2.

いつしか日は傾き空は紅色に染まったが、馬車が街道を通ることはなかった。

鳥が群れをなしてセンタ−ポ−ルの向こうに消えた。

「馬車、通らないね、ルベス。」

「・・・私に言っても何の解決にもならないわ。今日はどこに泊まろうかしら・・・」

溜め息を吐いてロイは近くの岩の上に腰を下ろした。その横に、荷物を置く。

「やっぱり木の上が一番安全だろう な。」

「マレアロの木があると一番いいんだけど・・・」

言って彼女は周りを見渡した。

マレアロとは、背の高く、尚かつ枝がいっぱいに生い茂っている木で、 彼らの故郷であ

るフレイン村に沢山生えていた。昔その木に登ってよく遊び、その度にロイがフィアレ−

トに怒られていたのを彼女はよく覚えている。

ルベスも 疲れて腰を下ろしたとき、ロイの肩の上のレミングが跳ねて茂みの奥へと消

えてしまった。

「あ、こらっ、待て!」

それを追って茂みに入ろうとするロイをルベスは制した。

「だめよロイ。やたらに歩くと危険だわ。」

「分かってるけど、でも、何かを見つけたのかもしれない。」

「けど―――」

「大丈夫だよ。見つけたら戻ってくる。それまでここで待ってて。」

「ちょっと、はぐれたらどうするのよ。待ちなさいってば。」

二人は道を外れて茂みの中に入った。だが、茂みを抜けた先が海に続いているとは誰

が予想しようか。二人は崖の縁にたどり着くまで歩くこととなる。

「おい、どこまで行くんだっ」

「ちょっと、あんまり行くと街道に戻れなくなるわ!」

「どっ・・・!?」

茂みを抜け、そこで休んでいるレミングを捕まえようとしてロイは、勢いあまって崖の手

前で頓いた。そしてそのまま身を投げ出すような姿勢となった。

彼の眼下に、青々とした海が迫る。

「ロイっ!!」

辛うじて、ルベスはロイの手を取った。そのまま全体重をかけてロイの手を引くが、彼女

ひとりの力ではおぼつかない。

「ルベス、離すんだ。お前の体重じゃあ、僕を支えきれない。」

地を踏み締める足が、崖縁の岩塊をわずかに落とした。手を離すことは簡単だ。そして

それは彼女にとってもっとも安全な策である。けれどもその代償は大きすぎる。

様々な思考がルベスの頭の中を巡る。

その時、背後の茂みが動く音がした。それが振り返るルベスの気を一瞬そらした。

茂みから出てきた女の姿を確認できたのも束の間、次の刹那、崖の縁が崩れ落ちた。

冷静な彼女だが、悲鳴をあげてしまうのも仕方のないことであろう。

眼下の海の色が恐ろしいほどに澄んで見えた。

「ヒポグリフ!」

頭上のほうで微かな声をルベスは聞いた。

状況が一転したのはその直後である。

鳥の羽毛が目の前を過ぎ、二人は何かに掬い上げられるような感じを覚えた。

「なっ、何?」

「鳥っ!?」

それは上半身が鳥、下半身馬が馬という奇妙な生き物であった。それは宙で数回羽ば

たくと、崖の上 にいる女の目の前に着地した。

茫然とする二人に、女は微笑みかける。

「空の旅もなかなかでしょう?」

背の高い・・・ロイよりも高いだろう・・・、黒髪のまだ若い女だった。おそらく、ロイたちと

さして変わらない年齢であろう。服装から、旅人ではないことが伺えた。

「・・・貴女は?」

奇妙な生き物から降りること も忘れて、ルベスが問う。

「私は、陽=アンスバッハ=伽羅と言います。陽と呼んでいただいて結構ですよ、ルビ

エスさん。それに、ロイさん。」

「どうして、 僕たちのことを・・・」

「色々、噂は聞いています。神官に関する情報を集めているということ、闇の大陸に渡

るつもりだということ、それに、あなた方を葬る ためにラムリリ−スを刺青男たちが包囲

しているということ。」

ロイとルベスは顔を見合わせた。

「・・・どうしてあいつらが、ラムリリ−スへ行くことを知っているんだ。」

「手回しが良すぎるわ。・・・まさか、城の中にもあいつらの仲間が・・・」

そうなると、ことは深刻である。城内の関係者に刺青男たちがいるとすると、ロイたちが

何処へ向かっているなどの情報は簡単に彼等に伝わってしまうだろう。奇襲を受けるこ

とも当然多くなるはずである。

「取り合えず、ブンガ−の方へ行ってみましょうか。」

これからのことを考える二人に、陽は声をかける。

そしてロイのレミングを肩に乗せると、獣に自分も跳び乗った。

「しっかり捕まっていてくださいね。」

「・・・え?」

「あの、私たちは・・・」

二人の異見も知らぬげに、彼女は獣になにごとかを指示した。獣は了解の意を表すよ

うに低く唸ると、両の翼を広げ力強く地を蹴った。そのまま、先ほどまでいた崖が眼下に

小さくなっていく。

「ひゃ〜、すっごいいい眺めだな!なあ、ルベス!」

「あんまりはしゃがないでよ。落ちてもしらないから。」

浮かれやすいロイに、ルベスは振り返って釘をさした。





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