21.

 部屋に戻ったロイたちは、これからの作戦を立てることにした。部屋の外では、混乱した

人々の叫び声や、喧騒が耐えない。

ロイたちは、焦らず、できるだけ冷静に考えることにした。

「まずは、はっきりしていることです」

現状を冷静に認識するために、リリーはこう切り出した。

「海賊船は、この船に迫っています。今、船の操縦は放棄されていますから、おそらく、あと

一刻・・・早くて半時ほどで追いつかれます」

「船内の状況は・・・最悪だな。とてもじゃないが、僕たちだけじゃあ抑えられない」

室外の状況に、ロイは頭を抑えながら言った。

「まだ、抑えられないと決まったわけではありません。先を急がないで。・・・ロガシスの狙い

は、この船です。噂を聞く限りでは、そこまで非道なことはしていないようなので、積み荷は

取られても、人命まで取られる可能性は低いでしょう」

リリーの言葉に、アムは少し考えて言った。

「・・・ってことはロイ様、もしかしたら彼らはこの船を攻撃しないかもしれないわ」

彼女の意見には二人も頷いた。

「確かにそうかもしれません」

「うん。ロガシスは、この船そのものを手に入れたいんだ。だから、傷をつけたいわけがな

い。・・・それに、この船には船長であるロガシス自身が乗ってるんだ。部下は迂闊に攻撃

なんてできない」

「あるいは、部下が他のものに手を出さないようにするために、ロガシス自らこの船に乗り

込んだのかもしれません」

だとすれば、かなり計画的な犯行だということになる。そんな彼らに、付け焼刃のこちらの

作戦が太刀打ちできるのだろうか。

「でも、彼らは私たちをどうするつもりなのかしら。この船を乗っ取ったら、私たちは・・・・・・」

「海賊船と交換・・・・・・ということになるのかな、もしかして」

苦笑いをしながら、リリーは決してありえなくはない可能性を冗談めかして言った。

「そんなっ。だいたい、なんで私たちがそんな目に遭わなくちゃならないの?お金を払って

るのはこっちなのに・・・・・・ねぇ、ロイ様!」

ロイも、アムと同じ気持ちだった。確かに、船長たちは乗客からお金を受け取って、彼らを

運んでいるのだから、それを放棄することなど許されることではない。だが・・・・・・一方で、

その考えを疑問に思うところもあった。

「そう・・・だねぇ・・・・・・」

リリーは、控えめな返事を返した。その様子は、必ずしもアムに同意しているわけではな

いようにロイには見えた。だが、リリーが話題を元に戻したので、それ以上ロイは考えるこ

とができなかった。

「僕たちがもしもロガシスだとしたら・・・・・・どうやって乗客たちを処分するだろう?」

「一緒に連れて行って・・・・・・どこかの人道者にお金でも請求するかしら?」

「もしも殺すんだったら、きっと自分の船ではやらない・・・と思う。どこかで降ろして、そこで

処分するかな」

二人の意見を聞いて、リリーは深く頷き自分の考えを言った。

「つまり、攻めてきたとしても、すぐには処分したりはしないということだね。ということは、そ

れまで僕たちは作戦を実行することができると言うことです」

二人の顔が引き締まった。

「ルビエスさんは人質です。ということは、乗客たちの言うことを聞かせるために、部屋に監

禁しておくよりも、ロガシスが連れて行く可能性の方が高いでしょう。つまり、船が合流する

とき、あるいはその直前が、チャンスです」

「でも、仲間の船がいるんじゃ、私たちがロガシスを攻撃しても勝てっこないわ」

ルビエスを助けるにはその時が一番のチャンスだが、決して良いチャンスだというわけでは

ない。その時しか、ないということだった。ロイは考えていた。

「戦うことが最善とは限りません。僕たちがしなければならないのは、ルビエスさんの救出

だけじゃないんです。・・・僕たちを含めた、乗客全員の安全の確保なんですよ」

「じゃあ、いったいどうすればいいの?黙ってやられなきゃならないって言うの?」

「そうじゃない―――」

戦うことがすべてではない・・・・・・そう、彼らが動けば、きっと他の乗客たちも戦い始め、無

用な血が流れることとなる。この、聖女の船で。

ロイは、しばらく二人の会話に加わらず、一人で考え込んでいた。そして、リリーとアムの

会話が口喧嘩に発展しそうになってとき、静かに・・・だが強く言った。

「・・・・・・ここは、僕に任せてもらえないかな」

二人はロイを振り返った。そして彼の、場違いなくらいに柔和な表情と、碧の双眸の放つ強

い光に見とれて、二人は言葉を失くした。

ロイが、いったい何を考えているのかはわからない。しかし、その言葉の力は二人の心を落

ち着け、その表情から言葉にはできない力強さを感じさせ、安心させた。これが、英雄の血

のなせる業なのだろうか。

二人は、ロイを信じることにした。

 その時だった。船が大きく揺れたのは。

「砲弾だ!しっかり捕まれー!」

「男は武器を、武器を取れー!!」

「海賊船を追い返すぞー!」

いっそう強くなる人々のざわつきの中から、戦いを呼びかける声が聞こえてきた。どうやら、

近づいた海賊船が威嚇のために大砲を撃ってきたようだ。威嚇ではなく、それを攻撃と捕

らえた乗客たちは、無謀ではあるが戦おうとしているのだ。

三人の表情が引き締まった。

「とうとう、来たようですね」

「ロイ様、私たちも船の見える甲板へ急ぎましょ!」

ロイも頷き父から貰った槍を手に取ると、意を決したように部屋のドアを開けた。





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