7. アムはロイに駆け寄り安否を確かめ、ルベスは、暗殺者の去った方角に視線を向け ていた。 「―――妙に引きがよかったわね。」 「剣も手にいれずに消えたから、きっとまた近いうちに現れる。あるいは他に何かを 仕掛けているのか・・・」 「とにかく、宿へ戻りましょう。それから、アムにお礼を言わなきゃならないわね。」 アムを振り返り、ルビエスが言う。 「うん、ありがとう、アム。助かったよ。」 ロイに礼を言われた照れ隠しにか、アムは笑いながら首を振った。 「どうってことないわ。私はただロイ様を助けたかっただけだし・・・あ、私もう帰らなきゃ。」 言って彼女はもと来た道を駆けていく。 「おやすみなさい、ロイ様ー!」 アムの大きな声に、顔を真っ赤にして宿屋へ急ぐロイであった。 ノックをしても応答がない。失礼だと思いながらも、ルベスは陽の部屋のドアノブを 握った。 「・・・あら?」 「空いてる。ってことはまさか!」 嫌な予感を胸に、ロイとルベス、二人は空いたままのドアから中に飛び込んだ。 予想通り、部屋には誰もいなかった。ただそこには、陽のものと思われる荷物と一 枚の紙切れだけ――― 「これで、やつがあっさり引いたわけが分かったな。」 暗殺者が引いたのは、アムの不意打ちを恐れたからではないだろう。そしてもちろ ん、剣と二人を諦めたわけでもない。彼・・・いや、彼らは人質を取ることで 非常時 に備えたのだ。あるいは、始めからこうするつもりだったのか――― 今更ながら、ルベスは見知らぬ町に陽を一人にしてしまったことを後悔していた。 ロイを放っておいた方が、まだましだったのかもしれない。彼女は唇を噛んだ。 「とにかく、宿の主人に話しておこう。あとのことは、明日また。」 「―――そうね。」 差し込む陽光も、清々しい朝風も、さえずる鳥の歌声も、二人の心には心地よくは 響かなかった。 テーブルに置かれた紙切れを手に取ってもう一度目を通したルビエスは、溜め息を 吐いた。紙には、いびつな字で次のように書かれていた。 『司祭を返して欲しければ、リフェモビリアの神殿へ来い。称神祭まで待つ。』 「・・・まったく、聖地に呼び出すなんて。」 「ルベス、入るよ。」 別室にいたロイが、まとめた荷物を持ってルベスを待っていた。 「行くしかないな、リフェモビリアへ。」 意を決したロイに、彼女も頷いた。そして腰のベルトに、鞘に入った二本の剣を挿し た。 宿屋の階段を降りながら今後の予定を話していた二人は、戸口のところに立つ少 女に気が付いた。 「あ、ロイ様、おはようございます!」 二人が声を掛ける前に、アムは駆け寄って来る。 「あ、アムさん・・・」 会うなり左腕を抱き締められたロイは、気圧されたようにそう言った。 「アムさんなんて、他人行儀な。アムって読んでくださいようっ!」 助けを求めて振り返ると、ルビエスはすでに精算をしに受付へ向かっていた。宿屋 の一階は食堂になっていたため、視線は二人に集まるばかり。逃げるように宿屋を 出ると、脇の通りでルベスを待った。 「おじさんにちゃんと言ってきたのか?僕たちはこれからブンガーを出て、リフェ・モ ビリアに行く。遊びに行くわけじゃないんだ。仲間が人質に捕られてる。安全なんか 保証できないんだ。」 しかし、ロイの説得に彼女は応じなかった。ふくれ面をするわけでもなく、だだをこね るわけでもなく、アムは真剣な表情で反論した。 「ロイ様、味方多い方が安全なのよ。ロイ様は、大切な使命を持っている。だから、 ロイ様は自分のことだけを考えていればいいんです。私になんか、気をつかわない でください。」 あまりにも真剣にそう言われて、ロイは気圧されたように呆然と彼女を見つめた。 「こんなところで何してんのよ?」 精算を終えて宿屋から出てきたルビエスに言われて、彼は困ったように頭を掻いた。 「私も連れていってくださいって、ロイ様に頼んでるんです!ルビエスさんも説得して 下さい!」 ルべスもやはり彼女の意見に目を丸くした。がしかし、ルベスは冷静に言葉を返し た。 「どうして私がロイを説得しなきゃならないの?」 「だって、貴女もロイ様に頼んで連れてってもらってるんでしょ?だったら、私の気持 がわかるはずだと思ったから。」 アムのその意見に、彼女は冷めた眼差しを向けた。 「私は、私の意志で旅をしてるのよ。ロイの許可を得るつもりも、ロイに付いていくつ もりもないわ。勘違いしないで。」 「じゃあ、私も連れいってくれなんて言わないわ。自分が行きたいと思うから行くの よ。それなら、ロイ様も文句言えないでしょう?」 間に入ったような形となったロイは、これからのことを想像して、深く溜め息を吐いた。 先が思いやられるなどとは、とてもではないが溢せなかった。 |