまますばやく後転して倒れこむ男をルビエス は避ける。 視線の先には、声の主が片手に鞭を持って立っていた。 「て、手前、なにしやがる!!」 構える男たちに、鞭の男は冷たく言う。 「船員がこれでは、この船を守護するかの聖女も涙することだろうな」 「なにぃ?」 「お前たちに、この船に乗る資格はない」 淡々と言い放つ男に、3人は今にも飛び掛りそうだった。 「貴様、黙っていりゃあ付け上がりやがって!!」 だが、彼らが動くのよりも、男のほうが早かった。彼の持つ鞭は、その一振りで先端か ら割れて男たちに絡まりついた。 「何もせずに消えるのなら、このまま解こう。だが―――」 男が鞭を持つ角度を少し変えただけで、3人は苦痛の表情を浮かべた。 「わ、わかった、わかった・・・もう止めてくれ・・・消える。今すぐ行く」 鞭を解くと、彼らは一目散に去っていった。 一呼吸も乱さずに3人を追い払った彼は、懐に鞭をしまうと何事もなかったかのように その場をあとにしようとした。 「あの・・・お礼を言わせてください」 ルベスの声に、男は振り返る。肩に垂れる髪が男にしては不自然なくらいに長かった が、特に似合わないわけでもない。右目を怪我しているのか、顔の右側半分は白い 眼帯に隠れている。 「ありがとうございました」 「いや、大したことはしていない。・・・連れはいないのか?」 ルビエスを見つめる男の瞳が徐々に見開かれていることに、彼女は気づいていない。 「ええ、2人ほど。今は、甲板に出ているわ」 「そうか・・・・・・ところで―――いや、なんでもない」 何かを言いかけたことにはさして興味を抱かず、ルビエスはとりあえずこれから船の上 で7日ほど過ごすのだから、名前くらいは聞いておこうと思い、男の名を尋ねてみる。 「ロガシス・・・だ」 「私は、ルビエスよ。長い旅だから、また食堂で会うかもしれないわね」 「ああ、そうだな」 会話はそこで終わり、男はそのまま階段を上っていってしまった。 「ルビエス・・・・・・カトゥス=レトロイダ・・・あの、ブルー・アイ」 呟いた男は心中ひそかに笑う。 「炎使いが・・・この船に。・・・・・・ではおそらく、英雄も」 階段を上りきり、彼自身の部屋へと歩みを進める。 「これは、運命か?それとも・・・」 部屋の中で男は、ザックから取り出した海図を広げる。だいぶ使い込まれているのか、 あちこちがぼろぼろに破け、陸地の線がところどころ手垢や汚れで消えかけている。 次の港までの距離は、およそ7日。事を起こすなら、船がもっとも陸地から離れる3日 目がいいだろう。 「・・・仲間への合図には、まだ早いな」 ロガシスは海図をザックにしまうと、ベッドに横になり、これから先起こるであろうことを 予測して、愉しそうに小さく笑った。 ロイとアムが戻って来たときには、すでにルベスは寝袋で寝ていた。・・・といっても、彼 らはあの後アムの誘いでバーに寄っていたので、だいぶ夜も更けていたのだが。 「・・・・・・はぁ」 ベッドの上に寝転がり、それでようやくロイの気は楽になった。 なぜ、アムを連れてきてしまったのかと、彼は時々後悔していた。おそらく、ルベスだって 同じ心境だろう。そう、思っていた。ばらしてしまえば、彼がアムを連れにした理由の一つ は、連れて行けないほど力がないということを認めたくないという意地である。だが、もう 一つ理由は他にあった。 実際、2人で旅をしていて、彼はいつも自分の無力さを悔しく思っていた。それは、周りか ら英雄”ライ”の息子として見られ、そして期待されていればなおさらのことであった。この 状態で旅を続けるには、仲間を連れて行ったほうが心強い。けれども、仲間を連れて行く ということは、彼らのこともロイたちが守れなくてはならないということでもある。結局のとこ ろ、旅を続けるためには強くなるしか方法がないのである。 つまり、アムは、ロイ自身を成長させるための仲間でもあるのだ。彼女がいれば、ロイは 嫌でも彼女を守るために強くなる・・・そう思ったのだ。 「強くなる・・・か」 アムが寝ている方向とは別の方に寝返りながら、彼は呟く。 「父さんは、どうしてあんなに強くなれたんだろうな・・・・・・」 |