3. ルベスは前で獣を操っている陽に、話しかけた。 「・・・貴女はなにものなの?格好からみて、旅人じゃあないみたいだけど。」 「私は、ラインハルト城でディクリウス教の司祭を勤めさせていただきました。3年前の ことです。」 「その貴女がなぜこんなところに?」 「彼らのことを知ったからです。」 「・・・彼ら?もしかして、刺青男たちのことか?」 ロイが、そう問い返す。 「ええ。調べでは、彼らは世界の様々な組織の集まりで、背後には世界征服をもくろ む者がいるようです。もっとも、それ 以上のはっきりしたことは分かっていませんが。」 「・・・彼らはなぜ僕らを?」 「おそらく、あなた方の調査が彼らにとって不都合なのかと。」 「でも、神官については神官学者の方が詳しいはずだわ。私たちを抹殺しても・・・」 神官については、神官学者と言われる専門家たちが研究している。彼らは諸国を巡り 、 神官についての情報を日々集めている。神官学者は、その学識の程度によりグレ −ドと呼ばれる位に分けられる。その最下位であるグレ−ド1にも入らないロイとルベ スを抹殺することに、何の意味があるのか彼女には分からなかった。 「私にも、その辺のことは分かりません。ですが取り合えずは、身の安全を守ることを 優先すべきだと思い、ブンガ−の方へ飛ばせています。」 「・・・ミンザを越えるのね。」 「ええ、今日中にも着くと思います。おそらく彼らも気付いていないはず。」 「―――陽さん、あの・・・」 ロイが気まずそうに言った。 「なんです?」 「さっき、大きな声でブンガ−へ行くって言ってましたけど ・・・あの辺りに彼らはいな かったんでしょうか。」 「・・・・・・できるかぎり早く着いた方がいいみたいですね・・・。」 一拍の間を置いた彼女の答えに、 二人は返す言葉がなかった。 「ところで、こいつはなんて言う生き物なんですか?」 景色に飽きたロイは、眠っているルビエスを起こさないように陽の肩ををつついた。 「ヒポグリフです。たまにグリフォンと間違える方もいますけど。私はディクリウス教の 司祭でしたから、翼を持つ動物を支配下に置くことができるんです。」 少し考えて、ロイは尋いた。 「じゃあ、竜や天使も呼んだりすることができるんですか?」 その質問に彼女は苦笑した。 「今の私の力では無理ですね。 優れた司祭の中には、呼ぶことができる方もいたよう ですけど・・・実際お目にかかったことはありません。」 「そうなんですか。」 少しがっかりしたようなロイの返事を聞いて、陽は付け加えた。 「でも、妖精くらいなら私でも召還できますよ。」 「・・・でも、妖精は翼が。」 「要するに、空を飛べるものならいいみたいですよ。・・・ディクリウス教については、ど のくらいご存じですか?」 陽の問いに、ロイは頭をかきながら答えた。 「え−と、翼を持っている生き物 がもっとも自由を満喫しているとか・・・」 「ええ。そこから展開して、空を自由に行けるものたちを崇拝することで、自らの心の 束縛が解け自由に生きること ができるようになる、という教理です。」 「だから、翼じゃなくてもいいんですね。虫も妖精も、空を飛べるから・・・」 ロイの言葉に彼女は頷く。 「でも、ど うして陽さんは司祭を辞められたんですか?3年前ということは、前王がま だ在任しておられたはずです・・・」 「現王だから辞めたというわけではないんで す。例の刺青男たちの城内侵入というこ ともありますが・・・・・・ロイさんは、宗教の存在する理由はなんだと思いますか?」 彼の表情が少し真面目なものに なった。 「―――それは、”生きる支え”なんじゃないでしょうか。」 陽はなにも言わず、ただ頷いた。それが肯定の意ということを彼は汲み取り、言葉を 続けた。 「人は、・・・人という存在は、とても脆い。いくら意志の強い人だって、生きることの意 味を見失うことがないわけじゃない。無力な人はなおさらだ。だから、”教え”を信じて 生きていくのではないでしょうか?」 ロイにしてはまともな意見だと、目を閉じたルビエスは心のなかで呟く。 「私も、そう考えています。・・・でも、前王 は、ディクリウス教の普及を目指されました 。宗教とは、自由に選択されるべきもの。自然に広がっていくことが、その本来の姿な のだと思います。王の行為が好きになれなかったんです。」 「だから、国を出奔することにしたんですね。」 「・・・それも、もう3年前のことになりました。時が経つのは早いもので す。」 会話はそこで途切れたが、ルビエスの思考は途切れなかった。 人は、なぜ神聖なものを崇めるのだろう。 なぜ自分よりも力のあるものに救いを求めるのだろう・・・。 そうすることで、必ず願いがかなうという保証があると いうわけでもないのに。 ―――けれど。 ふと、ルベスは目を開けた。 「あ、なんだルベス、起きてたのか。」 自分も以前は何かを信じていなかっただろうか。 その視線が、光のセンタ−ポ−ルを捕らえる。 ―――神官。 自分と同じ青い瞳を持つ者。 青い瞳・・・それはこの世界では珍しく、神官の他に有名な予言師の一族である”扇” 氏もそれを持つと言われている。 自分も青い瞳だからと、重ね合わせていなかっただろうか。 そう思い、信じることで、自身を強い存在だと言い聞かせていなかったか・・・。 そして、今も。 「ルベス、どこか具合でも悪いのか?」 「・・・大丈夫よ。」 眥が妙に熱く、陽の光がとても目に眩しくルベスには感じられた。 |