6.

「・・・すみません、この近くで―――」

迷子となった陽は、周りを歩いている人という人を捕まえてはロイとルベスのことを

尋いてていた。しかし時間は夕刻。通りを行き来する人は一刻の間に入れ替わる

ほどの数である。二人についての情報を得られなかったので、仕方なく陽は来た道

を戻ることにした。その後を場違いな風体の男たちが付いていることに、彼女は全く

気付いていなかった。



「それにしても、アムって料理うまいなぁ。・・・前にルベスが作ったときはとてもじゃ

ないけど―――」

「喧嘩売ってるの?」

「滅相もないです・・・」

そのままアムの家で夕食を済ませた二人は、宿の方に戻っていた。

「もう、ロイ様ったら、お世辞もうまいんだから!」

・・・そこになぜアムが付いてきたのかはよく分からない。本人いわく、“女の勘”だ

そうだ。

「アム、もう遅いから、家に戻った方がいいと思うよ。」

相変わらず二の腕に捕まる彼女に、彼は疲れたように言った。実際、店に入ったと

きからほとんどずっとくっついているので、それで疲れないわけがない。

「もてない男も辛いわね。」

「・・・・・・。」

相変わらずそっけないルベスに、言葉を返す気力も彼にはなかった。



大通りをそれて脇道に入り、しばらく行ったところで二人は立ち止まった。ちょうど、

彼等の宿のある通りであった。

時間が時間だけに人気はほとんどないが―――妙な気配を二人は感じていた。

「?・・・ロイ様?」

「いるのは分かってるんだ。出てきたらどうだ!」

誰にともなく、ロイはそう叫んだ。ルビエスも、いつでも術が放てるように辺りを警戒

し始めた。アムは、そんな二人のことを緊張した面持ちで交互に見つめた。

「さすが、英雄のガキだけのことはある。」

そう言いながら家々の影から出てきたのは、覆面をした黒装束の男・・・どことなく、

暗殺者を思わせる出立ちだった。

「狙いは何?」

簡潔に、ルベスがそう聞くと、男は目を細めて・・・おそらく笑ったのだろう・・・予想

通りの答えをした。

「命と・・・剣をもらう!」

言うなり、男は腰に帯ていた二本の短剣を抜き放ち駆け出した。

始めの狙いは、どうやらルビエスのようだ。

退くルビエスの脇からロイが槍を突きだしたが、暗殺者はいとも簡単にそれを跳ん

で交わす。

「ファイアボール!」

着地の瞬間を狙って放ったルベスの魔力炎は、剣圧による強風で掻き消されてし

まった。次の術を唱えるまでの間、一振りのセラミック ソードでどこまで持ち堪えら

れるか・・・戦慄に彼女の持つ剣の切っ先が揺れた。

「・・・っ!」

あまりの強い力に、受けたルベスはうめいた。それでもなんとか鍔ぜりあいをしなが

ら術を唱える彼女を、ロイが突きで援護する。男はもう片方の剣で槍を受け止める

と、そのまま後ろに大きく跳躍した。そして今度は標的をロイに変えて、剣を構えた。
踏み出したその勢いと、振り上げた剣を下ろす力とが収束されて、 風を生み出す。

―――いや、風などというものではなかった。

「クロス・ゲート!」

圧縮された空気が十字形の刃となってロイに向かった。刃の間をうまく交した彼だっ

たが、刃はまるで生き物のように動いて、ロイをその餌食にしようとしていた。

「ファイアボール!」

横からルベスが術で相殺しようとするが、刃の勢いは炎を掻き消すほどだった。

「うわっ!」

ロイは建物の影になんとか隠れてやり過ごしたが、代わりに攻撃を受けた宿屋の外

壁は鋭くえぐり取られていたそのまま受けていたら、おそらく二度と槍を持つことは

できなかったに違いない。

「ロイっ!」しかしルベスの行く手には暗殺者が待ち構えていた。

「それが、サイの剣・・・か。」

男は彼女の腰の鞘に収まったままの得物に目をやる。

「―――抜かんのか?」

嘲笑するかのごとく、彼はそう言った。彼女は一撃をセラミックソードで弾いた。

「・・・まあ、いずれにしても俺が手にいれることには変わらないがな!」

暗殺者の攻撃は途切れることはなく、ルベスにはそれを受けることしかできない。も

しもまた先程のような技を放たれれば、彼女に勝気はない。だか・・・このような町

中であの剣を使えばどうなるか。もし、自分で制御がきかなくなってしまったら―――

迷い、躊躇うルビエス。

と、そのとき。

「ルビエスさん、そいつから離れてください!」

戦いを見守っていたアムが、杖のようなものを片手に叫んだ。それにより一瞬男の

注意がそれた為、彼女は後ろに跳び、続けて術を放ってさらに後ろへ下がることが

できた。

「ファイアボール!」

「こしゃくな・・・」

炎を剣技で払うと、暗殺者はロイとルビエスを探した。

一方のアムは、迅速な動作でいびつな形の石を宙に放り投げ、杖の先でその表面

を突いた。透明な石の表面に火花のようなものが散って見えたのは、単なる目の

錯覚だろうか。それは徐々に光を帯ていく。

―――一瞬遅れた、閃光。

「・・・・・・ぐっ、なに?」

男の体を細い電光が貫き、体勢を崩した。

ロイとルベスは、それが石使いの力によるものだということを知った。魔力を放った

石は、次の瞬間には光を失って地面に転がったが、アムはすでに別の石を構えて

今にも術を放とうとしている。

「・・・くっ、ここは引いてやる。」

捨て台詞を残し、暗殺者はいずこかへと走り去った。





[BACK]  [TOP]  [NEXT]