20.

少し遅れて、アムとリリーも部屋の中へと戻った。

「いったいどうしたの?ロイ様」

ロイの不可解な行動に二人が立ち尽くしている前で、彼は置いてあった二つのベッドのう

の一つを動かした。壁から少し離して隙間を覗き込む、こっちじゃないと、彼はもう一つの

ベッドを振り返った。それで、二人はようやくロイのやりたいことを理解した。

「手伝うよ、ロイ君」

ロイとリリーでもう片方のベッドを動かすと、再び、あの小さな扉が見つかった。

「ここから行こう。いまならまだ間に合うかもしれない」

そう言うと、ロイは壁に固定しておいた自分の槍を手に取った。

混乱した人々を押しのけて廊下を行くよりも、この非常通路でストレートに行く方が早いの

は明白だ。ましてや、ロガシスに見つかるのはまずい。リリーとアムも頷いた。



 非常通路の先は、やはりあの船のある場所だった。行き止まりのところには、下へ降り

る梯子が架かっていた。

「まだ船があるわ!」

最後尾を走っていたアムが叫んだ。一番前を走るロイにも、勿論船があるのは見えたのだ

が、問題はそこに、船員たちが乗っているのも見えたことだった。アムの声に、船員たちも

こちらに気がついたらしい。急いで船を出そうとしているのが、目に見えてわかった。

ロイは、梯子を3段飛ばしにして駆け下りた。

「何やってるんだ!この船はどうするつもりだ・・・!」

ロイの言葉に、船員たちは薄ら笑いを浮かべてこちらを振り返った。だが、船を出す準備の

動きは止まらない。

「答えろ!この船を・・・乗客たちをどうするつもりなんだ!」

再度の呼びかけに、中から、出航前に甲板で見た船長が姿を現した。

「船はお前さんたちにくれてやる。我々は命が惜しいからな。・・・・・・だが、安心しろ。奴ら

の狙いはこの船だ。お前たちの命までは取らんだろうよ」

なんということだ。

彼らは、船と乗客を見捨てて、自分たちは海賊の手を逃れようと言うのだ。

船長の話から、ロガシスがどうやら、この船を狙っているというのはわかった。だが、それ

では残された乗客たちはどうなるというのだろう。確かに、ロガシスの狙いが乗客たちの命

でない以上、彼は命を奪うということはしないだろう。だが、仮にも彼らは海賊である。自ず

と、結論は見えた。

「私たちを、ロガシスに売ったのね!」

アムは、自分の杖を構えながら叫んだ。

「お前たちに、この船を売っただけだ!」

―――船員と安全という、あまりにも大きすぎる代償と引き換えに。

「それでも、貴方たちは船乗りなんですか!?」

リリーが、船員たちを説得しようと心に訴えかけたが、それも届くはずはない。この船の船

員たちは、もう随分前から堕落していたのだ。

「止めても無駄だ。お前さんの力じゃ、我らを止めるには弱過ぎるよ」

行かせるまいと、実力行使に踏み切ろうとしたロイに、船長は釘を刺した。確かに、相手は

いかな堕落しているとはいえ、屈強な体つきの男たちばかりだ。槍遣いでも、まだ実力は

見習いに近いロイには、せいぜいが一人を相手をするのが手一杯だろう。アムの援助攻

撃があっても、その状況に大差はない。

「ロイ君、無茶なことを考えてないよね?」

無言のまま、ロイは自身の槍を構えた。―――父ライから譲り受けた槍だ。

「ロイ様、私、援護するわ」

「駄目だ!駄目だよ!」

杖を構えて攻撃の準備をするアムに、リリーは待ったをかけた。

「ロイ君!いくら君が槍に自信があっても、相手が多すぎます。僕たちだけじゃ止められな

い!わかっているでしょう!?」

「じゃあ、どうすればいいんだ!」

こうしている間にも、船員たちは小型船の錨を上げる作業をしているというのに。

飛び出そうとするロイの肩を、リリーは掴んだ。その手を、ロイは無理やり引き剥がそうとし

た。リリーは言う。

「今はルビエスさんを助けるのが先なんですよ!?彼らを引き止めることができても、彼ら

がルビエスさんを助けてくれるとは到底思えません。どうせまた、逃げ出そうとするだけで

す!だから、ここで無益な戦いはしないでください、ロイ君!」

リリーの言葉に、アムは杖を下ろした。

リリーの言うことはもっともだった。確かに、勝てる見込みはない。もし勝てたとしても、それ

で彼らの意識が変わるわけではなく、海賊船が来てもおそらく乗客のために戦おうとはし

ないだろう。

「ロイ君・・・・・・落ち着いて、考えてください」

リリーの説得に、怒りを抑えたロイはようやく槍を下ろした。

 三人の前で、小型船はすべて船を出て行ってしまった。その船長や船員たちの顔を、絶

対に忘れないと、ロイは心の中で固く誓った。

「これから、どうすればいいの・・・」

アムが、弱々しくそう呟いた。海賊は、おそらくまもなくこの船にやってくる。戦いは、これか

らだった。

「とにかく、部屋に戻りましょう。幸い、ロガシスの目的はわかりました。これからの作戦を

考えましょう」

船が出て行った先の、その青々とした海の遥か向こうを、ロイはじっと見つめていた。そし

て、どこまで自分は無力なのだろうと、俯いた。





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